第7話 朱蒼 ①

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 砂埃が風に舞いながら、壊れかけのレンガ屋敷が崩れ落ちる。さながら巨大なビルを発破解体した時のような痛快な光景だ。

 赤と青の九芒星による攻撃は童話の街に立ち並ぶ家々をこれでもかと言うほどに破壊し辺り一面を更地へと変えながら迫って来ていた。


 その目的は己の主人を守るために邪魔者を排除するため━━━━なんとも涙ぐましい努力だ。もし私が奴らの子供なら「お父さん、お母さん! 僕を守ってくれてありがとう、大好き!」なんて歓喜の声を上げながら抱きついてしまうだろう。


 ━━━━しかし今の私達の前ではそれも無駄な努力だ。



「"対象熱源解析…………完了。対象熱源をB+級の攻撃と断定。グリーンライトバリア発動"」



 忘れてはならない。私達のチームには天門台が誇る最高戦力の一人がいることに。



「"バリアプログラムを自動反応に設定。メインコアユニット、サブジェネレータユニット、メイアープログラム実現ユニット、その他プログラムユニット………………全て異常なし"」



 何故後方支援が専門である彼女が天門台の最高戦力の一人に数えられているのか、その理由は至ってシンプル。

 

 ━━━━彼女の参加する作戦は100%の成功が保証されているからだ。



「ようやく私の出番ねぇ」



 その言葉と共に彼女は目にも止まらぬ速さで空中に浮かぶホログラムパネルを操作すると、無機質な機械音と共に彼女の背負っている大きなバックパックのアンテナから緑色の光が放たれると大きな壁になって私達の前に立ち塞がった。



「"陣光衛星じんこうえいせい………………起動"」



 そして二対の九芒星による朱蒼の熱光線は、天門台の最高戦力━━━━メイアさんが生み出したバリアによって完全に防がれた。



「感度良好、緑光グリーンライトの威力もバッチリだわぁ」



 だが一連の絶技を生み出した当人はなんとも無いように、背負ったバックパックを指で撫でながらはにかみ微笑むのだった。


 万能補助機器『陣光衛星じんこうえいせい』。

 前線のサポートを目的として天門台が開発した緑光星グリーンライトスタープログラム発生装置。

 大きなバックパックを主装置に、ホログラムパネルを操作して各種サポート機能を生み出すことができる天門台が誇る最新兵器。


 その光によって生み出されたバリアの硬さは見ての通りまさに堅牢。堅い守りは戦況を丸ごと覆す好機を生み出す。

 そしてそこから生まれた好機は私達を勝利へと導く。


 ━━━バンッ!


『!??!!?!!』

『!??!!?!!』



 芒炎鏡から放たれた二発のオレンジ色の光は真っ直ぐと進んで行き、二つのホシを貫いた。

 貫かれたホシは声にならない声と共に私達の立つ地へと堕ちて行く。



「狙い通りだねハトちゃん」

「イブちゃんがしっかり合わせてくれたからネ!」



 真芯に捉えた一撃。いくら九芒星といえど無事では済まないだろう━━━━そう、無事では済まないはずだった。


『………………Aghuuaa』

『……………………』


 しかし朱蒼のホシはまだ沈まなかった。

 うめき声を上げながらもその身体を未だに青空の下で照らしていたのだ。


『……………………』

『……………………』


 そしてこの一撃は奴らの中に眠る真の力を解き放つキッカケとなる━━━━━暴走だ!


『『Ughhh…………………!!』』


 まるで手負いの獣のような慟哭が二つ━━━━そして地獄は作り上げられる。


『『………………Arghhhhhhhhhhh!!』』


 二対の九芒星が叫ぶと共にその身体から放たれた炎と氷の嵐が童話の街を襲い始める。

 それはまさしく誰もが思い浮かべるであろう地獄の光景そのもの。


 熱い、寒い、苦しい、冷たい、渇く、寂しい、渇く、凍る、燃える、凍る。


 二つの極点による攻撃は渇望を求める嘆きが繰り返されながら幸せで溢れていた童話の街は朱蒼の役者達によって一瞬にして悲劇の舞台へと変貌させるのだった。

 ━━━━そしてその悲劇の舞台に立つ役者の中には私達も含まれていた。



「ここじゃ戦うには狭すぎる! 二人とも付いてきて!」


「わ、わかった! ひい!」


「守りは私に任せてぇ!」



 そうして私達は踵を返して童話の街の中を駆け抜け始めた。

 暴走した二対のホシは仇敵を逃すことはない。耳障りな喚き声を上げながらも逃げる私達を追いかけながら熱光線を辺り一面にばら撒いている。


 しかし今までとは違い奴らの熱光線が命中したモノは等しく燃え盛り、そして凍り付くようになっていた。

 


「あの九芒星達、攻撃の性質が変わってる!?」


「上位個体にはよくあることよぉ」

 


 メイアさん曰く、ホシ達の中には四元素など特殊な攻撃を扱える個体が存在することが確認されている。ご覧の通り、火や氷を使って攻撃するような個体だ。故に奴らのやっていることは珍しいことではない。



「でもここまでの威力を見たのは初めてわねぇ!」


「ともかくさっき通った広場に行こう! 作戦を思い付いたから!」



 途中で目に映る炎に包まれている赤レンガのお屋敷に美しい人魚姫、冷たい風に飛ばされて共に凍り付いたトナカイとサンタクロース。夢は今燃え尽き、凍り付こうとしている。



『フェフェア、ア、ア、ア……………よ、よよよよよ…………そそ。ここはよ、よよ妖精……よう…………せい…………』


『サンタさん…………サササ、サンタ…………さん…………ソリ…………クリ……スマス…………クルシイ…………』



 死にゆく街を横目に降り注ぐ熱光線を避けながら私達は走り続ける。

 走って、走って、走り続け、何分走ったのかも忘れ始めた時、ようやくその場所へとたどり着いた。


 そこは通りの中腹にある童話の街の広場。

 かつて盛えていた頃には沢山の子供達を楽しませるために愉快な大道芸が披露され賑わっていた場所だ。

 幸いここは奴らの炎と氷の被害が少なかった。

 


「メイアさん、ホシとの距離はどれくらい?」


「およそ二十ぐらいね」


「芒炎鏡の射程外だヨ! どうするのイブちゃん!」


「二人は少しの間だけホシを惹きつけて、その間に私がを崩して押し潰す!」


「アレを…………」

「崩す…………?」



 私の視線の先にあるモノを見て二人は唖然とする。当然だろう。こんなことを考えるなんて私しかいないのだから。

 しかしこれ以上作戦を考える余裕は無い━━━━奴らが来たから。



Star enemiesホシの敵達………………destroy滅ぼしてやる…………』


we私達が………………protect守る…………』



「ああもう! やる時は合図してよネ!」

「ハトさん、私が援護するわぁ!」

「うん、二人ともお願いね!」



 文句を言いながらも私のことを信じてくれた二人に笑顔を見せながら私は戦線を離脱してある場所へ向かって行くのだった。

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