第14話 勇者の使命

 「師匠……!」

 「プリメーラさん!」


 私の姿を見るなり、こちらへ走ってくるジネッタ師匠。


 「怖かったよぉぉぉぉ!!」


 目尻に大量の涙を溜め込みながら私の体に抱きついてきた。

 よほど怖かったのだろう、体がふるふると震えていた。


 「無事でよかった……」


 私は安堵の息をつきながら、彼女の頭を撫でていった。


 「プリメーラさん、何であの人間は私を助けてくれたの……?」


 師匠は不思議といった表情を浮かべながら聞いてきた。


 「そうだな、どんなことがあってもゼストは勇者ってことなんだろうな……」


 正直私にも理由はわからない……。

 だが、私を助けてくれた時やクラーケンの時にも彼は率先して助けにいった。

 もしかしたら、ゼストが勇者である所以かもしれないな。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「はっ!!」


 アビスワームの体全体を使った攻撃を避けながら、攻撃をしていくが

 思っていた以上に固く弾かれてしまう。


 「体を攻撃するのは無理だな……」


 そうすると狙うは柔らかい部分。

 先ほどみたいに目を攻撃するのは効果的だが、先ほどは隙があったからできたことだ。

 同じことをやれば下手すれば相手の反撃を喰らう可能性がある。


 「だとしたら他を狙うしかないが……」


 魔物の攻撃を捌きながら、剣が通りやすい柔らかいところを探していく。

 探しているうちに、アビスワームは猛スピードでこちらに近づいてくると、大きな口を開けてきた。

 

 「よっと……!」


 軸をずらして避けることができた。

 通り過ぎたアビスワームはぐるりと体を捻りもう一度俺を目掛けて突撃しようとしていた。


 「……俺なんか食べても美味しいとは思えないけどな」


 くだらないことを考えながらもアビスワームの突進をもう一度避ける。

 

 「キシャアアアアアアア!!!!」


 獲物を捉えることができないことに苛立ったのか、アビスワームは雄叫びを上げ、こちらを振り向く。


 「……いや、喰われてみるのもありか」


 独りごちていると、ふと気づいたことがあった。

 目以外にも柔らかい場所があることに。

 できることなら、やりたくはないが、他に策もないしな……。


 アビスワームが俺を目掛けて突撃してきた。

 俺の目の前で大きく口を開ける。


 「ゼスト……!」


 俺の視界は真っ暗になった。

 

 「プリメーラさん、人間が……食べられちゃった!?」

 「嘘だろ、ゼスト! 返事をしてくれ!」

 

 微かだが、外にいるプリメーラとジネッタの声が聞こえてくる。

 辺りを剣で突っついてみると、フニャッと柔らかい感触が伝わってくる。


 「予想通りだ、外がダメなら中から行くしかない……!」


 俺はラファーガを掲げ、気合いを入れる。


 「オーラバスターァァァァァァ!!!」


 ラファーガの剣身が眩い光に包まれ、上空へと舞い上がり、アビスワームの体を貫いていく。

 

 「グギャアアアアアアアアア!!!!」


 舞い上がった光はアビスワーム全体を包みこむと、そこにあったものは光の塵となって消えていった。


 「……何とかなったな」


 安心していると、体に衝撃が走った。


 「なんて無茶なことをするんだ!」


 プリメーラが俺の体に抱きついていた。

 それと同時に腹あたりに柔らかい感触が伝わってくるが彼女の顔を見てそんなことを言ってられなくなった。


 「……泣くことじゃないだろ」

 「うるさい、泣かすようなことをするゼストが悪い!」

 「無茶苦茶だな……」


 動くことができなかったので、その場に立っているとジネッタがゆっくりと俺の傍へやってきた。


 「に、人間……さん」

 「……どうした?」


 ジネッタは顔を真っ赤にしていたが、すぐに俺の顔をじっくりと見ていた。


 「助けてくれてありがとう……!」


 そう告げると勢いよく頭を下げる。


 「いや、無事ならよかったよ」


 俺の言葉にジネッタは照れくさそうに笑っていた。


 

 「おーい! ジネッタが帰ってきたぞ!」


 鉱山の入口に戻ってくると、ドワーフたちが集まってきた。


 「よかった、無事だったんか!」


 真っ先に駆け付けたのは先ほど倒れていたドワーフだった。


 「オッちゃんも無事でよかったよ」

 

 ジネッタは笑顔で答えていた。


 「そ、それよりも魔物はどうなったんだ!?」

 「奥に強い魔物がいて、そいつを倒したら他の魔物もいなくなってた」

 「まさか、ジネッタがやったのか?」

 「そんなことできないよ」


 そう言ってジネッタは俺の方を見ていた。


 「強い魔物を倒したのはこの人間さんだよ」


 ジネッタの言葉にドワーフたちは大声をあげていた。


 「ま、まさか人間が助けてくれたのか……!?」

 「いや、ジネッタに幻覚をみせたのかもしれんぞ!」

 

 ドワーフたちは一斉に俺を見る。

 まあ、敵対している相手に助けられたとなれば何とも言えない気分になるだろう。


 「みんなはどう思うかわからないけど、私は助けてくれたことに感謝するよ!」


 ジネッタの言葉にドワーフたちはざわめき始める。


 「わかった、人間を憎んでいたジネッタがそう言うのであれば、オレたちも信じてみよう」


 ドワーフたちは再度俺の方を向くと、一斉に頭を下げた。


 「「「魔物から我らの長を救出いただき、ありがとう、人間!」」」

 「い、いや……たいしたことしてないから頭をあげてくれ!」


 こう言うことは何度もあるが、慣れるものではない。

 そういえばアルシオーネ様に「お主は謙虚すぎる」と言われたことがあったな。


 「っていうか……長って?」

 「私だよ?」


 俺の横でジネッタが自身を指さしていた。


 「言ってなかったか?」


 反対側でプリメーラが口を開く。


 「いや、聞いてないぞ、魔道具の師匠であることは聞いたが」

 「そっか、まあそんな細かいことはいいじゃないか!」

 「……いい加減だな」


 俺がため息をついていると、ジネッタがドワーフたちの前に立つと、大声を上げる。


 「今日は助けてくれた恩人をもてなすとしよう!」


 ジネッタの声にドワーフたちは一斉に大声をあげていた。


 「たいしたことはできないかもしれないが、今日は楽しんでいってね」


 ジネッタの顔はあった直後とは正反対の笑顔を見せていた。


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【あとがき】

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