第2話 目覚めたら、異世界?

 目覚めたら、姫空間。

 どういうことだろう、本当に。


 広い、ひろーい部屋には豪奢ごうしゃな調度品が並んでいる。カーペットも豪華だし、壁紙もカーテンも高そうだ。どう見ても、ネット通販で手に入るような『姫風』インテリアのレベルではない。


 ベッドの近くには、クラシカルな装いのメイドさんが1人立っている。こちらの反応を待っている様子だ。


 ピンク色の長い髪を2つ結びにして、結び目には緑のリボンと赤い花飾りをつけている。こちらからは天蓋てんがいの陰になっていて、顔立ちがはっきり見えないが、ぜったい可愛い。


 メイドさんの奥には、緻密な装飾を施した大きな扉がある。

 ……どう見ても、貴族か王族のお屋敷だ。


 やっぱり夢?

 古典的なやり方だけど、頬をつねってみる。── 痛い。……ということは、夢じゃなくて現実?


 いやいや、よけいに訳が分かりませんけど?!



 ── これはまさか……異世界転生ってやつ?

 あの、現世で死んでチート能力持ちで勇者とか冒険者になるっていう系の……。

「……って、ラノベか!!」

「?」


 ひかえていたメイドさんが、こちらに怪訝そうな目を向ける。

 しまった。口に出てた。

 つい一人暮らしの癖で。ふだん誰も聞いてないから。


「いかがされましたか?」

「あー……えっと……」

 メイドさんが完全に、不審者を見るような目でこちらを見ている。

 ……いや、仮にも私は主人なんだから(たぶん)、不審者だとは思ってないだろうけど。しかしこの状況、どうしたもんなのか……。


 やっぱりこれは夢なんじゃっていう気持ちが、拭えないんだけど……。とはいえ夢の中でこれが夢かどうかって、どうやって判断したらいいんだ。


「あのう、この状況、夢じゃないのかなー….って、思ったりして……どう思う?」


 どう思う?って、この状況でメイドさんに聞いたところで、どうにもなんないんだけど。


 しかし予想に反し、私の言葉を聞いたメイドさんは、ぱっと表情を曇らる。

「おいたわしい……」

 急に声を震わせ、目元も潤んでいる。


 なんで?

 私、泣かせるようなこと言った?!


 すわ異世界転生かという急な展開のうえに、可愛い女の子の涙ときて、アワアワしてしまう。


「あああの、ごめんなさい!」

「いいえ、いいえ……!このアリス、お気持ちが痛いほどよく分かります……!」

 メイドのアリスさんとやらは、ベッドのそばに膝をつき、私の手を強く握りしめる。両方の目から、ポロポロと涙をこぼれている。


 わあ、きれい。

 泣き顔が絵になるなあ、アリスさん。


 などと、つい思ってしまうけど、口には出せない雰囲気だ。


「これが夢ならと、私もなんど思ったことでしょう……! 」

 アリスさんがいっそう手に力を込める。


 妙に、同情されているなあ。

 この貴族だかお姫様だか……というか私?そんなに大変な目に遭ってるの??


「けれどどうか、お気をしっかりお持ち下さいね。勇敢な騎士達が、きっとこの城を守り通してくれますとも!」

「う、うん」

「このアリスも、最期までお守りいたします!その身には、指一本ふれさせませんから!」

「へ」


 ── なに今の、すごく不穏な表限。

 『最期まで』って言いました?


 え、まさか私、死にそうになってるの?

 ……さっき既に、一回死んできた(?)ばっかりなのに??


 メイドのアリスさんは両手で顔を覆い、はらはらと涙を落としている。

 ……くっ!萌える!めちゃめちゃ可愛いなアリスさん!!正直、推せる!!


 ── いや、そうじゃなく!!



 あーもー何なの、この状況!

 異世界転生か?!

 それとも異世界転移か?!

 勇者召喚なのか?!


 でも勇者というより、姫の部屋っぽいんだよな……。


 そうか!もしかして悪役令嬢の方か?!

 でも最近プレイした乙女ゲーとか無いし、ぜんぜん身に覚えが無いけどなーっ!

 

 ああ!

 さっぱり分からぬ!!



 考えがまとまらなくなった私は、両手で頭をおさえ髪をワシワシ……しようとしたところで、異物感にギョッとする。



 ── 頭の両側に、なんかある。



 あるというか……生えてる風な?


「ちょ、ちょっと、失礼」


 キョトンとするメイドさんをベッドの脇に置いたまま、私は壁に据えたられた鏡の前に立つ。

 

 薄い水色のネグリジェ。(これも装飾いっぱいで高そう。たぶんシルク)

 腰まで届く、紫がかった淡い色の髪。

 瞳は濃い紫。前髪は目にかかるくらいの長さだ。


 そして何より特徴的なのは……頭の両側にある、ゆるい曲線を描いた黒いツノ。



 2本のツノを、恐る恐るさわってみる。

 指先で根元まで辿ると、“それ”は頭の骨に繋がっていた。


 ── 立派に生えている。


 ツノを撫でながら、鏡の中の自分の姿を凝視する。

 このキャラデザには、それはもう見覚えがある。


「いや、これ……魔王ミルフィリアじゃん!!!!」

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