第10話 乙女ゲーの世界?
ベッドに横たわっても、頭がやけに冴えていた。
もう少しで思い出せそうな気がする。ここがどのゲームの世界の中なのか。
天蓋を見つめながら、頭の中を整理する。
大神官ルシアン。
聖騎士団長アルバート。
副団長ヴィンセント。
そして聖騎士レン。
すべて覚えのある名前。聖女……神殿……。
彼らが攻略対象の、乙女ゲーム……。
ああ、そうだ!
入院中にやっていたスマホのアプリゲーム、『あなたに捧ぐ聖なる祈り』、略して『アナイノ』!
よしよしよし思い出した!
えーっと、元孤児の女の子に聖女の力が発現して神殿に引き取られて、そこにはイケメン神官やイケメン聖騎士がいて……ってやつ。
でも二次元と三次元の違いか、容姿はそんなに似ていない気がする。目の色や髪の色、髪型はたぶん同じだけど。だから思い出すのに時間がかかったんだよね。
攻略対象もあと数人いた気がするけど、思い出せない。
このゲーム、えーと……クリアした? なんか飽きて途中で放り出した気がする。
リリースと同時にダウンロード数が異常に伸びた『アナイノ』だけど、プレイした人の評価は可もなく不可もなくみたいなのが多かったんじゃなかったかな。
それにしても。
内容はあんまり覚えてないけど、もしかしてこれから恋愛イベントが起きたりするんだろうか。
……って、あの人たち相手に? 無理じゃない? お互いに。
そもそも嫌われスタートの乙女ゲームなんてある?
いやそれ以前に攻略対象が一人、追放されてていないんですけど。
何かおかしい。何か……。
まず聖女に、オリヴィアという名前はなかった気がする。名前を自由に入れられる方式だった。
それはいいとして。「十六歳だから私と同じか~」って思いながらやってなかった!?
ベッドから飛び出て、鏡を見る。
名前:桜井織江(オリヴィア)
職業:聖女
年齢:十九歳
性格:小心者 泣き虫
性格の部分に微妙なのが増えてるのはひとまず置いておくとして。
やっぱり、十九歳になってる。
ってことは、アナイノの三年後の世界……?
そういえば、主人公は新米聖女という設定だった。
オリヴィアが自殺したのが八か月前、聖女としての務めを果たしていた期間が三年弱という話だから、新米聖女だったのなんて三年半くらい前の話じゃん……。
だとしても、なんで主人公である聖女がこんなに嫌われてるの? もしかして全員攻略失敗したバッドエンド後の世界とか!?
全然楽しくない。
イケメンにチヤホヤされないのはまだいいとしても、嫌われた主人公に憑依ってどうなのよ。
聖女オリエという名前でゲームをプレイした罰か何かなの。
つん、と鏡をつつく。
鏡に映るこの金髪美女が、今の私。スタイルもいいなあ。
体を動かす際の違和感はなくなってきたけど、鏡を見ても相変わらず自分っていう感じはしない。
こんなに美人で周囲はイケメンだらけという環境なのに、楽しい恋愛イベントも起きやしないなんて。
でもまあ……いっか。攻略対象はイケメンとはいえ怖い人ばかりだし、関わらずに元気に楽しく生きていけば、それで。
いつまでオリヴィアでいられるかすらわからないんだから、健康な体を楽しもう。
そう納得して寝ようとしたところで、チェストの引き出しから青い光が漏れていることに気づいた。
なんだろう?
引き出しを開けると、分厚い本のようなものがあった。
本には鍵がかかっている。
鍵なんて持ってないし……と鍵穴に触れたとき、カチンと音がして鍵が外れた。
無意識にそれを開こうとして、手を止める。
もしかしてオリヴィアの日記とか? 見ていいものなんだろうか。
でも、運が良ければオリヴィアとして生きていくのに必要な情報が書いてあるかもしれない。
読んではいけなさそうな内容だったらすぐ閉じよう、と思いながらその本を開く。
そこに書いてあるのは……日本語だった。
『初めまして、日本からのお客様。
私は、聖女オリヴィア。その体の持ち主よ』
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