第7話


 現国のディスカッションは、自分が一番好きな本をそれぞれPRして、グループの中でどれかひとつを選び、最終的にクラス発表をするというものだった。

 初日の今日は、それぞれ持ち寄った本をPRして、だれの本を発表するか決める。

 僕と花野はべつのグループだ。

 ちらりと花野のグループを見てみると、宮本がいた。宮本は花野になにかを語りかけている。表情を見るに、遅刻したことを心配したのだろう。しかし、花野の表情は固かった。

 宮本とは従姉妹で、いい人だと言っていたけれど……仲良くはないのだろうか。

 僕には、ふたりはとても従姉妹とは思えないほどよそよそしく感じた。

 と、そのとき肩をとんと叩かれた。

「遠矢ー? 次お前の番だぞ」

「あっ! ごめん。えっと……なんだっけ」

「なんだっけって、おまえなぁ。本の紹介だろ! ほれ」

「あぁ、うん。えっと、じゃあ……」

 僕は、花野に貸してもらったSF恋愛本を紹介した。

「へぇ〜。蓮見くん意外に恋愛ものとか読むんだ〜」

 と、声をかけてきたのは、同じグループになった、一見派手なタイプの女子。心の中でよく一緒にいる子の悪口を言っている子だ。正直苦手だからあんまり関わりたくないところだけど、こういう子に嫌われたらかえって面倒そうだし、僕も愛想のいいクラスメイトの仮面を被る。

「面白かったよ。文体も読みやすかったし。初心者向けかも」

「へぇ、そうなんだ!」

 相変わらず作ったような明るい相槌が返ってくる。

「図書館にあるくらいだから、この学校の図書室にもあるんじゃないかな」

 本なんて興味ないくせに、と思いながら顔を上げて彼女を見ると、

「そっかあ。私、普段本とか読まないけど、これなら読みやすそうだし借りてみようかな〜」

 彼女は、とてもきらきらした瞳で僕が紹介した本の題名をメモしていた。

「…………」

 直後、心の声が聞こえた。

『昼休みにでも図書室行ってみよっ』

「えっ」

 語尾が跳ねるような心の声が聞こえて、僕は少しだけ拍子抜けした。

「ん? どうかした?」

 じっと見つめていると、彼女は不思議そうな顔をして首を傾げた。

「あっ、いや……なんでもない。ぜひ、読んでみて。面白いから」

「うん!」

 どうしてだろう。先生のときも思ったけれど、いつもならこんなポジティブな言葉が聞こえてくることはなかったのに。

 ……もしかして、と思う。

 今までネガティブな心の声しか聞こえてこなかったのは、僕の心が曇っていたから……?

 こころなしか、花野と知り合ってから、目に映る景色が鮮やかになった気がする。

 ちらりと花野を見ると、花野は僕を見て小さく微笑んでいた。

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