第6話 能力を手に入れた


 ぼんやりと目を開けると、まず天蓋が目に入った。

 明るく眩しい朝。聞こえてくる鳥たちのさえずり。

 ああ、今日も生きて目覚めることができた。


 今も昔も、眠るのは怖い。

 そのまま目が覚めず死ぬのではないかと不安になるから。

 昔は、病気のため。今は、借り物の体だから。


 体を起こして周囲を見回す。いまだに慣れない部屋。

 まさか自分が異世界に来るなんて思ってもみなかった。これは病院で死にかけている自分が見ている夢なんじゃないかって疑うこともある。

 でも、夢というには何もかもがリアルすぎる。


 それにしても。

 銀髪にアイスブルーの瞳の、大神官ルシアン。

 やっぱり、この名前と髪と瞳の色に覚えがある。でも、どこでその情報に触れたのか思い出せない。

 あの美しすぎる彼の顔を見ても、「あ、見たことがある人だ」という感じにはならなかったし、一度聴いたら忘れられなさそうなあのイイ声にも覚えがない。

 でも「ルシアン」を知っている気がする。

 いや異世界に知り合いなんているはずがないんだけど。ましてや、あんな二次元にしか存在しなそうな男性なんて。

 ……二次元。もしかして二次元のキャラだったりする?

 魔法やら聖女やら、いかにもファンタジーな世界だし。

 ってことは私、異世界漫画や小説、乙女ゲームのキャラに憑依しちゃった系?

 あるある、そういうストーリー。小説の中の〇〇に憑依してしまいました! みたいな。

 誰かが作ったストーリーに入り込むなんて、ありえるのかなぁって感じだけど……。


 仮にゲームか漫画か小説だったとして。

 どれだっけ、聖女オリヴィアや大神官ルシアンが出てくるの。

 体が弱くてとにかくインドア、それ系の漫画や小説を読み漁ってゲームも片っ端からやったから、候補が多すぎてどれだったか思い出せない。

 神殿が出てくる話といえば――。


 とそこでノックの音が聞こえて思考が途切れる。


「どうぞ」


 あ、しまった、ここは「入りなさい」だった。


「失礼いたします」


 入ってきたのは、栗色の髪と瞳の優しそうなメイド。

 えーと、名前……は知らないや。

 そう思った瞬間、彼女の横に突如、ゲームウィンドウのような四角い青いモノが浮き上がった。

 え、何これ。

 白い文字でそこに書かれていたのは。


 名前:メイ

 年齢:二十一歳

 職業:聖女付きメイド

 性格:良い


 ……うん?


「おはようございます、聖女様」


「おはよう、……メイ」


 試しにウィンドウのようなものに見えた名前で呼んでみると、彼女が驚いた顔をした。


「聖女様……私のような者にご挨拶を返してくださるなんて……しかも名前まで……! 恐れ多いことでございます、ありがとうございます!」


 名前、正解だったみたい。

 ってことは、名前と年齢と職業と性格がわかる能力を手に入れたってこと?

 オリヴィアのふりをするために役に立ちそう。やったぁ!

 ウィンドウが見えるのは、この体が聖女だからなのか、ここが架空の世界だからなのか。

 なんだかゲームっぽいなー。ってことは、やっぱり乙女ゲームかな。


 メイに身支度を手伝ってもらい、朝食の場へと向かう。

 廊下に立っている騎士もちらりと見てみたけど、やっぱり名前や職業:聖騎士といった文字が見えた。性格は普通が多いらしい。

 昨日と同じ部屋に行くと、すでにルシアンが座っていた。

 彼の横にもウィンドウが見える。


 名前:ルシアン

 年齢:二十四歳

 職業:中央神殿大神官

 性格:悪い


「プッ」


 思わず吹き出す。


「……何か?」


「あ、いえ、なんでも……」


 これはちょっと楽しい。

 これ以上ニヤニヤしてると彼に探られそうなので、やめた。

 まだこの能力を彼に言うつもりはない。まずはここが本当にゲームの世界なのか確かめてから。

 いろいろ強引に話を進められてるんだから、これくらいは許されるよね?


 美味しい朝食を終え、部屋に戻ってふと考える。

 もしかして……鏡を見たら、私についてもウィンドウが見えるのでは!?

 ドキドキしながら部屋にある鏡に近づいて、目をこらす。

 鏡にウィンドウが映った。

 性格……「良い」でありますように!


 名前:桜井織江(オリヴィア)

 職業:聖女

 年齢:十九歳

 性格:小心者


「……」


 いや性格。

 他の人は良いか悪いか普通しかなかったのに、なんで私だけ小心者なの。

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