ある日、都合の良い事に異世界へ飛ばされたヤンキーJK達は今日も元気にプロレス技を駆使して売られたケンカを勝っていく〜「異世界にレフェリーはいないんだから何をしたっていいわよね?」

春風邪 日陰

Different World''20XX

第1話 抜華璃蘇/バッカリス

 時は現代。


 県内随一の広大な敷地と大きさを兼ね備える城のような建物。そして高い学力と淡麗な容姿を持った者が多く集まる学校。


 その名は私立ハレルヤ女学園。


 通う者は皆、有名企業のご令嬢など所謂金持ちが殆どの超お嬢様学校。県内でこの学校の事を知らない人間はきっといないだろう。


 それがいい意味でも、悪い意味でも。


 設立から20年経った今、県内随一のお嬢様学校だった面影はそこから微塵も感じられない。純白を基調として建てられた建物は生徒達による落書きで埋まっていて、校舎内も当然荒れ果ててしまっている。


 以前までの美しさは完全に皆無だ。


 感じられるのは混沌と現在を夢中で生きてる女生徒達の熱い想いのみ。


 そんなこんなで、今では県内随一のお嬢様学校が一転、不良達が多く通う落ちぶれた女子校として、県内外でも有名になってしまうほどになった。


 そして現在。その学校と生徒達は日本には存在しない。


 この物語は戦いの技術と魔法や能力が跋扈する俗にいう異世界で武器も魔法も使えない、ありがちなチートスキルも存在しないワケあり不良JK達が異世界を好きに、そして自由気ままに自分達なりに生きていくそんなお話。の筈だ……




 そんな彼女達は異世界、バルキュリア王国の外れにある怪しげな森に学校ごと転移していたのであった。


 ハレルヤ女学園 園芸部 部室にて


「どうだった?街に行ってなんか成果あった?」

 ハレルヤ女学園 園芸部(威薔薇ノ棘) 四天王 3年 美津谷 朱美 通称 アシュラ。


「いーや、なにも。これっと言った収穫はなしっ!!」

 同じく園芸部(威薔薇ノ棘) 四天王 3年 加島 友莉亜 通称 エンジェル。


「そ、結局この三日間で分かったのは私達は地球とは違うどこか知らない異世界にいるって事と、何故か日本語が通用するから意思疎通は心配ないって事だけか」

「でも、不思議だよね。明らかに日本人じゃない人ばっかなのに普通に私達の言葉が通じるんだからさ。街に行っても看板とかに書いてある文字の表記も全部日本語なんだよ。これってどうなってんだろうね?」


「そんな事私に聞かれても知るわけないでしょう?ま、でもそのおかげで此処がどんな世界かは分かる事が出来たんだけど」

「……バルキュリアだっけ?この国の名前?」

「あ、いたんだ?サシミ。見当たらないからいないと思ってたわよ」


「……今、来たとこだから」

 園芸部(威薔薇ノ棘) 四天王 3年 緋海 葉月 通称 サシミ。


「アンタはほんと足が早いわよね。いないと思った次の瞬間にはいつの間にいるんだから。そういうのさ、毎回ちょっと心臓に悪いから少しは加減してくれない?」

「……無理。出来たとしても嫌だ」

「そうだよ。アシュラも無理言っちゃダメだよ〜。サシミちゃんは足が早くて可愛いんだから。その旨みが無くなったら可哀想じゃんっ!…サシミだけに。ふふっ、はははっ!」


「アンタも自分で言って笑ってんじゃないわよ。…あのね、私だって本気のつもりでなんか言ってないわよ。しかもそれだって全部部長達が認めた私達の取り柄で個性なんだ。本気でやめてくれなんてそんな事言ってるわけないでしょ!」

「……その部長は今どこに?」

「忘れたの?この時間はお昼寝中。いつもの部屋で寝てらっしゃるわ」


「部長も凄いよね〜。自分のいる世界が変わっちゃったのにいつも通りいられるんだから」

「そのおかげで私達も冷静に事を運べてるんだ。普通ならもうちょっと私達だってパニックになっててもおかしくないんだから」


「それはそうだね。部長がいなければきっと今もこうはしていられないもん」

「……うん」

「あ、そういえばアイツは今どこにいんのよ?最近、異世界に来てから全く見かけないけど…」


「アイツ?ああ、アイツね。アイツなら「異世界転生だーーーーッ」てなんか言いながら街に飛び出したまでは私も知ってるけど、それから帰って来てないなら知らな〜い」

「はぁ〜……アイツって奴は。アイツの事だからこんな異世界でも何があっても死にはしないだろうけど少しくらいは危機感持てって話よ」

「……転移」


「え?なによ、サシミ?」

「異世界転移。…私達、死んでないから正しくは異世界転移だと思う」

「あれ?サシミちゃんもしかしてこういう事詳しかったりするタイプ?」


 サシミは黙って頷く。


「やっぱりそうなんだぁ。じゃあさ、私達も魔法とかって使えたりするのかなぁ?ね、どうなの?」

「……それは、何とも言えない」


「え〜〜。何で〜っ?」

「……この手のタイプも最近は色々多すぎて私にも分からない」


「でも一応、私達が使えるかどうかは別としても想像通りこの世界に魔法自体は存在するみたいよ」

「アシュラ、それってほんと!?」


「うん。多分ね」

「なによ、多分って?ハッキリしてよ!」

「いや、だって私も見た事はないもの。ただ街に行った時にそれらしい話題を耳に挟んだから。なんとなく。でもあるでしょ?異世界なんだから」


「……確かめる方法ならあるかも」

「え?ほんと?サシミちゃん!?何、どうすればいいの?」


 食い気味でサシミに近づくエンジェル。


「……ステータスって叫んでみるとか?」

「ステータス?、そう言えばいいのね?」

「なぁ、サシミ…」


「ステータスッ!!」


 エンジェルが放った声は部室に大きく響き渡った。


「おいっ!!声が大きいって!部長が起きちゃうから。向こうの部屋まで聞こえちゃったらどうすんのよー?…もしも、部長がそれで起きちゃったらさ、私達どうなるか分かったもんじゃないわよ!」

「分からない」


「そ、だから、もうちょっと小さな声で」

「分からないッ!何もならないよ!?ねぇ、どうなってんの?これで良かったんじゃないの?」

「……何も見えたりしない?」


「うん。何も」


「……違ったみたい。テヘッ」

「ええ〜!違うの?!それじゃあ、私達魔法使えないじゃん!なんだよ〜〜」


「……まだ、分からない。ステータス表示が出てこないパターンもあるからまだ、諦めちゃ駄目」

「え、もしかしてまだ私にも可能成があるって事?」


「……うん。可能性はあると思う。可能性は」

「それなら私は諦めない!」

「エンジェル……アンタって人も…」


 すると部室の扉が開く。


「そんなに騒いでどうしたんや?おっきな声が廊下まで聞こえてきで?」

 園芸部(威薔薇ノ棘) 副部長 3年 麻戈 沙莉 通称   エプロン


「あ、エプロンさん。…すみませんっ。ご迷惑おかけしまして」

「ウチは別にいいけど、遥が怒って来ても知らんで?」


「ですよね……。そういえばエプロンさんは今までお一人で何されてたんです?」

「ん?ウチもちょっと街に探索に行ってきたんよ。それで今帰ってきたところや」


「…何か収穫ありました?」

「うん〜。微妙かな?これが果たしていいのか悪いのかは分からんけど」


「一体どうしたんです?」

「いやいや、そんな身構える事ちゃうで。ただな、私達の想像通りこの世界にはやっぱモンスターってのがいるらしくてな…」


「モンスターですか…」

「……これぞ剣と魔法の異世界って感じ」

「なに呑気に言ってんのよ。…でも、確かになんとなく分かってはいたけど本当にいるんですね。モンスター…」

「ねぇ、モンスターってどんなのなの?」

「さあ?」


「……序盤によく出やすいのはゴブリンとかスライムとか?ちょっと強いところだとオークとかが王道かも」

「じゃあさ、もしそれと出会ったとして、喧嘩に自信のある私達なら勝てるかな?」

「いや、どう考えても無理でしょ。私達はただの素人JKなのよ。俗に言う勇者でも無ければ冒険者でもないんだから」

「えぇ。無理かなぁ〜。私はなんとかなる気がするんだけどな〜」


「いやいや、有り得ない事だらけの異世界で武器も持てない魔法を使えるかも分からない私達が常識も通じない異世界の怪物に敵うわけがないでしょ!」

「でもさそれを言っちゃうとさこの世界にとって私達も常識が通じない存在なのは一緒でしょ?」


「まぁ。それは確かにそうだけど、でもそういう問題でもない気が、」

「なら、最初はスライムくらいから試して見ればいいじゃん!スライムなら私だって知ってるし1番何とかなりやすそうじゃない?」


「……スライムを舐めないほうがいいよ。最近じゃスライムほど強力なモンスターを私は知らないわ」

「え、そうなの?」


「…うん。スライムが本気出したら一瞬でエンジェルの着てる服なんか溶かされると思う。それで済めばラッキーな方かもね」

「イッヤーーッ!サシミちゃんのエッチィ!そんな話しないでよ。私、そういうの無理だって知ってるでしょ!?ちょっと想像しちゃったじゃん!!」

「……でも本当のことだから」


「とにかく。もしも、私達がそのモンスターに出会ったらまずは逃げる。取り敢えずはそういう事で。いいわね?エプロンさんもそれでいいですよね?」

「ええと思うでそれで。大事になったら取り返しがつかへんからな。でも、その前にちょっと疑問があってな?」


「疑問とは?」

「今日も街からこの森まで戻って来る時にも思ったんやけど、そのモンスターの姿を一度も見たことないな〜って思ってな。だってここ、いかにもって雰囲気がただよう森の中やろ。それなのにモンスターどころか動物らしき生物の姿すら1度も見てないってちょっと変な感じせぇへん?」


「そういえばそうですね……」

「……夜になったらモンスターとかも活発になりやすそうなのに、鳴き声とかも聞こえてこないのは確かにおかしいと思う」


「サシミちゃんもやっぱりそう思う?そうやんなぁ。考えれば考えるほどここが私達にとってなんかここが都合が良過ぎる気がするねん。だって、この森から少し歩いたら大きな街に繋がってるってのも出来過ぎやない?」

「考えてみれば確かに気になる事だらけですけど、そんなの考えたって仕方ないんじゃ?それをはっきりさせる方法なんて今の所何もないんですし…」


 そんな至極当たり前な発言をしたアシュラに全員の視線が集まる。


「…何よ。なんかヤバいこと言っちゃった私?」


「いや、ほんとにそうやなぁって思って。そうなんよな〜。そんなの考えたって仕方ないねん。よし決めた!気にせんでおこうか!ホンマ、アシュラは流石やなー」

「そうそう。難しいこと考えたってしょうがないんだから。どうせ考えるなら楽しい事にしようよ!」

「……例えば?」


「女子高生が話す楽しい事って言ったらひとつしかないでしょ!恋バナよ、恋バナ!実は私ね、この前家の近くのコンビニでね…」

「はいはい。分かったわよ。その話は何度も聞いてるからね〜。誰もそんなの興味ないっていい加減気付きなって…」


「いや、前のとはちょっと違うんだってば。お願い。この話は面白いから。後悔させないから、ね、ちょっとだけ。1分でいいから。話させてよーーー!!」

「はいはい。またあとでね〜…」


 アシュラがエンジェルを豪快に引き摺りながら半ば強引に部室から去っていった。


「……エプロンさん」

「ん?」


「……私達はこの異世界で何をすればいいんでしょうか?ここに来たのもきっと何か目的がある気がしてならないんです」

「さあ?そんなん私に聞かれても困るわー。ウチだって色々手探りで色々と頑張ってる最中なんやから、そんなの最初からそんなん分かってたら苦労してへんよ」


「……そ、そうですよね。すみません、変な事聞いて」

「ええよ。別に。不安な気持ちは多分みんな一緒やからさ。でも、さっきアシュラが言ってたやろ?気になる事を全部考えてたって仕方ないって。だから、ウチらは今を好きに生きればいいんよ。それが暫くのウチらの目的や」


「……エプロンさん」

「それに、ウチらには遥がおるんやから。遥がいればこの世界でも暇する事はなさそうやしな」


「……ですね。部長がいますもんね」

「そう。なんとでもしてくれるわよ。きっとな」

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