オタクに優しいギャルは実在する!!~人気ギャルの嘘恋人になったら、滅茶苦茶なつかれた件。あの、本当に嘘なんですよね?
YMS.bot
第1話 告白現場
周りの喧騒が聞こえてくる。
『ねぇ、今日、あそこ行こうよ~』
『あ~やっと終わった。部活行こうぜ!!』
様々なクラスメイトの声が聞こえてくる中、僕は開かれた本を眺める。
誰かが話しかけてくる事なんて絶対に無い。
そして、僕から話しかける事も絶対に無い。
僕が座っている席の横をクラスメイトが歩いたとしても、誰一人として僕を気に止める人は居ない。
僕は本を閉じ、鞄の中へと押し込む。
帰ろう。
本の内容もキリが良い。
今日は確か、新作ラノベが発売したはずだ。それを買いに行って、夜は新しいイベントが起こったソーシャルゲームをやる。
うん、それが良い。
僕はいつも通り、帰ってからの計画を立てながら足を進める。
僕、小山タクトはオタクだ。
いつからだっただろうか。もう覚えていないけれど、僕はアニメ、漫画、ゲームといったサブカルチャーをこの上無く愛している。
それ故に僕はボッチを愛している……という事にして、いつも強がっている。
廊下をゆっくりと歩いていくと、生徒達の楽しげな声が聞こえてくる。
友達と約束をする会話、楽しげに話し合う声。それらが僕の鼓膜を震わせ、僕の心をちくちく、と刺してくる。
こういうのはいつまで経ってもなれないな。
僕は人付き合いがとてつもなく苦手だ。
まず、人と何を話したらいいのか全然分からない。
オタクなんだから、自分の好きなもので話せば良い、という意見を僕はネットで見た事がある。
当然、実践しようとしてみた。
でも、話すといつも思ってしまうのが――。
あ、この人、これそんなに好きじゃないんだな、という残念感である。
これがまた厄介で、好きなものを語り合うとき、その熱量に明確な差があると相手が引いてしまう。僕はどんな作品にも強い熱意を持って、愛し、推している。
そんな僕とニワカが話す事になればどうなるかなんて想像に難くない。
すると、大抵相手は僕に対して引いた眼差しを向けてくる。
『いや、別にそんなに俺好きじゃないし』と。
も、勿論、僕に悪い所があるのも分かる。
相手のレベルに合わせられない僕自身に問題がある事も。
でも、それは難しいじゃないか。
その作品が好きなら、好きって気持ちを前面に出して喋る事が当たり前じゃないか。
なのに――。
「はぁ……」
昔の事を思い出して何だか陰鬱な気分になってしまう。
いつもそうだ。
本当は色んな人と話してみたい。こう楽しい青春生活ってのに憧れる気持ちは当然ある。
何なら、友達を作って、約束をするなんて事だってやってみたい。
でも……。
「出来ないんだよね……ハハッ……いてっ!!」
と、僕が下駄箱で靴を変えようとしていると、後ろに何かが当たる。
思わず僕は前につんのめり、下駄箱に手を添えて、何とか体勢を立て直す。
『それでさ――』
『あはは、マジで!? じゃあ、あいつ今頃――』
僕にぶつかったであろう人はもう既に遠くの所に居て、楽しげに話をしている。
ぶ、ぶつかったんなら、謝れよ!! なんて、言うことなんて出来ずに。
僕は肩を落とし、下駄箱から外に出る。
それから僕は校門前に視線を向ける。
うわ……なんかたむろしてるよ……。
校門前では上級生が話し込んでいる様子だ。
この学校はあんまり治安が良くない。不良とかも割りと居て、怖い学校ではある。
ああいうのに目を付けられないように、裏門に回ろう。
僕はそう決意し、校門とは真逆の方向へと足を進める。
裏門はグラウンドを抜け、そこから人気の無い校舎裏を進んだ先にある。
あそこなら、そんなに変な事は起きないよね。
とりあえず、早く帰ろう。
とにかく早く帰りたい僕はグラウンドを足早に抜ける。
グラウンドでは既に部活動の為に準備を進める生徒達の姿があった。
部活も入っていない。僕は帰宅部。
ああいうのも、青春になるのかな、なんて考えたけど。
ゲームとか、二次元を楽しむ時間が減るから結局入らなかったんだっけ?
本当に……僕は心の中で溜息が出てしまう。
僕は僕という人間が嫌いになってしまう。
こんなにも後悔するなら、最初からやっておけよ、と。
でも、やらないのが僕なんだ。
僕は出来るだけ気配を消しながらグラウンドを抜け、校舎裏に辿り着く。
すると、女の子の声が聞こえてきた。
「だ~か~ら、アンタとは付き合わないって!!」
「ちょっ!! そこを頼むって!! なっ!! 絶対に幸せにするから!!」
僕は校舎の影から、そっと顔を出し、様子を伺う。
女の子一人と男の子一人、制服姿だ。
「あ、あの子知ってる……」
女の子の方は見覚えがあった。ていうか、見たら絶対に忘れない子だ。
髪はド派手な金髪ロングヘアー。それに負けないくらい綺麗な顔立ちをしていて、目、鼻、口、どれも綺麗なバランスが取れている。
更に制服を着崩しもちょっと目のやり場に困るくらいに崩れている。
大きな胸に自信があるのかボタンを開けて、谷間が見えているし。
スカートだってちょっと動いたら、パンツが見えちゃいそうなほど短い。
少なくとも、僕とは明らかに住む世界が違う。所謂――ギャルだ。
確か名前は『如月 ルナ』
同じクラスでいつもクラスの中心に居る子。
つまり、僕みたいな陰キャとは住む世界が違う。
それで、相手の男は。あ、彼も知ってる。同じクラスだ。
『東郷 カナタ』
顔はイケメンで、男の僕でも見蕩れてしまうくらいの美形。スタイルも良くて、女子が良く噂にしていて、かっこいいって評判の男子。
やっぱり、ギャルはああいう人と付き合うんだろうな。
でも、何だろう。雰囲気が物凄く悪い。特に如月さんの顔が物凄くイヤそう。
「何で? 何でアンタと付き合わないといけないの? あたし、別にアンタの事好きじゃないけど?」
「そんなことを言っても、俺は君を諦められないんだ」
「……はぁ~あ、ホント、ウザイ。何回告白すんの? マジでウザイからやめてくんない?」
「悪いけど、俺もそう簡単に諦めたくないんだ。俺はルナを本気で愛しているからね」
そう言う東郷くんの顔は確かに真剣そのものだ。
本当に好きなんだろうなってこっちが思ってしまうくらい。
でも、如月さんはそうじゃないらしく、腰に手を当て、露骨に溜息を吐いた。
「はぁ? キモ……本当に辞めて? 冗談抜きで。ずっと言ってるけど、あたしは好きじゃないんだって」
「アレか? もしかして、君には別の想い人でもいるのか?」
「は? 別に居ないけど?」
呆れながらもしっかりと答える如月さん。何というか律儀なんだな。
こう言ったらアレかもしれないけれど、逃げればいいのに。
って、僕が思っていると、東郷くんが何か考え込むように顎に手を当てた。
「そうか……だったら、付き合わなくてもいい。お試しでどうかな?」
「それ、前も言ってたよね? だから、そういうのもウザイって!! ホント、人の話聞けよ!!」
「聞いた上で言ってるんだよ。そして、俺は何度でも言う。君が好きだと」
これがアレかな?
好意の押し付けって言うのかな。
何だか分からないけれど、あれを見ていると、僕が落ち込んでくる。
何だか昔を思い出しているような気がして。
はぁ、と僕が溜息を吐き、ふと顔を上げた時だった。
目が合った。
如月さんと。
あ、やばい!! み、見るのに夢中で身体を隠すのを忘れてた!!
僕はすぐさま校舎の影に隠れ、その場から動こうとする。
す、すぐに逃げなくちゃ!!
二次元界隈にはこんな言葉がある。
『オタクに優しいギャルは実在する』
これは真っ赤な嘘だ。
『オタクに優しいギャルなんて存在しない』
基本的にキモイだの、こんなのが好きなんてキッショだのって言われるのが関の山だ。
今、僕のケースだったら間違いなく――
『何コイツ、見てんの? キモッ!!』
って、言われて終わりだ。
ただでさえ、居づらい学校生活が更に隅に押し込まれ、破綻する事になる。
――に、逃げなきゃ!!
僕は慌ててしまう。す、すぐに逃げないと!!
僕はすぐさま駆け出す。しかし、僅かに遅かった。
「ちょっとアンタ!!」
「ひっ!? ご、ごめんなさい!!」
「……何で謝るのよ」
背後から声が聞こえ、僕は反射的に謝ってしまう。
すると、如月さんがゆっくりと近付いてくる。その足音が聞こえてくる。
僕は何故だか如月さんが怖くなり、動けなくなる。
うっ!? わ、悪口を言われる!!
僕が決して後ろを振り向かないで居ると、如月さんが言う。
「ねぇ、ちょっと顔貸して」
「え?」
「良いから!!」
「急にどうしたんだ? ルナ。って……そいつは……」
今度は後ろから東郷くんの声が聞こえてくる。
絶対にダメだ。僕は冷や汗が背中を伝うのを感じる。
わ、悪口を言われる。そ、それとも、何見てんだってぶん殴られる!?
マイナス方向にばかり思考が働いてしまう。
すると、如月さんが突然、ボクの腕を無理矢理掴んだ。
え? ええええええええッ!?
それからすぐにむぎゅっと腕を回し、身を寄せるように抱きついた。
腕に柔らかくて暖かいおっぱいの感触に僕が大混乱をしている時、如月さんが言い放つ。
「ごめんね、東郷。さっき嘘吐いてた。この人が私のカレシなの」
「……は?」
「ごめぇ~ん、言ってなかったっけ? ね? そうだよね、カレシだよね?」
「彼氏……お前が?」
僕の腕に抱きついたまま、そんな事を言う如月さん。
いやいやいや、それは無理があるくない!?
しかし、如月さんが耳元で囁く。
「合わせて!! 御願いだから!!」
うぅ、凄く嗅いだ事もないような良い匂いがするし、女の子の何か独特の柔らかさがダイレクトに感じられて、頭の中がグチャグチャになる。
あ、合わせるったって……僕は東郷くんの方を向く事が出来ずにそのまま言う。
「か、彼氏……ですっ!!」
緊張のあまり僕の声が上擦る。
でも、如月さんは待ってましたと言わんばかりに声を上げた。
「だから、これから二人でデートなの!! それじゃあね!! ほら、行くよ!!」
「え? あ、ちょっと!!」
そう言いながら、如月さんは僕の腕を力づくで引っ張り、駆け出す。
僕は何も抵抗する事が出来ずにそのまま流されるがままに如月さんについていった――。
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