第4話 彼女様のお出迎え ぱーと2

   ◇◇◇


 キーンコーンカーンコーン。

 教室に昼休みを知らせる鐘の音が響いた。


 加賀が来てから僕は非常に居づらい時間を教室で過ごした……。

 いや本当に……クラスメイト達にずっと好奇の目でチラチラ見られるのは精神的に堪える……そのくせ話しかけてこないし……


「気になるけど、あいつに話しかけるのは抵抗がなぁ……きもいし」という、心の声が聞こえてくるようだ……。


 僕とクラスメートたちの間にどれだけ溝があるんだよ……さすがボッチ。


 まあ、いつも誰とも関わりを持たないで、自分の席でスマホゲームしてるからな……話しかけられても大した反応はしないし。うん僕が全部悪い……。


(加賀がここに来る前にこっちから行った方がいいな。また騒ぎになるし……)


 そう思いながら、席を立って教室の入り口に目をやると、見知った顔が立っていた。


「高円寺君」


 烏丸が笑顔で手を振っていた。

 笑顔で少し照れているような感じがする……そして、教室中の注目を集めていた……


「か、烏丸?」


「うん。烏丸だよ♪ さっ、早く行こう? いっぱい話したいことがあるから」


 烏丸はそんな視線を気にすることなく、僕だけを見ていた……。

 すると、教室の入り口あたりにいた女生徒の1人が、興味深々で烏丸に話しかける。


「ね、ねぇ、烏丸さん、彼……こうえん君だっけ?」


 違う。僕は高円寺だ。クラスメイトの名前ぐらい覚えとけよ。

 まあ……僕も君の名前を知らないんだけど……


「もうっ、成増さん、高円寺君だよ」


 烏丸は話しかけた生徒と知り合いなのか、親し気に話しかけた。


「あっ、そうそう。その高円寺君と……どういう関係なの?」


 ……困った……その質問はまずい。さっき加賀が彼女宣言したばかりなのに、ここで烏丸にも同じことを言われると、二股のお試し期間がみんなに知られる……。


 それは避けたい……例えクズ、ゴミだと言われようとも避けたい。ぶっちゃけ僕のメンタルが持つ気がしないからな……。


(……烏丸! ごまかしてくれ!)


「……うん、大丈夫」


 僕が願いを込めて烏丸を見ると、彼女は小さく頷いてニッコリと笑う。


 やはり……人はわかりあえる生き物なんだ。真に絆がある人間対して言葉なんて不要だ。心さえあれば互いにわかりえることができるんだ。


 そして烏丸は――。


「私の彼氏なの♪」


(何も伝わっていなかったあああああああああ!!)


『えええええええええええええ!!!!』


 烏丸の一言で教室の何人かが悲鳴にた雄叫びを上げた。

 もう大騒ぎだ……。


『えっ!!! なんで高円寺なんかと!!! こんな奴と付き合うなら俺と付き合ってくれよ!』


『さ、さっき後輩の子が彼女じゃ、なかったの!? えっ、ど、どういうことなの?』


『く、クズだああああ! 二股のクズがいるうううううう』


『ロリコンシネええええええええええ!』


 お前ら好き勝手言い過ぎじゃねぇか!!!

 ほぼ事実なのが非常に胸が痛いわ!!


(くっ、一刻も早くここら逃げよう!)


 そう考えてると烏丸が笑顔ですっと軽く手を挙げた。

 不思議なことにその行動によりクラスの喧騒は瞬時に止んだ。


 ……烏丸は笑顔だ。すっごい笑顔だ……だけどその笑顔の中に凍土のような冷たさがある。そしてゆっくりと口を開く――。


「くすっ、今高円寺君をクズとかゴミと言った人前に出て。貼り付けにして串刺しにしてぶっ飛ばすから。そして法律ギリギリの拷問にかけるわ」


 清楚な見た目の烏丸から不釣り合いな言葉が飛び出し、クラスの人間の身体が凍り付いたように停止する。


 僕のために怒ってくれるのは非常に嬉しいんだけど……ふ、普通に怖えよ烏丸さん……君ドラキュラかなんかなの?


 って……この状況は、ま、まずい、早く教室の外に出よう!


「お、おい烏丸、早く行こう!」


「待って待って、高円寺君。あと1つ言いたいことがあるの」


 そう言うと烏丸は大きく息を吸い、さっきよりも一段とニッコリとほほ笑み――。


「私――ロリコンじゃないよ? さくらちゃんはロリだけど私は違うもん。訂正してね?」


 笑顔だけど今にも殴り掛かりそうな雰囲気だ……。

 僕は本能的に危険を察知し、烏丸の腕を掴む。


「えっ、えっ、高円寺君?」


 僕の突然の行動に頬を赤らめ、困惑する烏丸。

 僕はそんな可愛い反応をする彼女を連れて教室から逃げ出した。すると背にした教室がまた騒がしくなっているのを感じた。


「くすっ、私……漫画のヒロインみたい。ふふっ」


(二股って……大変なんだなぁ……本契約は考えさせてもらおう)


 僕は無責任にそんなことを思った……

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