第14話 金星②
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「メイアさんは私の戦闘スーツの強化を、ハトちゃんはケース3の陣形、対空中戦用配置!」
「了解よぉ。………………"一時的に対象の戦闘スーツの機能向上…………強化コードJA1を承認"」
金色の十芒星・ヴィーナス。ホシ達の主戦力の一角であると同時に人類の文明を破壊した恐るべき尖兵だ。
簡単に言ってしまえばとんでもない強敵だ。周りでウロウロしている二体の妖精のファンタジーやらメルヘンみたいな印象に油断してはならない。
「イブちゃんはどうするノ!?」
「私は、━━━━仕掛ける!」
━━━━故に最初から全力、一撃で仕留める。
陣光衛星による戦闘スーツの強化を受けた私は、大剣を両手で構えながらヴィーナスを一瞥し、━━━━思い切って地面を蹴った。
暗闇の中に浮かび上がる肉体、今の私は星空の一部へと成りながら倒すべき相手へと迫るのだ!
「天太芒炎鏡よ………………唸れ!」
吹き荒れる突風と共にヴィーナスへと接近する、その時間はまさに一瞬。
距離にしておよそ二メートル。振り下ろして大剣を当てるのに一秒と掛からないだろう。
油断は無い、慢心も無い、あるのはただの赤き勇猛の昂りのみ。
私は目一杯の力を込めて目の前の金星にその刃を振り下ろす………………。
『守ろう! 守ろう!』
『守ろう! 守ろう!』
━━━━が、刃は届かない。ギンッという甲高い音と共にその一撃は阻まれていまう。
ヴィーナスの周囲に漂っていた二体の妖精がヤツを守るようにして紫色のバリアを出現させたのだ。
一撃を与えることもできなかった私は深い森の中へと再び落ちていく。
「レイちゃんの一撃を簡単に受け止めちゃったヨ…………」
「チッ、見かけによらず厄介だね。まずはあの妖精達をなんとかしないと!」
このまま二撃目を加えるために足に力を込めようとする。
『Ahhahhhaaaaaa!!』
だが敵の行動はそれよりも早く、そして鋭かった。
耳をつんざく叫び声がヴィーナスから上がると、木影を突風に揺らされていた森に異変が現れた。
『……………………』
『……………………』
『……………………』
『……………………』
━━━━それはまるで森の樹から『眼』が現れたような違和感。愉快なカートゥーン映画のような愛らしいくりくりとした大きな眼だ。そしてその眼から凍えるような冷たい『眼差し』が私達に向けられている。
これだけならまだヴィーナスの幻覚として受け入れただろう。問題はこの眼差しに明確な敵意が宿っていること!
四方から刺す敵意の視線、その後の行動はあまりにも明確だ!
『……………………!!!』
『……………………!!!』
『……………………!!!』
『……………………!!!』
それを例えるのなら緑色の桜吹雪だろうか。
樹達の枝から生えた無数の木の葉が刃となって私達へ襲うのだ!
「ひ、ヒィ!! 葉っぱが襲って来ルゥ!!」
「"バリアプログラム起動"。みんな私の側に来てぇ!」
メイアさんの作ったバリアが緑色の刃の防ぐ。だが流れ星のように降り注ぐ木の葉の雨は視界を妨げるのには充分。あっという間に私達の目の前は緑色に支配されてしまう。
「………………小癪な」
そして視界を塞がれた憐れ者達に待ち受けるもの。
━━━━圧倒的な面制圧、すり潰すような広範囲の攻撃だ。
『Ah…………Ahhahhhaaaaaa!!』
慟哭と同時に木漏れ出る戦慄の輝き。それはかつて私達の文明を破壊し尽くした忌まわしき黄金の光。
星空から流れ落ちる一本の槍。金星の輝きの一撃はまさしく森の木々の全てを震わせながら私達へと向かって真っ直ぐに振り下ろされた。
━━━━━ガァッァァンッ!
けたたましい崩壊の音色。土煙が森の全てを覆い尽くし夜空の先へと消えていく。
二十秒ほどの時が経過した頃に土煙は晴れる。
あれほどの攻撃、普通なら更地が出来上がっていてもおかしくないだろう。しかし森はその景色が一切変わること無く、ただただその場に生い茂っていた。
「…………はあ…………はあ…………」
「あ、危なかっタ………………。レイちゃんとメイちゃんが居なきゃもうダメだったヨ…………」
そして爆心地。一番被害が大きいであろう私達はヴィーナスの協力な攻撃を受けてなお、その二つの足で立っていた。
メイアさんの陣光衛星によるバリアと私の天太芒炎鏡による迎撃によりなんとか直撃を逸らしたのだ。
「"天太芒炎鏡 破損率60% 至急メンテナンスを推奨"」
「バリアは………………もうダメねぇ。さっきの攻撃で
しかし状況は最悪だった。
さっきの攻撃で天太芒炎鏡は明らかに悲鳴を上げている、そして陣光衛星が大破しメイアさんは戦えない状態になってしまった。
一方ヴィーナスは未だ健在。妖精達も嬉しそうにしながらヤツの周りを飛び交っている。
━━━━━まさしく絶体絶命。
「チッ…………」
苛立ちのままに舌打ちをする。が、そんなことをしたとて状況が好転することはない。
この絶体絶命の状況を打開するのに必要な物は何か。星空を睨みながら必死に考えを巡らせる。
(幸いあの一撃は撃つまでに時間が必要らしい。でも天太芒炎鏡が使えるのはあと一撃のみ。陣光衛星が壊れているから戦闘スーツの強化はもうできないし上空にいるアイツを追うのは困難………………)
巡らせたとて出てくるのは不利な情報のみ。
このままヴィーナスの第二撃を指を咥えて待つしかできないのか………………。
(………………いや、まだ手はある!)
そんな時に思い出す、この劣勢を打破し得る策。
分の悪い賭け。しかし賭ける価値のある最高の大博打を!
「ハトちゃん」
「どうしたの?」
「芒炎鏡をヴィーナスに向かって撃ちまくって。できるだけたくさん」
「…………えぇ?」
私のいきなりのお願いにハトちゃんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
「狙いがあるの。とにかくお願い!」
「ま、まあイブちゃんのお願いならわかったヨ!」
「ありがとう! それじゃあ作戦開始!」
そう言うや否や私は生い茂る木の葉に紛れながら森の中へと駆け抜けて行った。
同時に何発もの銃声が耳を響かせ、オレンジ色の光が空へと向けて放たれた。
「さあ、早く行かないと」
目的地はヴィーナスの背後。
時折襲って来る木の葉の刃は左手に持った芒炎鏡で撃ち落とす。
右手に大剣、左手に銃。なんとも不恰好な女戦士が一人森の中を進んで行く。
「…………うん、ここがいいね」
そうして一分程経ち目的地に到着した。
上を見上げれば光を纏いながら悠々と佇んでいるヴィーナスの姿と芒炎鏡のレーザーから守っている二体の妖精が目に映った。
「さあて、これでビックリしてよ」
芒炎鏡の照準を定め引き鉄にゆっくりと指を掛ける。
ここからが逆襲の時、━━━━最高の舞台の幕開けだ!
━━━━バンッ!
乾いた音と共にオレンジ色の光が真っ直ぐヴィーナス…………の横にいる赤い妖精に向かって放たれた。
『………………!?』
『………………!?』
今の今までハトちゃんの攻撃の対処に集中していた赤い妖精は不意の一撃をモロに喰らってしまう。
当然もう一体の青い妖精は動揺する。そして動揺は大きな隙を生み出す。
━━━━肉体では無く、その心に。
「やったぁ! 仕留めたぞ!」
わざとらしい大きな声を上げる。
それに気付いた青い妖精は先程の嬉しそうな感情とは真逆の感情を露わにした。
『あくまだ! あくまだ! 倒そう! 倒そう!』
そして守るべき
私は迎撃しようと芒炎鏡を放つ、が、妖精の青い色のバリアが私の攻撃を防いでしまう。
━━━━狙い通りだ。
『………………!?!!??』
途端、こちらへ向かっていた青い妖精の動きが止まる。まるで蜘蛛の糸のような強力な電流が青い妖精を絡め取っている。
星電器による拘束。怒りに狂った妖精は文明の利器という糸に捕らえられてしまったのだ。
「いひひ、やっぱりネ。この辺りの木は罠が仕掛けやすいんダ!」
ハトちゃんの罠設置の技術はまさに神技だ。妖精の見せたあの一瞬の隙だけで正確に仕掛けてくれた。
「ありがとう、ハトちゃん! ハァッ!」
地面を蹴って飛び上がる。
先程とは違ってスーツの強化が無いのでヴィーナスの場所まで飛距離は出ない、しかし
「そのバリア、使わせてもらう、よッ!」
『ああ!!』
バリアを出しながら拘束されている青い妖精を踏み台にヴィーナスへと思いっきり接近する。
『
ヴィーナスは近づいて来る敵を迎撃しようと金色の熱光線を放った。降り注ぐ光の小雨が私を襲う。
「ぐっ…………まだまだぁ!!」
身体の至る所に小さな穴が空こうがそれでも止まらない。そうして私は再びヴィーナスの目の前へと昇り立った。
『
しかしまだ終わらない。
ヴィーナスが身体を一際強く輝かせると私の身体全体を覆う強力な熱光線を放った。
「ガァアッッアア!!」
痛い! 熱い! 苦しい! 痛い!
瞬間的に全身に伝わる焼けるような痛みは私の意識を刈り取るのに充分。万物を融かす地獄の炎そのものだ。
「……………………」
薄れゆく意識の中、徐々に閉じていく瞼の裏からある映像が流れ始めていた。
『おホシ様…………おホシ様! ああああああああ!!』
『綺麗なおホシ様!! 私達を導いてください! アハハハハハハハ!!」
『お、おい! 急にどうしたんだ! ぎゃあ!』
『ママ、お願いやめて!! ぶたないで!!』
それは毎日現れ出てくる過去の悪夢。
人々が狂い、家族を恋人を殺した最悪な映像。
なんでもない日常が唐突に壊され、奪われ、そして殺された忌まわしき記憶。
そして、━━━━ホシへの復讐を決意した大切な思い出。
「アアアアアアアアアァァッ!!!!」
その瞬間、身体の中からとてつもない力が湧き上がった。
力の名前は悲しみ、怒り、そして憎悪。
結局、最後の最後に私を突き動かしたのは人が持つ『偏り』というどうしようもない感情だった。
それらは本来なら忌むべき感情なのだろう。しかし感情の力というのは計り知れない程のエネルギーへと生まれ変わる。
「天太芒炎鏡ォ!! 叫べェッ!!」
感情のエネルギーにより天太芒炎鏡の刀身を赤く燃え滾らせ、凄まじいパワーを放たれている。
そして全てを奪った相手が目の前にいる、あとは振り下ろすだけだ!
「お前の夢はこれで…………」
燃える痛みの中、手に持った
「終わりだァッ!!」
忌まわしき
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