第21話 彼氏の相談
「え……っと、大山研一、です」
「あ、突然すみません。土屋るみと言います」
「土屋さん。なんか悩みでもあるんですか?」
早速本題に入ってみた。星野さんは出されたお茶を飲んでいたが、土屋さんはコップに口をつけることなく話し出した。
「えっと、私が悩んでるっていうか。彼氏についてなんですけど」
「彼氏?」
なんだ、彼氏いるのか。……なんてガッカリしたのは心の中だけに秘めておこう。お年頃の男子の脳内はこんなもんだ。
「ええと、彼氏さんがどうしたんです?」
「ずっと肩が重いって言ってて。あと夜すごくうなされたりするみたいなんです。本人は疲れてるせいかなって考えてるみたいなんですけど、私は心配で……」
「肩が重くて夜うなされる……他には?」
「いえ、それぐらいです」
申し訳ないがずっこけてしまうかと思った。いや、本人は悩んでるんだろう。でもそれは怪奇な現象というより、疲れやストレスからよくくる現象だ。怪奇な方に話を持っていく方が強引とも思える。
「そ、それは……疲れてる、とかじゃないのかなあ」
「あの、私もそれは思うんですけど。こういうこと言うのあれなんですけど、彼すごく人気者でもてるんです。だから変な女の子が逆恨みとかしてないかなって」
やたら視線を泳がせるように言う土屋さんをみて、なんとなく納得した。これはあれだ、土屋さん自身も恋愛に疲れてるのかな。モテる彼氏を持ってる悩みが行きすぎちゃってる感じなのかも。
僕は困ったように星野さんに視線を送ったが、彼女は黙って土屋さんをみている。ううん、どうしたものか。
「えーと、じゃあ土屋さんじゃなくて彼氏さんと会うのが一番かな」
「彼はそう言う類の話信じないと思います。私がこうやって悩んでることも知らないから……」
「ううん、困ったな」
腕を組んで唸る。ようやく星野さんが口を開いた。
「彼氏って誰?」
「え? 星野さん知らないの?」
僕が驚いて声を出す。彼女は頷いた。
「土屋さんともこの前初めて喋ったの」
「……ああ、そう」
仲良い友達、ってわけじゃないのか。納得。
土屋さんは少し顔を緩ませた。そして鞄の中からスマホを取り出し画像を僕たちに示す。男友達と映ってる一人の青年が笑っていた。
「この子です、真ん中の」
「は〜……確かにモテそうだ」
僕は唸った。自分とは正反対のキラキラ男子だ。中性的な可愛らしい感じの顔立ちと、明るいキャラが伝わってくる笑顔。こりゃ彼女としては心配かもなあ。
土屋さんは嬉しそうに笑った。
「大学の先輩で……明るくて優しい人なんです」
(ここにきて惚気か。ご馳走様です)
「本当モテる人だから心配で。まあ、ただの体調不良とかならいいんですけど……いつも困ったように首を回したり、体調悪くて大学休むこともあるみたいで……」
俯いて心配そうに言う彼女に、とりあえず僕は慰めの言葉をかけた。
「ええっと、肩が重くて眠れないことぐらい誰でもあるし、やばいのに憑かれてたらそれどころじゃなくなるし」
「そうなんですか……?」
「うん、ちょっと様子見でもいいんじゃないかなあ。もっと悪化するようなら彼氏と一緒にくればいいよ」
多分来ないだろう、と踏んでいた。これは土屋さんの心配が行きすぎただけだ。多分この彼氏は憑かれてるわけじゃない。
僕の言葉に彼女は少しほっとしたようだった。ようやく出したお茶を少し飲み、そのまま彼氏について少し話たあと、晴れた顔で僕の家から帰宅していった。
……なぜか星野さんを置いて。
「あ、あの、星野さん?」
「え?」
「あ、いやえーと。土屋さん多分大丈夫そうだよね」
なんでまだいるの? と聞きかけてやめた。多分、いや絶対深い意味なんてないからだ。なんとなく居座ってるか、もしくはオカルト話がしたいかだ。
「突然きてごめんね。全然話したことない子なんだけど、大学で心霊の本を読んでたから気になって声かけたの」
「なーる……」
「そしたら彼氏が悩んでるって聞いて、大山くんのところに連れてきちゃった。正直大した話じゃないなと思ったんだけど、大山くんが聞いたらなんか面白いことになるかなって」
口角をあげて笑う。どっと脱力した。またこの人は面白がって僕を利用する。ちょっとムッとしたまま答えた。
「まあ本人来なきゃ意味ないし。肩が重くてうなされるぐらいなら疲れだと思うよ、土屋さんが心配しすぎ」
「本人、ね……」
「まあ憑いてたとしても僕は祓えないから意味ないんだけど」
「じゃあ本人、見に行かない?」
とんでもないことを言い出したので驚いて隣を見る。目を輝かせながら星野さんは続けた。
「もしかしたら本当に憑いてるのかも。そしたら面白いじゃない、今度うちの大学来ない?」
「え、え、いや僕部外者だし!」
「私も一緒にいるし、遠目から見るだけ。これで本当に肩に女が乗ってる、なんてなればすごいよね」
「え、でも」
「決まり。都合がいい日時合わせましょ」
非常に嬉しそうに星野さんはそう言った。そして今までずっとしまっていた鷹の爪を取り出し、ぱくぱくと食べ始める。まるで遊園地に出かける子供のような顔だ。ああこれはもう止められないぞ、絶対何がなんでも僕を連れていくつもりだ。そう心の中で嘆いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます