トレーニングをしろ!
五月に入り、気温が日に日に上昇してきた頃。運動部の外での部活動が活発になっている中、オニゲーム部の面々はというと――
「よーいスタート!」
テストをしていた。
「うう、なんで毎日テストなんか……」
「そこ、私語は厳禁だよ」
「すんません……」
話は一週間前に遡る。
「さて、セラの足も完治したことだし。そろそろ本格的にトレーニングを始めたいと思うんだけど」
「いよいよ、ッスね……!」
「今から、間に合う?」
「間に合わせるしかないだろ。俺も最善は尽くして練習メニュー考えたし」
「風見くんのおかげで各々に合わせた練習メニューを立てられたからね。本当に助かったよ、ありがとう。これから僕たちは古賀祭で行われるオニゲーム……宝オニに適したトレーニングを行いたいと思う」
「宝オニに適したトレーニング?」
リヒト以外の四人が首を傾げる。
「グレードEのオニバライでは独自のローカルルールを追加することが許可されているんだけど……今回の宝オニでは、地元の住民から出されるクイズに答えることで宝の場所のヒントをもらえる、というルールが追加されているらしい」
リヒトは愛用の白いケースに入れたタブレットを見やりながらも説明は止めない。
「クイズの内容まではわからなかったけどね。それに合わせて、今日からトレーニングの前に雑学テストを行います」
にこ、と笑いながら紙を取り出したリヒトに、えぇ~!?という声が巻き起こったのは言うまでもない。
……というのが一週間前の出来事だ。それ以来リヒトは毎日雑学に関する小テストを作り、トレーニングの前に行っている。五分の制限時間のもと、リヒトお手製のテストをセラたち四人は毎日受けさせられていた。
「……はい、終了。テスト集めるよ」
「毎日毎日テストあるの気が滅入るよぉ……」
さすがにこれにはリヒトに懐いているセラすら彼を睨みつけざるを得ない。恨みがましく突き刺さる四つの視線を軽くいなしながら、リヒトはテストの採点を始めた。
「結果知らせるよ。セラ、五点中二点。花江くん、五点中三点。山中さん、五点中一点。風見くん、満点。以上だよ」
「だぁぁー!!まーた風見に負けた!!」
「よし、満点」
「うぅ、わたし二点……」
「セラ、がんばった。私、一点」
「今回は少し難しめだったしね。それでも満点の風見くんはすごいなぁ。みんな復習もしっかりやるように。それじゃ、トレーニング始めようか」
採点を終えたテストを返し、リヒトは立ち上がる。そんな彼に倣い、セラたちもまた筆記用具を片付け彼の後に続く。
「今日は何するの?」
「今日は走り込みだよ。何はともあれ体力をつけるのは大事だから」
「うへぇ……今日は何周するんスか?」
「ふふふ」
「意味深……」
談笑しつつ校舎を出るオニゲーム部の面々。創部されたばかりなため実績の無い彼らでは、一名高校のグラウンドを満足に使うことはできない。そのため体力づくりのトレーニングを行うのはいつも敷地外だ。校庭の片隅で軽い準備運動を行った後、みな敷地の外に出る。
「あぁ、そうだ。みんな少し待っていてくれるかい。花江先生に呼ばれていたんだ」
「それくらいお安い御用ッスよ。早く姉ちゃんのとこ行ってあげてください」
「わたしたちいつもより念入りにストレッチしてるね!」
「いやこの時間使ってさっきの雑学テストの復習した方が良いんじゃね?先輩、タブレット貸してもらえます?」
「うう……勉強、キライ……」
「風見くん任せたよ」
リヒトから愛用のタブレットを預かり、先程のテストの内容を皆であーでもないこーでもないと言い合いながら復習していると。
「すみません」
黒髪の少年に話しかけられた。ところどころ髪が跳ねているのが特徴的な少年は、少し大きめのパーカーをワイシャツの上に羽織っていた。
「古賀駅に戻るにはどの道を行けば良いですか」
「駅?それならこの先の大通り行けばすぐだよ」
「……そんなに近くだったんですね。先程から同じ場所に戻ってしまっていたので」
「方向音痴なの?」
「セラしっ!!」
ズバッと言い放ったセラを慌てて小歌が諫める。そんなセラを少年は一瞬だけ見やったが、またスマホに目をやった。
「ありがとうございました」
「あー、待てって。心配だからオレついてくよ」
「いえ、そこまで迷惑をかけるわけには」
「なんなら駅までみんなで走って行かね?良いトレーニングになるだろ」
「お、カザミンナイスアイデア!」
「トレーニング、良い」
「うへぇ……まじかよ……」
「君たちも運動部なんですか?」
「そうだよ!わたしたちはオニゲーム部なの!」
「……そうなんですね」
少年の目が一瞬揺らぐ。それに気づいた小歌は理由を問うか迷ったが、
「よーし駅まで競争だー!」
「一番遅く駅に着いたやつがジュース奢りなー!」
セラと颯が駆け出しアリアもそれに続いていったため、結局問うことはできなかった。
「いやそれ絶対オレ不利だし先に先輩に連絡入れような!?あぁもう……!」
「……皆さん仲が良いんですね」
「え?まぁ、それなりにな。……よし、先輩に伝え終わった。オレたちはゆっくり行こうぜ。どーせオレの奢りになるからさ」
「そうですね、迷ってはまたタイムロスになりますから」
「……迷ってた自覚あるんだな」
結局小歌がジュースを奢ることになった。全員分のジュースを自動販売機で買った小歌は、最後にサイダーを少年に渡した。
「……これは?」
「オレがジュース奢る約束になってたからなー。あ、もしかして炭酸苦手だった?」
「いえ、そういうわけでは……。僕、部外者ですよ?」
「あー、良いんだよそういうの気にしなくて。オレの話し相手になってくれたお礼、とでも受け取っといてよ」
「おー、こーちゃんイケメンなことしてるー」
「良いぞー花江ー」
「ひゅーひゅー」
「茶化すなよ恥ずかしくなってくるだろ!」
「……」
少年はぎゅっとサイダーを握りしめると、
「……ありがとうございます」
と消え入りそうな声でお礼を言った。
「あ、てか電車の時間大丈夫?」
「はい、問題ありません」
「なら良かった」
「皆さん、ありがとうございました」
「そういえば、名前、聞いてない。なんて、言う?」
背中を向けていた少年は、アリアの問いに顔だけセラたちに向けてこう答えた。
「
それだけ言うと、優馬は駅の中へと消えていった。
オニゲーム! 夜野千夜 @gatatk
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