第2話 亜魔瓈瓈好/アマリリス

 翌日。


 ハレルヤ女学園。一年教室。


「ねぇ、昨日のテレビ見た?」

 1年 茅ヶ崎 静乃 通称 マケガオ


「もちろん。って一緒に見てたじゃん。もう忘れたの?」

 1年 砂岡 瞳 通称 ドヤガオ


「そうだっけ?」

「そうだよ。でも、不思議だよね」


「何が?あ、昨日のテレビに出てたMCのが頭がカツラみたいだったって話?」

「そうじゃないわよ。…でも、あれはカツラね。絶対に」


「でしょ?やっぱそうだよねー」

「うん。じゃなくてさ…私達、異世界にいるんでしょ?それなのになんで当たり前にテレビが映ってるのよ。それって変じゃない?」

「でも、映るよ」


 教室のテレビをいじるマケガオ。


「いや、そうなんだけど」

「あ、」


「なに?…なんか映ってる?」

「…テレ東しか映らない」


「……おいッ。そんな事かよ。びっくりさせんなよ」

「でも変だよ。テレ東しか映らないんだよ。普通逆じゃない?」


「え?なんで?」

「だってよく言うじゃん。テレ東にはローカル局がないから地方ではなかなか見れないって。それなのにテレ東は映って他の局は全く反応しないんだよ。って事はこの世界は、東京!それともテレ東の本社とか?」


「バカ!?何言ってんのよ?そんな大それた事がテレ東なんかに出来るわけないでしょ」

「言い過ぎじゃない?、じゃあ、なんで?」


「そんなの知らないわよ。多分、たまたまなんじゃない?」

「たまたまなの?本当に?」


「本当よ。奇跡が起こってその奇跡にきっとテレ東が答えてくれたのよ」

「奇跡?」


「そうよ。でも良かったじゃない。テレ東だけでも映って。これで、この世界にいても現代の情報が手に入るって事なんだから」

「でも、ZIPはやらないよ」


「バカァ!水卜ちゃんはいないけど、大江さんのいるWBSがあれば十分でしょうが!!それで我慢しなさい」

「ええ〜」


「ええ〜じゃないのよ。いいじゃない。テレ東ならアニメもドラマもバラエティーだって強いんだから暇つぶしくらいには丁度いいでしょ」

「そうだけど〜、。ってかドヤガオってテレ東好きだったんだ?」

「……別に!そんなわけないでしょ…ただ、たまたま好きな番組が多くやってたのがテレ東だっただけよ。好きだってわけじゃないんだからね!」


 何故か頬を赤くして照れているのを必死に隠そうとしている。


「ねぇねえ?」

「何?今度は何が不満なのよ?」


「そうじゃなくて、ほら、アレ」

「ん?」


 教室の窓からは学校の出入り口。つまり校門周辺が見えるのだが、その周辺には学校内でまず見かけないであろう、甲冑姿の人間が大量に並んでいる。


「アレもテレ東が用意したの?やっぱりテレ東って凄いんだね!」

「んなわけあるか!テレビは関係ないからぁっ!…なんなんだ?アレ。どっかの国の兵隊か何か?それとも異世界だからこんなの日常茶飯事だったりするのか!?とにかく、この事を誰かに伝えないとヤバいんじゃ!?」


「誰かって、誰に?」

「決まってんでしょ!この学校で1番強いあの人達しかいないじゃない!私達じゃどうにもなんないんだからさ」


「そうだね。で、誰が伝えにいくの?」

「誰って、私達しかいないでしょ。ここにいるのは私達しかいないんだから」


「だけど、下っぱの私達じゃ園芸部の部室がある別棟には行けないよ。私達2人とも、顔見知りではあるけど許可は貰ってないんだもん、無理だよ」

「あ、そうだったぁ……」


 この学校の頂点である園芸部はハレルヤ女学園の敷地内に建つ別棟に存在する。その別棟には現在、園芸部の人間しか立ち入りを許されていない。


 別棟に行くために必要な条件はただ1つ。


 園芸部の部員達に決闘を挑み、勝利を掴み認めさせるしかない。


 因みに以前、ドヤガオとマケガオも園芸部入部を賭けて、威薔薇ノ棘、四天王サシミに勝負を挑んだのだが、結果はお察しのとおり。


「あーあ。あの時勝ってたらなぁ、こんな事で悩む事もなかったのになぁーー」

「仕方ないじゃん。あんなのに初見で勝てる訳ないもん。でも、サシミさん、悪い人じゃなかったよ。私達を一瞬でボコボコにした後、一瞬で私達の事を手当してくれたし」


「そうだけどさ。アレはないよー。流石に無理だって」

「うん。で、どうするの?どうやってこの事伝えるの?」


「そんなこと言ったって直接行くしかないだろ!…緊急時なんだからルールを破ったって怒られはしないでしょ!」

「それもそうだね〜。なら、いってらしゃい〜!」


 他人事の様に手を振ってドヤガオを送り出そうとするマケガオ。


「…アンタも一緒に行くのよ!」


 強引に手を引っ張り無理矢理教室の外に連れ出す。


「えぇ〜。私、怒られたくない〜。もう、あんな思いするのも痛いのもイヤだよ〜」

「駄駄こねないの!いいから行くわよ。それに大丈夫よ。怒られる時は一緒だしきっと一瞬で終わるわよ。あの時みたいにね……」

「それがイヤなのーーー」


 そんな2人のもとに1人の女生徒が声をかけてきた。


「お待ちください!」


「「え、だれ!?」」


「ねぇ、この人ドヤガオの知り合い?」

「いや、マケガオの知り合いじゃないの?」


「違うよ。私、こんな派手な格好の服着た女友達はいないよー」

「でもアレ、ウチの制服だろ?色々と改造はしてあるみたいだけど……」


「私のことご存じありません?」


「「ご存知ありません」」


「なるほど。様子を見るにお二人はまだ一年の様子。それなら私の事を知らないのも無理はないですね。私もお二人とは当然初対面なんですから」


「何なのこの人…」


「自己紹介が遅れました。私、この学校の情報屋、2年の新宿 来夢と申します。これから私の事はカモメで構いません。以降ご贔屓に」

 2年 自称新聞部 部長 新宿 来夢 通称 カモメ


「「はぁ……」」


「いきなりですが今回の件私、新聞部に任せていただけませんか?」

「任せるって……あれ?そういえばこの学校って新聞部なんてありましたっけ?マケガオ知ってた?」

「ううん。知らない〜。だって私新聞部読まないもん」


「ええ。新聞部なんて部活は存在していません。あったとしても部員はきっと私1人だけですから……。ですから先に言ったでしょう?私はただの情報屋だって…」


 先程とは打って変わって少しネガティブな表情を見せるカモメ。


「じゃあ何でそんな無駄なことを?」

「おい、マケガオ。少しは言葉を選びなって。一応は先輩なんだからさ」

「構いませんよ。事実ですから…。新聞部だって言ったのはただのカッコつけと建前です。そう言った方が、よく分からない情報屋で押し切るより何かと話が上手く行きそうな気がして…スミマセン」


「ほら、マケガオのせいで先輩へこんじゃったじゃん!どうすんのよー」

「私、悪くないもん」


「もう…あの、先輩?いや、カモメさん?そんな気にしなくてもいいと思うんで元気出してくださいよ。ね、」

「大丈夫です。こういうのは慣れっこですから。それより、今回のこと私に任せていただけるんですか?」


「任せるのは別に構いませんけど、どうやって伝えに行くんです?園芸部じゃない私達じゃ部室のある別棟に行けませんよね?」

「だからこそ任せて欲しいんです。別棟に行ける許可を持ってる私に」


「え、そうなんですか?!」

「ええ。お二人みたいな1年は知らないかもしれませんが、この学園には私のように園芸部以外の生徒でも別棟の立ち入りを特別に許可されている生徒が僅かながら存在しているんです」


 自信満々に問いに答えるカモメ。


「私、そんなの聞いてない…。なんでそんな大事な事を教えてくれなかったの〜!ドヤガオ!……それを知ってればあんな痛い目に会わずに済んだかもしれないのにー」

「私もこんなの初耳なんだから教えられるわけないでしょ!決闘以外にも園芸部に関われる方法があったなんて」

「で、どうします?そろそろ、急いだ方がいいかもしれませんよ。見てください。外にいるあの人たちもソワソワしてきましたから何か行動を起こすのかもしれませんよ。急がないと」


「…ですね。分かりました。今回の件は全てお任せします。マケガオもそれでいいよね?」

「私は最初から反対なんてしてないよ〜。ただ、ドヤガオが色々と話し出したから私も付き合っただけ。これでもしも、大変な事になっても私のせいじゃないもん」


「いやいや、そうなったらお互いの責任に決まってるでしょ?なんで私だけにしれっと全ての責任を押し付けるの。もしもの時は一緒に道連れよ」

「えぇぇーーー」


「大丈夫です。私がそうなる前にこの事を皆さんにお知らせしますから。それに例えもしもの時が起こったとしてもウチには部長がいますから。きっとなんとかしてくれますよ。では、私はこれで失礼しますね」


 そう言ってカモメは急いで園芸部のある別棟に向かった。


「部長か…私会ったことも見たこともないんだよね〜。入学してからもう直ぐ半年ぐらい経つのに、一度も。」

「私も…ってか、部長って本当にいるんだね。私、都市伝説的なモノだとずっと思ってた。だって、部長って事はさ、園芸部の中で1番強いって事でしょ?」


「まぁ、普通に考えたらそうだね」

「四天王であんなに強かったのにさ、アレよりも強いってこと?」


「そうだね。見た事ないけど」

「そんなのもう、バケモノじゃん…」


「バケモノではないんじゃない?…妖怪かもよ?」

「…どっちも一緒だよ」

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