魔法は存在した

透谷燈華

魔法は存在した

「いい、遠い昔には絶対魔法があったと思うの。だってそうでなきゃ魔女狩りなんてものがあの規模で実行される事はなかったでしょ?」


少女は自慢げに語る。相手は母親、累計何度目だろうか…100から先を数えた者はいなかった。母は困った様子で、六歳になる娘に、


「理絵は本当に魔法のお話が好きね。…確かに、この世界にはまだまだ科学で解明できないことがたくさんあるわ。だから、」


そこから先は理絵自身も何度も何度も、それこそ100ではきかないほど聞いてきた内容だった。故に理絵は耳を塞ぎ、


「あーうー。何をするんでもやりたいことやるにはお勉強しなきゃいけないんでしょ。分かってるわよ…。」


いー、と汚れも虫歯もない真っ白に並んだ歯を見せつけながら頭をなでてくる母の手を受け入れる。両の耳に当てていた手を下ろし、


「ほら、耳にタコができてないか見てよ…。あれ、でもそういえばなんで耳から蛸さんが生えてくるんだろう?」


きょとん、と首をかしげる理絵に、母は苦笑しながら


「その蛸じゃないのよ。理絵にはまだできたことがないかもしれないけど、たくさんお勉強すると手のひらにできることがあるの。」


またしてもお勉強へ誘導したい母の気持ちを感じ、耳を見せるため膝に乗っていた位置からするりと抜け出す理絵。


そのまま部屋に戻り、少しだけ難しい本のことも考えた後でお気に入りのいつもの絵本を開くのだった。


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理絵は小学生になった。


相変わらずお気に入りの、かわいそうな魔女の絵本は大事に持っていたし持論も語る相手が友達に代わっただけで話し続けていた。


愛を持って育ててくれた両親のおかげもあって明るく素直な良い子になっていた理絵には友達も多かった。


同年代の友達の中には魔女狩り、なんて言葉は知らない子も多くいた。彼ら彼女らは物知りな理絵に尊敬の眼差しを向けた。


幸いというべきか、それで理絵が増長しひねくれた正確になるようなことはなかった。理絵はどこまでもただただ純粋であった。


しかし魔法に関しては違った。周りの者たちの中にも正面切って理絵の持論を否定するものはいなかった。


むしろ知らないことを知っており、夢があってキラキラと輝いて見えるような理絵の話に皆聞き入って同調していた。


だから理絵は、心の底から魔法はかつて存在したのだと信じ込むようになった。


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理絵は中学生になった。


本人は幼き日のまま全く変わらず、未だに魔法の持論を語り続けていた。


幸いにも地元の公立中学に通っていたため、周りも殆ど小学生のころと変わらなかった。当然、反応そのものは大きく違ってきたが。


友人も随分減ってしまった。そしてそんな理絵に、とある部活動の部長から声がかかる。


「やあ…我々の…オカルト研究部に入らないかい?聞いたよ。君…魔術に興味があるそうだね。」


初めは理絵も胡散臭いと思っていた。しかしもしかしたら、と。未だに魔法を心の底から信じている者は少ない。


話を真剣に聞いてくれる人でさえ殆どいないような有様だった。だから、世間一般からすれば「変わり者の」オカルト研究部であれば。


ほどなくして理絵はオカルト研究部の部員となった。誰よりも熱量を持って部活動に取り組み、二年時の後期には部長になっていた。


…友人はさらに減った。両親でさえも彼女を心配していた。本質は何も変わっていなかったが、理絵は表面上暗くなったように見えた。


この頃から理絵は本格的に夢を持つようになった。即ち「私も魔法を使って見せることで実在を証明したい」。


怪しい黒魔術の類をインターネットで見つけては試す。しかしそのどれもが空振りに終わった。


当然と言えば当然かもしれない。そこらに転がっているような情報で簡単に再現できるようなら魔法は魔法でなくなる。


しかし理絵は全く焦ってはいなかった。自分の歩く道の果てに必ず目指すものがあると信じていたから。


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理絵は高校生になった。


オカルトの道の先に魔法はないと学んだ。いや、そこらに転がっているような胡散臭いオカルトではレベルが低過ぎた。


理絵は悩んだ。この先魔法を追い求めるのにどんな手段があるだろうか?


しかし理絵はそこで自棄になったり、諦めたりするようなことはなかった。諦めず考えに考え抜いた末、己の原点に立ち返った。


「魔女狩り」。これによって魔女が全滅したのだ、と、かつての自分は考えたのだった。であれば欲しいのはその前の資料。


世界史、だろうか?確かに日本より欧州での魔女狩りについて学んだほうが有用であるようにも思える。


しかし違う。何が起きたかを淡々と連ねられたところで具体的な手段まで研究できない。何故起きたのか、誰がどんな準備をしたのか。


民俗学だ。それしかない。どんな文化があったのか、その時代、その地域に暮らした人々が何をして生きていたのか。


中でも古い文献。そこにこそ暮らしに根付いた魔法があるに違いない。


自分で立ち上げたオカルト研究部も辞め、理絵は本格的に勉強に取り組んだ。


どうせやるなら世界一の大学で学ばなくては。言葉の壁も乗り越えなければならなかった。


他の一切を断ち切る勢いで猛勉強し、現地での住処や生活基盤のことまですっかり準備を整えて入学試験に取り組んだ。


無事合格。両親には一人での海外暮らしを心配されたが説得して見せた。


僅かに残った友人にも別れを告げ、飛行機へ乗り込む。


こうして理絵は大学生になった。


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いつまでも親の仕送りに頼るわけにもいかない。現地でアルバイトのような仕事を見つけ、その給料で暮らしを立てた。


学費は奨学金を貰って払った。そのまま大学院に相当する機関まで進み、大学に残って民俗学の研究。


何時しか大学から給料を貰えるようになった。理絵の研究への情熱はそれほどまでに優れたものだった。


成果はあった。魔法に関する資料を探す傍ら、幾つか歴史がひっくり返りかねないような発見も成した。


しかし未だ魔法は使えない。本来の研究目的もとっくの昔に伏せていた。


それでも理絵は魔法への羨望を失わなかった。三十前半。夢を追い求める…少女のままだった。


そしてついにある教会跡地を捜索する中でボロボロの資料を見つけ出した。


そこには理絵が己の生涯をかけて探してきた秘宝があった。途切れ途切れながら、魔法を使う具体的な手段が記されていた。


その日のうちに理絵はその…魔導書の解読を終わらせた。ほんの1ページ。しかし欠けた部分について補う作業は困難を極めた。


そしてすぐ大学の傍にある自分の家へ戻り、準備を始めた。方法は極めて複雑なものだった。


それこそ本の中にしか登場しないような怪しげな材料も要求された。


しかし理絵の胸は高鳴っていた。漸く辿り着けるのだ。ある筈がないと誰もが嘲笑った魔法。それが今実現の一歩手前まで来ている。


明るみに出れば研究者としての人生が断たれてしまう様な素材もあった。しかしその全てを揃えた。


僅か一月後、とうとう全ての準備が整い、理絵は人類史上数百年ぶりに魔法を使った。


「っ…?何が…失敗か?やはりあの部分の分量は100ではなく700だったか…?糞っ、どうすれば…もう一度素材は集めなおしなのか?」


「ああ、出張料金代わりに今回の代償位は頂きたいところだが最近どうも景気が悪い。今回の件はサービスって事にしておいてやるよ。」


「⁉だ、誰だ?施錠は完璧だった筈…一体どこから入った?」


「聞きたいのは本当にそんな事なのか?ってか知らずに使ったのか?魔法を?」


「!!やはり…魔法は発動していたのか!だがこの魔法は風を起こすと書いてあった。やはりお前は一体…?」


「成程…一から説明してやる必要がありそうだ。まず俺は悪魔。魔界…まあ、地獄の一部をそう呼んでるんだが、兎に角そこから来た。」


「あ、悪魔?私の魔法で呼び出した、というわけか?」


「そうだ。魔法ってのはそもそも俺達悪魔とお前ら人間での取引の事。お前らは贄を用意し俺達が力を振るってやる。そういう契約だ。」


「ではなぜ風が起こらない?単位はよくわからなかったが兎に角規定量の風を起こす魔法の筈じゃなかったのか?」


「あー、そりゃ簡単だ。贄の量が全然足りん。お前が何を根拠にこの素材を集めたのか知らないが物の種類で言えばあってるよ。」


「そんなはずは…いや、やはり資料が古いからか単位に関する記載がなかった。頼む、教えてくれ!何がどれくらい足りない?」


「ほー、確かに古い紙だ。これは俺達が使ってる単位での量だな。人間単位との換算は難しいが…大体全部5倍程集めれば発動はする。」


「五、五倍⁉そんな量とても…いや、必ず用意してみせる。悪魔…悪魔か。」


「ああ。期待して待ってるさ。どういうわけだか最近は人間から魔法の取引を持ち掛けてくる奴がいない。押し売りはできないし…。」


「やっぱりお前達悪魔も何か魔法の取引でメリットがあるのか?力があるのならこれしき簡単に集められそうなものだが。」


「その辺りはまあこっちにも色々事情が、ってやつだ。悪魔が自分の意志で勝手に人に危害を加える事はできない。貴重なんだ、贄は。」


「そういうものなのか。手法は?魔法発動までの手順に間違ったところはなかったか?」


「ああ。悪いがそろそろ帰るぜ。今回の代償は持って行かないでおいてやるから追加の贄集めを頑張ってくれよな。」


「あっ、待って、まだ聞きたいことが山ほど…来た時もそうだがどこに消えた?…はぁ…この五倍か…。」


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理絵にも研究仲間はいた。当然表向きの民俗学研究もそうだがごく少数、本来の魔法に関する研究の仲間も。


追加の贄を集めるのに躍起になっていたところで、数少ない仲間から連絡が入った。カールという宗教学の重鎮だ。


彼には発見した魔導書の写しも送ってあるほどで、正に志を共にする相棒と言っていい存在だった。


そんな彼が連絡を入れてきた。何か大きな発見があったんだろうか?だが…魔法の行使一歩手前まで来ている状況では不要な情報。


しかし彼にも悪魔と会合した一件を報告していなかった。伏せよう、などという意地の悪い意図はなかった。忘れていたのだ。


超常との遭遇。長年の夢への具体的な道筋が見えたこと。濃密な経験が研究の続行以外の全てを意識の外に追いやった。


連絡があって初めて思い出した。一度会って色々共有した方がいいだろうか?悪魔の一件も相談した方がいいかもしれない。


自分で思っていた以上に視野が狭くなっていたようだ。気づかせてくれたカールに感謝しつつ「会って話そう」と送り―――


メールを書く手が止まった。先日遭遇した悪魔とは違う、己の悪い心という意味での悪魔が囁く。


「カールを贄に使え」と。


理絵は迷った。倫理観は既に持ち合わせていない。いや、持ってはいるが夢を優先することができる。


贄がカールであってはいけない理由は何もなかった。


しかしそれでも理絵に残った僅かな良心が抵抗する。そんな良心でさえ「カール以外の誰かを使え」と言っているに過ぎないが。


だが具体的に他の誰かを攫ってくるのはリスクが高すぎた。一人目の少女を攫った段階で周辺の警戒レベルは非常に上がっている。


カールなら誰にも疑われることなく自宅に連れ込める。素材を剝ぎ取るのにも都合がいい。


冷凍庫に保管してあった少女の残りの部分と足し合わせれば人間もう一人分で人由来の素材は足りる事だろう。


無論それ以外の素材の入手だって簡単ではない。しかし法に触れ、かつ証拠が残って消しにくい素材は人間由来の物だけ。


冷静に考えれば考えるほどカールを使うしかないという結論に至る。そもそもなぜ躊躇っていたのかすら分からなくなって来た。


…また視野が狭くなっているのだろう、と考え、気分転換のため理絵はいつもの習慣として部屋の掃除を始めた。


悩みながら掃除をすると不思議な事にいつもきちんと答えが出る。というより無意識下で結論が出るまで掃除を続けてしまうのだ。


普段は滅多にひっくり返さないような棚の奥まで掃除して…そこに、ボロボロに擦り切れた絵本を見つけた。


その表紙を、そのタイトルを見た途端体は自然と動いていた。もっと奇麗な、改訂版の同じ絵本は部屋に飾ってあった。


しかし子供の頃から何度でも読み返し、付いた傷の一つ一つまで覚えているような思い出、いや執念の詰まった絵本は違う。


常に抱いているはずの志。それが大きく燃え上がるのが分かった。


気付いた時には「私の家で会えない?此方も大きな進展があったの」とメールしていた。


程なくして「分かった。早い方がいいが都合の付く日程は?」と返信が返ってくる。


他の素材の準備に必要な日数を考え、それが済んだ後で最も近い日を指定した。


―――理絵自身もう引き返せないところまで来たのを自覚していた。


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「悪いわね、呼びつけるような真似をして。それで分かった事っていうのは?」


洒落込んだ服を着て空港まで迎えの車を出し、家へ向かう車内で簡単に挨拶する。しかしカールの反応は芳しくない。


「ああ…それなんだが、君は魔法を実際に使うことに強い拘りを持っていたね?」


「勿論よ。そしてあの資料のおかげで実現の目途も立った。」


「その…かなり非人道的な手段も含まれていたように見えたが?」


「その点が目下の課題なの。どうしても必要とあらばどうにかして用意するけれど…。」


「実はな、あの後君が例の資料を見つけたっていう教会跡地、そこにあった教会の移転先を当たったんだ。」


「そこなら私も当たったわ。流石に現役の教会には追い払われたけど。」


「その点俺は宗教学者だ。教会の連中とも多少は仲がいい。」


「あら、むしろ逆だと思ってたわ。余計な詮索を入れてくる厄介者として嫌われてるものだとばかり。」


「個人的な繋がりだよ。同じく宗教学を志し、道半ばで神の素晴らしさに目覚めたとか言って神学校に入った友人がいるんだ。」


「羨ましいわね。それで?何かめぼしい資料でもあった?」


「そうだ。実は具体的な方法は書いていなかったが魔法行使の記録が残ってた。名前は”奇跡”になってたがな。」


「…?じゃ何が載ってたの?」


「君に貰った資料と一致する代償と、起こった現象。それぞれの規模もわかった。」


「それ、単位が普通のものと違ったりしない?具体的な必要量まではもう私も割り出したわよ。」


「いや、ちゃんと理解できる単位で記載されていた。君の資料にあったものとは違う。そして本題はここからなんだ。」


カールがそう言った頃、車は理絵の家に着いた。家に入り、理絵が簡単な飲み物を用意して話の続きに入る。


「なあリエ。魔法の研究はもはや完成したとすら言えるところまで来た。揃った資料を証拠として発表すれば世間は認めることだろう。」


「ええ、そうね。だけど…」


「だから!ここまでで辞めないか?魔法の技術は消えるべくして消えたんだ。仲間の一人、有機化学者のケンジと話し合った。そして…。」


「何?人道性の話なら今はそれをどうクリアするかが問題だって言ったろ?」


カッとなり、つい素の口調が出てしまう理絵。しかしカールはあくまで冷静だった。


「違う。エネルギーの保存則が成立していないんだよ。魔法においては。」


「それが何だ?強大すぎる力だとしても恐れて封印するばかりでは成長はない。」


「むしろその逆だ。突っ込む材料の持つエネルギーに対して起こっている現象、それにより発生するエネルギーが明らかに少ない。」


「そんなもの、一回の魔法くらいならたかが知れている。何も常時魔法が使いたいわけじゃない。一度使って見せられればそれで。」


「それだけじゃない…代償となった物質はこの世から消滅してる。質量保存の法則にも反している。やはり失う方でな。」


「それだって同じ話だ。一度きりなら問題ない。」


「君は『科学』を舐め過ぎだ。奴等は必ず再現性がどうだとか法則がどうだとか言い出して追加実験を行う。その果てに待つのは…!」


「滅び?地獄?そんなものはかつて魔女を散々迫害して滅ぼした報いに過ぎない。罪を認め受け入れる事こそ正しき行いだ!」


「何を…悪いが僕はこのことを君より先に学会に発表させてもらう。具体的な方法の部分は伏せてな。そうして魔法研究を封印する!」


「馬鹿待て辞めろ!…いや、そろそろ時間だな。すまない、カール。君は本当に良き友人だったと思っている。」


「なんだ?改心したとでもいうつもり…な、なんだ?頭痛がする…く、体が痺れるような…。」


「本当に済まない。飲み物に毒を混ぜさせてもらった。ああ、そうだ。私の進展をまだ教えていなかったな。…悪魔に会った。」


「は…?悪魔…?何を…言って…。」


「既に私は例の資料の情報通り魔法を試した。しかし起こると書いてあった風は起こらず代わりに悪魔を名乗る何者かに遭遇した。」


「悪魔…まさか…!」


「『悪魔の力を行使する手法』略して魔法、なのだろうな。彼が正しい分量を教えてくれたんだ。君がいれば丁度言われた分量に届く。」


「ば…かな…よ…せ…魔法は…出力が…」


「高尚な理論ならさっき散々聞いたよ!そろそろ毒が呼吸器にも回る頃合いだ。今夜私は数百年生まれなかった魔女になるんだ!」


最早カールは言葉を発することのできる状態になかった。そのまま時間が過ぎ、少しずつ扉の方に這っていたカールが遂に力尽きる。


理絵は魔法の準備に取り掛かった。


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カールは解体する時間が惜しかった為と証拠隠滅の為に丸ごと贄として捧げた。


少女の残りの部分も全て魔方陣に配置した。最後に一滴、理絵自身の血を垂らせば魔法が発動する。


カッターナイフで指先に小さな傷をつけ、そこから滴り落ちる紅い雫を眺めていた。


ぽたり、と。最後の一滴が魔方陣に触れた瞬間、突風が吹き荒れる。同時に理絵の部屋に用意されていた大量の資材が消滅した。


無論、少女もカールも例外ではない。この突風にも関わらず吹き飛ぶのではなく完全に消滅したのだ。


たった一つの例外を除いて。


それは、理絵本人。大きく吹き飛ばされ、市街地に突如として現れたハリケーンに飲み込まれた。


そこにあるのは天然のそれと同じ、家屋を吹き飛ばして進むただのハリケーン。故に物質の消滅などは起こらない。


しかしその性質は忠実に再現されていた。家屋を、人間を、それ以外の雑多な物々を吸い上げ吹き飛ばした。


……こうして、歴史上最後の魔女が死んだ。


それは彼女の罪への報いだったのか、悪魔の底意地の悪さだったのか。


全てが終わった後では誰一人としてそれを知る者はいなかった。

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