51話 束の間の休息
――そうして連れてこられたのは、学校から少し歩いたところにある小さなゲームセンターだった。
「暇があればよくここに遊びに来るんだ」
店内に足を踏み入れたところで、凌空が口を開く。
話を聞くに、凌空は放課後や休みの日によく友達と一緒にここへ来ているらしい。
様々な種類のゲーム機を揃えているにも関わらず港から離れた場所にあるため、知る人ぞ知る穴場スポットだという。
今日が平日ということもあってか、店内には殆ど人がいなかった。
「……そろそろ腕を開放してもらえるか?」
「開放したら逃げるだろ」
……どうしてわかったし。
「なんでお前と一緒に遊ばなきゃならない」
「今日、周りの友達みんな部活やら文化祭の準備やらで忙しいから暇してたんだよ」
「知るか。お前一人で遊べよ、わざわざ俺を巻き込むな」
「ゲームセンターに一人で来るとかそんな悲しい話があるか?」
「それこそ知るかよっ」
「そんなこと言わずにさ〜、頼むよ〜」
猫なで声で媚びる凌空に若干の気持ち悪さを感じ、俺は眉を潜めながら上半身を遠ざけるように反る。
教室を出る前の会話から察するに、凌空が俺を遊びに誘った口実は嘘なのだろう。
仮に本当だとしても、口にしていないだけで俺のことを気にかけてくれていることは明白だ。
それならいっそのこと凌空に助けを求めてしまいたい。
でも凌空とはイヴほど親しい間柄じゃないし、そうなってしまえばさらに深い関係を築くことになってしまう。
でももはや人を選べるほど、一人で耐え抜けるほど、俺の心に余裕はなかった。
でも……でも……と逡巡していると、うるさい店内に一つの声が響いた。
「あれ、凌空じゃないか!」
店の奥から現れた中年の男性が、明るい表情を浮かべながら凌空の名前を呼びこちらへ歩み寄ってくる。
「お久しぶりっす、おじさん」
「お前、文化祭の準備はどうしたんだ?」
「今日は休みになったんすよ。だから久々にここで遊ぼうと思って」
「それに、なんか見ない顔を連れてるじゃないか」
中年の男性が凌空からこちらへ視線を移してきたため、俺は軽く会釈をする。
「こいつは櫂修斗。新しくできた友達っす」
「そうだったのか……俺は
「……櫂です」
一応、社交辞令として挨拶するも、負い目を感じて視線を逸らす。
……また新たな人と関係を持ってしまった。
「で、今日は文化祭の準備が休みだから、櫂君とここに遊びに来たと」
「はい、そうです!」
「お、俺は遊びに来たなんて一言も……!」
「そうかそうか。櫂君、凌空はちょっとばかしうるさい奴だけど相手頼むな」
「だから、俺は遊びに来たわけじゃ……」
「んじゃあそういうことで、そろそろ失礼します!」
「お、おい! ちょっと、引っ張るな!」
どうやらここの店長は空気の読めない人らしい。
それか事前に凌空と話をつけていたのかも分からないが、俺は笑顔の栗原さんに見送られながら凌空に連れて行かれる。
「俺を巻き込むなって言っただろ」
「でも今から出て行ったらおじさんに止められるんじゃないか? もっと遊んで行けってさ」
「お前、やっぱりそのつもりで……」
「いいから付き合ってくれって。おっ、今日はこれで遊ぼうかな」
俺の方には目もくれずに歩を進める凌空に連れてこられたのは、銃を使って敵を倒す箱形のシューティングゲーム機。
凌空は俺の腕を話してゲーム機の中に入ると、財布から取り出した百円玉を何枚か入れておもちゃの銃を手にした。
「ほら、修斗も銃を持てって。始まるぞ」
そう言って、久々に俺へ視線を向けた凌空。
俺は少しの間立ち尽くした後、大きなため息を吐いた。
「……少しだけだからな」
「サンキュー。修斗ならそう言うと思った」
「お前は誰なんだよ」
軽くツッコミを入れながら凌空の隣に立ち、同じくおもちゃの銃を手にする。
「んで、これはどうしたらいいんだ?」
「銃口を向けたらスクリーンに照準マークみたいなのが表示されるから、それを敵に合わせて打つ」
「なるほど」
「というか、こういうの初めてなのか?」
「こういうのというか、そもそもゲームセンターに来ること自体初めてだ」
「マジかよ!?」
そんな雑談を交わしているうちにゲームは始まった。
凌空に教わった通り、試しに敵に照準を合わせて引き金を引いてみる。
するとエフェクトとともに敵が赤く点滅したものの、すぐさま敵はまたこちらに向かって近づいてきた。
「当てても倒せないんだけど」
「何回か当てるんだよ! よくあるだろ、RPGゲームの敵に体力ゲージがあるみたいな!」
「あーるぴーじーげーむってなんだ?」
「いいからとにかく敵を倒して!?」
敵を倒すのに必死なのか、さっきより語気が荒い凌空。
あまり納得いかないが、とにかく言われた通り敵を倒すことに専念する。
しかし戸惑っている間に敵に攻撃されすぎたせいか、初回はすぐにゲームオーバーになってしまった。
「……本当にゲームを知らないんだな」
凌空に複雑な目で見られている。
“お前は本当に男子高校生なのか?”と言わんばかりに。
「いや、でもこのゲームのコツは掴めてきた気がする」
「本当か?」
「あぁ、次で決める」
「なんかカッコいいこと言ってるし……じゃあ、もうワンゲームな。それが終わったら、ほかのゲーム遊ぶぞ」
「分かった」
凌空が筐体に再びお金を入れると、すぐさまゲームが始まる。
先ほどのプレイで敵が何発で倒せるのか、どのくらいの速度でこちらに向かってくるのかなどを把握できたおかげか、二回目はスムーズに敵を倒せた。
それどころか……。
「あっ、おい! 俺の敵取るなよ!」
「なら俺よりも早く敵を倒せよ」
「このっ、クソが!」
上達しすぎたのか、自分に向かってくる敵を倒すだけでは飽き足りなかった俺は凌空の敵まで倒していた。
そうしてゲームは難なくクリアし、さっきまでピンピンしていた凌空はすっかり項垂れてしまった。
「俺、修斗の半分も敵倒せてねぇ……」
「下手なんじゃないか?」
「うるせぇ! こうなったら、今度は俺の得意なレースゲームで勝負しようじゃねぇか!」
「望むところだ」
意気揚々とゲーム機を出ていく凌空について行く。
気づけば、俺の口角は上がっていた。
イギリスから来た金髪美少女を助けたら、何故か一緒に日本語を勉強することになりました〜素っ気なくしているのについてきます。誰か助けて下さい〜 れーずん @Aruto2022
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。イギリスから来た金髪美少女を助けたら、何故か一緒に日本語を勉強することになりました〜素っ気なくしているのについてきます。誰か助けて下さい〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます