第7話 悪意気配 

今日、初めて王宮の敷地から外へ出てきたよ。ここは王都の街の中。デビュー~~!


「さて、街へ行こう。ベス、僕の手を握っててくれるか? どこかへ飛ばされないようにね」

別に、手ぐらい・・・全然平気だよ? だってもう、さんざん・・・抱きしめられちゃってるし・・・

転移! で、街の中心部の市場?の上空に移動。あれ? 浮いてるよ?・・・


「良いかい? 転移するときは、気配は消えてるね、それ、指輪が自動的に気配遮断をかけてくれてるね、良い指輪だ。このようにまず、上空に移動して地上の様子を伺う。

すぐには落ちないから落ち着いてやればいい。それで、人の気配の無い場所を探してそこへもう一度転移!で移動する・・・・

(ベス! まだだよ・・・)


もう良いのかな~って思って、姿を現そうとしたら・・・先生に注意されちゃった!

と、後ろの方から、子供たちが3人、走り去っていった・・・・

ああ、そういうことね、気配察知を忘れていたわ。

(ああ、危なかったね。あそこで姿を現してたら・・・・)

(はい、ぶつかってました。それに、急に知らない人が現れて、驚かせたと思います)

(そうそう、前も横も、後ろも、離れた周りも・・・見るだけじゃなくてちゃんと気配を探ってからだよ!? さあ、今はどうかな?)

(・・・はい、人などの気配はありませんので、あそこの大木の後ろに行ってから姿を現したいと思います)

(あははは、慎重だね・・・良いことだ)


「ベス、分かったかい、これが正しい転移の使い方だよ」

「はい」


「よし、では、ここでやることを説明しようか・・・」


ここは、王都の中心部で、市場や出店などが並ぶ、とにかく人通りの多いところ。

だから、いろんな人がいる。

地上の人間世界ほどでは無いけれど、ここにも、心の悪い奴がいる。まずは、このマリアナ王都で、人の悪意を感知できるように訓練するんだ。


*悪意感知 の訓練


「どう? ベスは、今この周りで、何か感じないかい?」

えっ? いきなりですか~ 私なんて、屋台から良い香りがしてるな~、くらいしか考えてなかったっていうのに・・・

いけない! いけない・・・

気配察知の対象範囲を広くしてみた。


(先生、あそこの屋台、魚の焼き上がりを待っているご婦人の後ろに並んでいる男の人たちの気配が・・・周りとは違うように思えます)

(うん、どんなふうに違うのかな? その男の人たちを対象に絞り込んで鑑定してみたら?)

あっ、そうか・・・鑑定!


*竜人 王都民 

・称号:窃盗、詐欺、人攫い


「ははは、分かったかい? それにしてもベスは優秀だね。

 この世界、地上世界もだけど、悪いことをした物には、称号が現れるのさ、これは神の仕業だね。だから、鑑定を使える人にはそれが見えるんだよ。

街の中でも、この鑑定の機能を組み込んだ水晶玉があって、それに手を触れると、分かるようになってるよ。

それとね、まだ、称号が現れるまでには至ってない人でも、そういう悪意の感情が大きい場合には、気配で分かるんだよ・・・ベスも、いろいろ人を見ていくと、もっとはっきり分かるようになるだろうね・・・」


「はい、わかりました。それで、先生? あの人たちをどうにかするのですか?」

「いや、まだ何もしないよ。だってまだあいつら、犯行をおこしてないよね。そんな状況では、文句も言えないでしょ? だから、少し、見ていようか・・・あまり直接じっと見つめないで、気配で見るようにするんだよ」


またまた、難しいことを・・・見ないで、気配で見るの? 

・・・・

やってみました。うん! できません! でも、もう一度・・・・

あれ? あの人たちの手の動きまで、見てないのに分かるようになってきたよ・・・


「あっ! 先生、一人が、前に並んでいた奥様の鞄から何かを取りました。泥棒です!」

「よろしい、正解。あれは、鞄からお金の入った袋を盗んだね・・・

 良いかい、あの男たちのあとを追うよ!・・・それと、人に聞かれちゃまずい時は念話でね・・・」


あの奥様は気が付いてないわね。まあ、私は、犯人を逃がさないように・・・

あれ? どこかへいくんだね。

私たちも、あとを付けながら、周りの気配と隙をみて、気配遮断して姿を消して追いかける。

商店街の端っこで、地べたに座り込んだ。あっ、あれは盗んだ袋だ、出して見てる。

中を検めて何か顔が緩んでる、気持ち悪い~~

「さて、ベス、取り押さえよう! できる? 殺しちゃダメだよ」


う~ん、どうしよう・・・

こういう場合は、まず、相手を無力化する・・・そうだ・・催眠!を3人の男たちにかける。 催眠!っと・・・

ふふふ、あなたたち・・・そんな地べたに座って眠ってるの? 

「よし、後は僕がここを見ててあげるから、ベスは市場に戻って警備兵を呼んできてくれるかな?」

「はい!」


警備兵さんなんてどこを探せば・・・って、なんだ市場の要所要所にいるのね。見つけた。

「すみません、財布泥棒を見つけて、今私の知り合いが取り押さえています。付いてきてくれませんか?」

「なんだぁ~ 子供か? 親はどうした! 変なことを言ってないで向こうへ行ってろ!」

あれ?れれれ・・・ そういう態度なの? ううう~~~・・・


と、どこからか兵隊さんが3人走って寄ってきた。警備兵から話を聞いて・・・

「お嬢さん、犯人はどこですか?」 

兵隊さんの一人がどこかへ走っていってしまったけど、残った二人を案内しよう。

「はい、こっちです・・・」


ちゃんと、案内しましたよ。まだ3人とも眠っていたけど。

「犯人逮捕の御協力を感謝します。では、後は私どもが・・・」


「ああ、その袋にはお金が入っています、焼き魚の屋台で並んでいた、長い髪の奥様の鞄の中から取られたものです」

「はい、承知しました」


と、そこへ、さっきの走っていった一人の兵隊さんと警備兵がその奥様を連れて走ってきたよ・・・・


ふう~ なんとかなったの? 

(ベス、よくやった! どうだった?)

(最初ね、警備兵さんたちが私の話を聞いてくれないし、信じてもらえなかったの・・・

でも、あとから来てくれた兵隊さんたちがちゃんとやってくれたからよかった。

兵隊さんたちには、悪い感情はありませんでした。警備兵さんたちにも悪意は無かったんだけど・・・)


(まあ、普通は、子供の言うことなんて、すぐには信じてもらえないことも多いんだよ。

でも、良かったね、兵隊さんたちが来てくれて。あの人たちは、近衛隊の兵士だよ。僕たちを探していたんだろうね・・・・)

(えっ? それって? 私たちの動きが監視されてたってこと?)

(ああ、途中からだけどね・・・)


先生は・・・分かっていたんだ・・・・私は、全然・・・・分かんなかった。


「さあ、ベス、少し歩こうか?」

「・・・」

「ベス? なんか怖い顔してない? どうしたの?」

「だって、近衛兵に見られてたなんて、全然分かんなかったから、気配を探っているんです・・・」

「そう? でも、そんなにリキんでいたら・・・疲れるよ? もっと、自然に・・自然体で出来るようにしないと・・・」


そんなの、ちっちゃい私にできるの? だから、良いの、今は・・・リキんでも! 頑張る!



あれ? 眠ってた? 目を覚ましたら・・・おじ様の太ももの上にいた。

「やあ、起きたかい? ベス?」

きゃぁぁぁ~ 私ったら・・・先生を枕にして寝てたの?・・・


「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」

「どうした、ベス? 何を謝っているのかな?」

「だって~ 先生の上で寝てたなんて・・・」

「ははは、まあ、いいじゃないか・・・

 本当は違うよ。

 あんなに力んで魔力を駄々洩れにしてるから、魔力が枯渇して、ベスは意識を失って地べたに倒れたんだ。仕方がないから、クリーンをかけてあげて、このベンチまで抱えてきたってこと、分かった?」

「はい・・・ごめんなさい、ありがとうございます」


「だから、言ったでしょ? もっと、自然体でって・・・・」

「でも・・・分かんなかったんだもん・・・」

「ははは、今、レベルとかはどうなってるのかな?」


えっ? 何も変わってないのと違うの?  鑑定! 私・・・


▶ベス

・レベル:350-> 700ー>1000 (公開80)

・魔力 :400->1000ー>1200 (公開80)


(追加)

*神獣の加護※



あれ? すごく上がってる・・・・

「すごいね・・・ノア君を召喚出来たときに、一気に上がったね。しかも、ノア君の加護まで付いてるし・・・

今、ベスは、この周り、どのくらいの範囲で気配察知できるの?」

「えっと・・・中央市場くらいまで?」

「そう? ノア君を呼び出してからやってみたら?」

うん、ノアちゃん、ちょっと助けて?


「あれ!~~ この王都全部に渡って気配察知できてる?」

「ああ、やっぱりね、それ、神獣の加護だね。ノア君がベスに力を貸してくれてるね・・・」

「そうなんだ! ノア、そうなの? ありがとう!」

<にゃん!>


「あっ、すごいわ・・・近衛兵さんたちの場所までわかる、私のマップに連動してるし・・・

こんなに多くの近衛兵が見張っていたんだ~ もぉ~、お父様ったら! 

それに、悪意の強い場所、弱いけど悪意のある場所・・・いろいろ分かっちゃう!・・・」


「そう、そういうこと・・・じゃあ、一番大きな悪意の場所へ行ってみる?」

「はい」

「うん、じゃあ、そこへ連れていってくれる? 転移で・・・」

えっと・・・マップで場所を指定してでも転移できたよね・・・その場所の上空まで・・・転移!


ノアに肩に乗ってもらって、その一帯を鑑定!してみる。

そこは、王都の北の端にある庶民の長屋が並ぶ場所に隣接するドランボ男爵邸。

その屋敷の中に、悪意感情の高い男の人たちが12人いるよ。

何でぇ~ 男爵って、貴族の屋敷だよね。


「ははは、ベス、貴族って言っても、いろいろなのがいるんだよ・・・

悪い奴は駄目だな。」

「ふ~ん、そうなんだ・・・でも、何であんなに悪意が大きいの?」

「さあね、調べてみれば?」

そらきた~ いきなりですね・・・どうやって調べればいいのかな?

<にゃん!>


あっ!そうか・・・分かった! 闇魔法・記憶読み!

屋敷の中にいる一番豪華な服装の人を対象にして、催眠!をかけて、ちょっと失礼しますね・・・記憶読み!


分かったことは・・・

このドランボ男爵は、このあたりの泥棒達を雇って、裏で、見つからないようにいろいろな悪事をやっている元締め。

さっきみたいなコソ泥、空き巣もやってる。

特に、商人の店を夜間に襲ったり、商人の馬車を襲ったりもしてる。

盗賊のボスには、男爵から魔法鞄が一つ貸し出されていて、犯行の結果を鞄にいれて男爵迄持ち帰ると、男爵から報酬が支払われる。

その鞄は、入れるのは誰でも入れられるけど、取り出しは男爵しかできない。

もし、獲物を鞄に入れずに、胡麻化した場合には、集団リンチで始末され、王都外の死体捨て場に捨てられるか、海の底に沈められる。

男爵は、もう、かれこれ20年くらい、この裏仕事をやっている。

よく、捕まらないでこれたよね~~でも、もう終わりにしましょう!


男爵の催眠を解除してあげたら、あくびをしながら、盗賊たちのところへ行ったわ・・・


先生にも、男爵の記憶から得られた情報を伝えておいた。


「そう? よく調べたね・・・あとは、そういう犯罪の証拠が必要だね。それがなければ、単なる言いがかりとなって、こっちが悪い者になりかねないし」

う~ん、いろいろめんどくさいのね・・・・

チャチャ・・・って出来ちゃえば良いのに~


「とにかく、何か証拠を見つけて、それを、警備兵、まあ、この場合は相手が男爵だから、王宮警備隊に通報したほうが良い」

「はい・・・」

「よし、さあ、行こうか!?」

と、先生が姿を消したので、私も気配遮断!ノアは私の肩の上だよ・・・


屋敷の裏門が空いていたので、そのままそこから侵入・・・ふふふ、何かわくわく・・・不法侵入だよね、これ絶対に見つかったら駄目なやつ。姿を見せられないよ~~~


裏庭で、雇われている悪意持ちの盗賊たちが焼肉パーティ? 盛り上がっているので、そのそばをスリスリと抜けていく。

途中、盗賊たちの話し声が聞こえてきたよ。


「おい、昨日はいったばかりの新人3人、財布泥棒で早くも捕まったらしいな、ちゃんとお前ら、手口や逃げ方を教えたんだろうな!」

「ああ、ちゃんと、教えたんだがな、今日は、やけに警備や兵士が多かったセイじゃないのか?」

「まあ、あいつらから、此処が表沙汰になることは無いだろうが、良いか! お前らもドジやるんじゃねぇぞ!」

「ああ、分かってますって! さあ、もう、肉も焼けてきましたぜ~」


「さあ、旦那、旦那もどうです? たまには、むさ苦しい俺らと、肉でも食べましょうぜ!」

「ははは、お前ら、飲みすぎるなよ!・・・」


ああ、なるほど、財布泥棒たちは、ここで繋がるのか~ ここの事は知らされてないんだろうね・・・


(ベス? そこから中にはいるよ。大抵は、貴族様の書斎とか寝室あたりに何かの書類が隠されているものだから・・・・ちょうど男爵も肉パーティだからな、ちょうどいい。そこを探そう)

(はい)







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