第23話 夜の語らい

 僕も両親の許可を貰い、ルナさんが僕の家に泊まる事になった。

 それは良い。

 僕の両親だって多分、今更女の子を帰す事になるのはしのび無いとなるだろうし。

 それにルナさんだってご両親の許可は取っていた。

 しかし、そうなると出てくる問題がある。

 僕は自室に居るルナさんを見た。


「ルナさん……本気なの? さっきの話……」

「本気に決まってるじゃん」

「顔、真っ赤だけど……」

「う、うるさい!! あたしがいけるって言ってるんだから、いけるって!! ほら、オタクがさっさと入りなって」


 そう言いながらも、顔を真っ赤にし僕をベッドに押し込もうとするルナさん。

 本当に大丈夫なのだろうか。不安ではあるし、僕自身だって恥ずかしい気持ちは当然のようにある。けれど、腹はもう括るしかない。

 こういう時は男がリードするものだと、決まっているから。

 僕はルナさんに促されるままにベッドの中へと身体を滑り込ませる。


 僕が寝転がると、ルナさんもふぅっと一つ大きく深呼吸してから口を開く。


「よし、行くよ。オタク」

「ど、どうぞ」


 僕も緊張のあまり声が上ずってしまう。

 しかし、ルナさんは自分の事で精一杯なのか、するりとベッドの中に身体を滑り込ませる。

 僕とルナさんが同じ布団の中に入ると、真ん中に人一人分のスペースを何とか作る。

 互いに布団の両端に寝転がり、僕はルナさんに声を掛ける。


「る、ルナさん? だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫だから、ちょ、ちょっと向こうむいて!!」

「わ、分かった」


 ルナさんに言われるがままに僕はルナさんの眠っている方向とは逆方向をむく。

 確かにあんまり顔を見るのも良くないしね。

 僕がそう思い、背中を向けていると、そっと優しい温もりが背中に広がる。

 ほよん、と背中に当たる柔らかなモノで僕は全てを察する。


「る、ルナさん!?」

「……ちょ、ちょっと、黙って!! 今、緊張をほぐしてるから」

「う、うん……」


 果たして背中にくっつく事で緊張が本当に解れるのか、疑問ではあったが、僕は思わず唾を飲んでしまう。

 今、同じ布団の中に僕とルナさんが密着しているという形だ。

 そこでルナさんがポツリと言う。


「ねぇ、オタク」

「な、何ですか?」

「本当に寂しかった……」

「あ……ご、ごめんなさい……」

「ダメ、許してない」


 どうやら、ルナさんはまだ朝の事を許していないらしい。

 僕自身も決して許されるとも思っていないし、ルナさんに寂しい思いをさせたのなら、僕はそれ相応の罰を受けるべきだ。


「だからね、オタク。ゆっくり、こっち向いて」

「え? 良いんですか?」

「り、理由は聞かないでさっさとする!!」

「は、はい!!」


 僕はルナさんに促されるがままにゆっくりと振り向く。

 すると、ルナさんが僕の胸元に抱き付き、ぎゅ~っと強く抱きしめる。


「……こういうのしてみたかったんだ。オタクにぎゅって抱きつくの。これ……すごく良い。ねぇ、オタクもあたしを抱きしめて?」

「う、うん……」


 ルナさんに言われるがままに僕もルナさんを出来るだけ優しく抱きしめる。

 そこで初めて気付いた。

 ルナさんが何だか小さくて、か細い事に。何ていうか、いつも気が強い彼女とは裏腹に強く抱きしめたら、折れてしまいそうな、そんな弱さを感じてしまう。

 すると、ルナさんがポツリポツリと口を開いた。


「そういえばさ、オタクはどうしてあたしがこんなにオタクが好きなのか、知ってる?」

「えっと……こ、これはその、そ、想像なんだけど良い?」


 ルナさんの問いに前に見た夢を思い出す。


「その……僕とルナさんって小学生の頃会ってたりした、かな?」

「……なんでそんな自信無いの?」

「え? えっと……さ、さっき……思いだしたからです」

「…………薄情者」


 グイっと僕の腹を抓るルナさん。

 僕はその痛みに身体を思わず震わせる。


「痛い!? ご、ごめんなさい!? ほ、本当にお、覚えて無くて……」

「あーあ、あたしはずっとずっと覚えてたのに。でも、あたしも同じようなものかな」

「え?」

「名前はあんまり覚えて無くて、ただ、覚えてたのは君の目、だけ」

「目?」

「うん、凄く印象的だったんだ。透き通っていて、優しい目だったから。それはずっと変わってなかったんだなって」

「……あ、じゃあ、あの時にもう気付いてたの?」


 僕の問いにルナさんは頷く。


「うん。初めて入った喫茶店の時にはね。あ、あの時、私を助けてくれた子だって。ふふ、それからアピールしてるのに、オタク全然気付かないんだもん。にぶちん」

「いや、それはルナさんが変わりすぎてたし、それに……好きになるなんて思ってなかったら……」

「……でも、今は恋人じゃん」

「……うん」


 確かに今は恋人だ。

 すると、ルナさんは僕と目線を合わせるように動き、真っ直ぐ僕の目を見た。


「ねぇ、オタク。あたしはオタクが良い。ずっとずっとオタクが大好きだったから。この気持ちは小学生の頃から何も変わって無い。だからさ、もう絶対にあたしの傍から離れないで? もう、寂しいのは嫌だからさ。ね」

「う、うん。分かってるよ」

「ううん、分かってない。分かってるなら、証明してよ」

「……え?」


 証明?

 この関係を証明する為にする事と言ったら、一つしか無いだろう。

 僕はルナさんの頬に手を添える。すると、ルナさんは頬を少しばかり赤らめながらも目を閉じる。

 ドキドキする心臓を抑え、僕はルナさんの唇にキスをする。

 柔らかく、潤んでいて、何処か甘い。そんな優しいキスをして、僕は顔を離す。


「こ、これで……ど、どう、かな?」

「……足りない」

「え?」

「もっとしてくれなきゃ、わかんない。だから、もっともっとキスして。あたしが好きだって、全部、あたしに伝わるくらいキスしてくれなきゃいや」


 物欲しそうな顔で、いつものかっこいい元気いっぱいな快活な雰囲気とはまるで違う。

 僕を求めるその顔に、僕はとてつもない興奮を覚える。


「ルナさん……」

「オタク……んっ……」


 それから僕とルナさんは何度も唇をかわした。

 何度も、何度も、数え切れないくらいに。

 僕はとてつもない幸福感に満ち溢れているのと同時に、もう彼女を手放さないと誓った――。

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