大文字伝子の休日18改

クライングフリーマン

『逃げるんですか』

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。

 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。蘇我と結婚した逢坂栞も翻訳部同学年だった。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。

 南原蘭・・・南原の妹。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 山城順・・・伝子の中学の書道部の後輩。愛宕と同窓生。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。結婚後退職していたが、現役復帰して旧姓の白藤を名乗っている。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。

 福本(鈴木)祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。後に福本と結婚する。

 逢坂栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。美作あゆみ(みまさかあゆみ)というペンネームで童話を書いている。

 高峰くるみ・・・みちるの姉。

 高峰圭二・・・くるみの夫。元警視庁刑事。

 江南(えなみ)美由紀警部補・・・ドッグトレーナー。警視庁警察犬チーム班長。

 青木新一・・・Linenを使いこなす高校生。

 中山ひかる・・・愛宕の元お隣さん。アナグラムが特異な高校生。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==


 午前11時45分。大文字邸。中庭。

 江南が犬のジュンコに餌をやっている。編集長山村が覗いて、「それが上等のご褒美の餌ね。何肉かしら?」「さあ。でも、上等の肉ですよ。」と江南が応えた。

 リビングルーム。EITO用のPCルームは、実は普段一面パネルとして使っている壁は可動式で、動かして片付けると、リビングルームが一気に広がる。

 今朝、理事官とミーティングをした後、高遠と伝子で片付けた。そして、用具入れから、ワゴンとベンチを運び込んだ。

 パーティションカーテンを片付けた台所では、藤井と森、高峰くるみ、大田原文子が割烹着を着て、料理の準備をしている。殆どの来客はもう座っている。

 物部と栞が入って来た。「いい匂いだなあ。」「油淋鶏(ユーリンチー)ね。金一封だけじゃ足りないんじゃない?伝子。」

「ヘソクリの大放出ですよ、逢坂先輩。」と高遠が言った。料理人4人が配膳を始めた時、伝子は言った。

「興味ある者もいるだろうから、今回の事件のおさらい。黒幕は、前回と同じ『死の商人』ハン・京子。4人の巡査は城田巡査を監禁。本庄病院の燻製の炉に時限装置と一緒に、眠らせておいた城田巡査を放り込む。4つの現場に赴き、トイレで素早く時限爆弾を自らセット、看護師を捕まえて、騒ぎを起す。そういう段取りだった。4人は洗脳ではなく、弱みを握られて実行に移した。洗脳の技術で家族を人質に取られた、と思い込まされていた。見張り役の4人も同じくだった。こちらは民間人だったが、爆発を恐れながらも家族を守る為、と思い込まされていた。ハンは、5番目の病院まで未然に防ぐことは考えていなかった。なお、城田巡査は4人の巡査に呼び出されただけで、『死の商人』に弱みを握られていた訳ではなかった。それから、城田巡査は記憶喪失になっている、らしい。というのが、理事官から聞いた内容だ。」

「やはり、警察の不手際や信用失墜が目的だったのね。許せないわ!!」とあつこは握っていた箸をへし折った。

 高遠は、慌ててあつこに代わりの箸を渡した。

「次は自衛官だわ、きっと。」「自衛官の信用失墜かい?」なぎさの言葉に、なぎさの婚約者一ノ瀬が尋ねた。

「一番憎いのはEITO。直接叩けないから、絡め手で、つまり外堀の警察と自衛隊から崩そうという企み・・・かな。」とひかるが言った。

「今日も冴えてるね、ひかる君。」中山ひかるの隣に座っている青木が言った。

「考えてみれば、いや、考えなくても、ひかる君や青木君には随分とお世話になっているわね。」とみちるが言うと、くるみが「あなたにしては上手なコメントね、みちる。」と、言った。

「失礼ね、お姉ちゃん。まあ、否定は出来ないけど。」「褒められたんだから、素直に喜べばいいんだよ。ねえ、お義兄さん。」と、愛宕が高峰に言った。

「そうそう。俺なんか滅多に褒められない。自業自得だけど。」と高峰は自嘲した。

「まあ、みちるの言う通り、私も学も、知恵が必要な時にいつも頼っている。ありがとう。」と、伝子はひかる達に頭を下げた。

「Linenのネットワークで助かった事件多かったよね。」と、高遠が言った。

「ん。んん。」と依田が咳払いをした。「無論、ヨーダ達が事件解決に貢献したことも多かった。」と、高遠は気を利かせた。

「なあに。今日は、反省会?総集編?」と編集長が言うと、「あ。何か総理がしゃべってる。」と、ついているテレビの音を、祥子がリモコンでオンにした。

「だから、先般の事件については、今夕記者会見が行われます。私は詳細を知りません。副総監から聞いて下さい。」と市橋総理は『業を煮やした』感じで言った。

 会見は終り、総理は引き上げて行った。その総理の肩越しに、食い下がっていた女性記者は「記者会見が管理官ごときでは、荷が重いのでは?」と質問を投げかけた。副総監という言葉は聞き逃したようだった。

 会見会場は、静かになった。伝子が、「服部。ビデオに切り替えて、10分くらい巻き戻してくれ。」と言った。

 服部が操作をして、会見の途中の映像が流れた。「日本の警察の警察官は、皆テロリスト候補なのですよね。」「今回の会見は、流行病の対応についての法案審議について、お知らせしたいだけです。事件についての詳細は、今夕、警視庁から記者会見があります。」

「警察のことは、政府にも管理責任がありますよね。」「何をおっしゃりたいのか分かりません。」「逃げるんですか?初の女性総理としての意見コメントを頂きたいのです。」

「だから、先般の事件については、今夕記者会見が行われます。私は詳細を知りません。副総監から聞いて下さい。」

「もういい。服部ビデオ止めて。祥子、テレビ消して。」「伝子さん、箸折らないでよ。あまりストックないし。」

 高遠の言葉に、皆笑った。「さあ、食べよう。」

 宴は4時間に及び、EITOのメンバーもDDのメンバーも三々五々帰って行った。

 だが、なぎさとあつこだけは残った。それぞれのパートナーは先に帰した。

「おねえさま。」黙っていた二人が同時に伝子に向いて話しかけた。

「私たちは、やれることをやっている。多分、夕方の副総監の会見でも言及がある筈だ。テレビは、総理の英断で電波オークションをしたから、あまり攻撃的ではない。だが、新聞や週刊誌は違う。バッシングの嵐だ。最初は資金面のことだけだった。我々がコスプレしていることにも批判がある。他のヒーロー・ヒロインの衣装の方がいい、位の批判ならいいが、那珂国の侵略はフェイクで、EITOの自作自演だろう、と言う者もいる。EITOのメンバーの素顔は知られてはいけない。それは、映画やドラマのヒーロー・ヒロインと同じだ。世間に知られると興味本位でメンバーを追いかけ、任務の邪魔をする。彼らが主張する『知る権利』も『報道しない自由』も本来存在しない。妄想だ。我々は現実の事件に立ち向かっている。例え未然に防ぐことは出来なくとも進まなければいけない。やれることをやるんだ。」

 どこからか、拍手が起こった。物部と筒井、そして、草薙だった。

「草薙さん、副部長。帰ったんじゃなかったんですか?」と高遠が言うと、「忘れ物を取りに・・・って見え透いたことは言わないよ。」「どうも気になってね、総理の会見見た後での、お二方が。」と、物部、草薙が言った。

「俺は・・・無視か?」「ああ。筒井さん、いらっしゃい。残り物で良ければ・・・。」と、高遠が言いかけると、「それでいい。すまんな。昼飯取り損なってな。大文字。成長したな。」と、筒井は言った。

「1ミリも伸びていないぞ。」と伝子が言うと、筒井は笑った。

「知ってる。」筒井は猛烈に食べ始めた。

「大文字。みんなお前を愛している。俺もだ。」「気持ち悪いこと言うなよ。」

 伝子と物部の会話に高遠が割って入った。「みんな、伝子さんを信頼しているってことですよ。」

「知ってる。なぎさ、あつこ。これからもついてこい!」「はい!!」二人は元気よく応えた。

 EITOのアラームが鳴った。「物部、草薙さん。片付け手伝って!」伝子は叫んだ。

 伝子と高遠は急いでモニターの壁を用意し、物部と草薙となぎさとあつこは、臨時会場に設えたワゴンとベンチを片付けた。それとなく見ていた筒井は食べ終えて、台所のパーティションカーテンを元に戻した。

 高遠がスイッチを入れると、理事官の姿が映った。

「変わったメンツだな。先ほど、ホテルの一室が爆発した。爆風で落下した宿泊客が、昼間、総理に噛みついていた、おんな記者だ。ベースゼロに集合してくれ。」

 大文字邸に泊まる予定だった、なぎさとあつこは荷物を取りに戻った。

 なぎさとあつこと草薙と筒井は、伝子に続いてオスプレイに乗る為、通路を走った。

「高遠、腕上げたな。ごちそうさん。」と筒井は言い残した。

 高遠は、火打ち石を打った。

「お前、時代劇みたいだな。どこで買ったんだ?」

「百鈞ですよ、副部長。」

 ―完―








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