名画の定義

「クソ!何で売れねえんだ!」


 画家としての限界。評価されることのない創作活動の日々は、男の心を蝕んでいった。そんなある日。


「ケケケ、不憫な男だ。どれ、ワシが一つ力を貸してやろう」


 アトリエで絵を描いている最中。不意に声が響く。


「だ、誰だ!?」

「誰でもいいじゃないか。それより、お前の願いを叶えてやろう」


 遂に自分の頭がおかしくなったと男は思った。だが、駄目で元々。そんな安易な気持ちでその声に頼んだ。


「素晴らしい作品を描きたい!それも、歴史に名を残すような作品をだ!」

「……よかろう」


 男の腕は何かに操られるように筆を走らせる。そうして完成した油絵は、今までに無いほど見事な出来映えとなった。


「す、すごい。これなら……」


 だが男の予想とは裏腹に、その絵が評価されることはなかった。


「何故だ?何が悪い?」


 悩む男の脳内に、再びあの声が響く。


「ケケ、それはその絵に足りないモノがあるからさ。なんなら、ワシがそいつを足してやろうか?」

「是非とも頼む!……うっ!」


 男は、その声に懇願すると同時に苦しみだす。そして、そのまま帰らぬ人となった。


「古今東西、歴史に名を残す作品ってのは作者の死で価値が上がる。良かったな」


 そう言って、声の主・悪魔は男の魂を抱えると嬉しそうに闇へと消えたのだった。

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