お兄ちゃんとメスガキと配信と――――これから

 ジュワーッとフライパンで音を立てて焼かれる大きな肉から、肉の上手そうな匂いが広がっていく。


 思わず息を飲んでしまうくらいには美味しそうだ。


 隣で食い入るように見つめる可愛い我が妹。その上を煽るようにコメントが通過する。


『小姫ちゃんめちゃ見てるwwww』


『さすがにゴブリンよりは美味しそうだもんな』


『どんな感じの味なんだ? 食レポはよう』


 コメントも楽しみのようだが、そう急くな。肉というのはしっかり対話焼くをするのがコツだ。


 焼いたステーキはエンシェントドラゴンというトカゲみたいな魔物の肉だ。ちょっと大きいトカゲって感じ。


 焼き終わったステーキを大きな皿に上げると、俺は必殺呪文を唱える。


「テレレレッレ~テ~、ステーキなら何でも美味しくなるソ~ス~!」


 高く持ち上げた瓶には、デカデカと日本語で『もっとも売れてる焼肉のタレ』と書かれている。


 瓶を見つめる妹の目が輝いている。


『ゲーム中に異物入ってて草wwww』


『なんでゲームの中に焼肉のタレがあんだよww』


 そう。これは俺のもう一つの力によるものだが、それはともかく今は腹を空かせた妹のためにステーキに焼肉のタレをぶっかけてやる。


 ステーキの油とタレが混じり合い、美味しそうな匂いがさらに広がる。


「さあ、妹よ。召し上がるがよい!」


「ふ、ふん! だから最初からもっと美味しそうなものを焼けばいいと言ったのよ!」


 愚痴をこぼしながらステーキを頬張った妹は、目を大きくして行儀よくカミカミしながら、全身で美味しさを表現する。


『小姫ちゃん美味そうに食うやん!』


『ステーキいいなぁ。美味そう』


「がーはははっ! 俺が作るステーキは世界最強だぞ!」


「お兄ちゃん! すごく美味しい!」


「そうじゃろそうじゃろ」


 ったく。こういうときだけは素直な妹なんだよな。


 それからステーキ一枚をペロっと食べた妹は、満足そうにソファに座って膨れた腹を撫でる。


 ちなみにソファも俺の『アイテムボックス』から取り出しているので、ダンジョンの中だろうが問題ない。


「お兄ちゃん? 今日はダンジョンにどれくらいいるの?」


「ん? 今日はってどういうこと?」


「ん? 外に……出るでしょう?」


「ん? 出ないぞ?」


「…………さっき食べたゴブリンで頭のねじが飛んじゃった?」


「いや、外に出る必要ある? 別にダンジョンで住んでいいじゃん」


「…………」


 妹は大きな溜息を吐いた。


「大丈夫だ。問題ない」


「あるよ!」


「ある? どうして?」


「ど、どこで寝るのよ!」


「寝るとこ? そりゃ――――ここ?」


 俺は『アイテムボックス』から簡易ハウスを取り出した。


 コンテナ式になっているこのハウスは一人で暮らす分には何の問題もない。ちゃんとトイレもあるし、寝室もあるし、風呂もあるし、水に電気まで使える。


 開いた口が塞がらない妹を連れてハウスの中に入っていった。


『姫の部屋キタぁああああああ~!』


『普通に……可愛い部屋……だ……と?』


『あの姫の部屋だとはとても思えない』


 あ。配信切るの忘れてた。


「妹と一緒に住むハウスだからな。これくらい綺麗にはするぞ」


『妹想いのいいお兄ちゃんだね~』


「うむ! 俺はいい兄になるぞ~』


「…………」


 そのとき、少し辛そうな表情でハウスの中のソファに座り込んだシアは、心臓を抑えながら苦しそうにする。


「シア。これを飲め」


 急いで『アイテムボックス』から一つの薬を取り出す。


 ちっ……最後か。急いで引かない・・・・とな。


 妹に薬を飲ませると、苦しそうな表情から少しだけ寂しそうな表情を見せてから眠りに着いた。


 薬の効果は高いんだが、一瞬で眠らされるくらいに強力だ。


「お前ら」


『はいはい~』


「俺の部屋を見たからには、いつもより応援しろよな!」


『珍しいww姫から応援しろって言われるの初じゃね?』


『本当だな。俺たちの姫はどうしちゃったんだ?』


『どうせまたガチャを回したいんだろwww』


「そうだよ! 俺はガチャ廃・・・・だよ!」


 それから応援ポイントというの名の投げ銭が増えていく。


 よし、これならガチャが回せられるな。


 俺の特別なスキル。もう一つは――――『ガチャ』である。


《ガチャを回しますか? 1回1,000円》


 という表記が俺の前に出る。


 一回千円とかぼったくりもぼったくりだが、背に腹は代えられない。


 急いでガンガン回していく。


 日本お馴染の焼肉のタレやら調味料やら落ちてくる。


 そうじゃねぇ。薬だよ薬。


 そんな中、一本の輝かしい薬の瓶が現れた。


 ふう……無事に引けてよかったわ。


『まさか。姫がガチャ回すのって薬のためか?』


『えっ? 病弱の妹のために?』


「お、おい! 誤解すんなよ! 俺はただのガチャ廃だ!」


『いま薬の瓶を持った姫、めちゃいい顔してたもんな』


『うわぁ……エモ。やば。おれ投げ銭するわ』


「や、やめろ!」


 それからとんでもない勢いで応援ポイントが増えていく。


 はあ……そんなつもりじゃなかったがな。


「ガチャで散財しても文句いうなよ!」


『はいはい~また薬引けたらいいね~』


『ちゃんと薬だけは回収して他は転がしてて草wwww』


『やっぱ俺達の姫はいいやつ』


 くそ……言いたい放題いいやがって……。


「もう寝るから! 配信はまた明日!」


『明日も配信か~! やった~!』


『待ってる~!』


 急いで配信を切ると、部屋に流れていたコメントが消え、ドローンも光となり消え去った。


 はあ…………妹のためにガチャを引いてたのバレてないよな…………くっ、悩むのもばかばかしい。


 そのまま妹をベッドに運んでシャワーを浴びた。


 …………あれ? そういや、このハウスってベッド一つしかないよな。


 …………仕方ねぇな。




 次の日。




「な、なんでそんなとこで寝てるのよ!」


「ん……?」


 小うるさい声に目を覚ますと、ちょっと怒ってるシアが見える。


「おはよぉ……しあ…………ふわあ~」


「ふわあじゃないわよ! なんでソファで寝てるのよ!」


「ん……? べっどが……ひとつ……だけだしな……」


 眠い目を擦らせながら体を起こす。


 それにしてもこんなに怒ってる妹を見るのも久しぶりだな。てかめちゃ怒ってない?


 だが、次第に妹の表情が違う表情に変わる。


「…………ねえ。がちゃとかいうのってやっぱり私のためなの?」


「……聞いてたのか?」


「ちょっとだけ」


「気のせいだ。俺がガチャ廃なだけだ。俺はガチャがどうしても引きてぇんだよ~!」


「…………ふん。ねえ。お兄ちゃん」


「ん?」


「…………これからは同じベッドで寝ていいからね? 私一人だと広すぎるし」


「!?」


「ふ、ふん!」


 拗ねるうちの妹は世界一可愛かった。

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異世界悪役にTS転生した俺は、勇者(主人公)をボコボコにして妹の病弱メスガキヒロインを連れてダンジョンに潜りご飯を作ってあげる~その様子を現代配信したら大バズリました。ポイントでガチャを回します~ 御峰。 @brainadvice

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