#8 虹が完成した日 その①

翌日、

朱珠が学校に到着して正面玄関に入ると、

ロッカーの前で葵が待っていた。


綾女 葵

『おはよ。』


葵の顔を見るなり、

満遍の笑みを浮かべる朱珠。


神原 朱珠

『おはよ!』


2人は挨拶を交わすと、

何も言わずに同じ方向へ歩き出した。


神原 朱珠

『昨日は、あんがと。

あれから、母ちゃんにも

虐めに合っとった事言えたで!』


綾女 葵

『何て言ってた?』


神原 朱珠

『早朝、

学校に電話してくれたみたいやねんけどな。

相手にしてくれへんかったんやって。』


綾女 葵

『最低ね。』


神原 朱珠

『せやろ。』


綾女 葵

『ここは、そういう所なの。

一層の事、2人で一緒に転校する?』


神原 朱珠

『それ、ええなぁ! いつにする?

てか、どこにする? 』


綾女 葵

『そうね。 どこにしようかしら?

同じ失敗はしたく無いから、

色々と情報を集めながら探しましょ。

焦らなくても、2人一緒なら安心でしょ。』


神原 朱珠

『せやな。』


そんな話しをしながら、

2人は女性警察官の霊体の居る

図書館の前に立ち止まった。


綾女 葵

『体調は大丈夫?』


神原 朱珠

『昨日は、ぐっすり眠れたしOKやで!』


綾女 葵

『それなら大丈夫だと思うけど、

余り体調が優れない時に憑依されると

倒れ込む子も居るから、

もし私と離れた後に体調が悪くなったら

ここへ連絡して。』


そう言いながら、

葵は電話番号を書いた小さな紙を

朱珠に手渡してきた。


朱珠は、

『何か怖い話しやけど、

コレ貰えるんやったら悪い気せえへんな。』

と笑顔で葵から紙を受け取った。


図書室の扉を開き、

中へ入って行く葵と朱珠。


綾女 葵

『おはよ。

約束通り、迎えに来たわよ。』


女性警察官の霊体

『おはようさん。 待ちよったで!

後ろの赤い髪の子も、

私に少しは慣れてくれたみたいやなぁ。』

 

神原 朱珠

『昨日は凄く怖かったんやけど、

親近感ってやつなんかな?

今は怖いと言うよりは、

一日振りに「友達」に会った感覚やねん。』


女性警察官の霊体

『あははははは! そりゃええわ!

その方が私も取り憑きやすいからなぁ。』


朱珠の後ろに回り込む女性警察官の霊体。


女性警察官の霊体

『じゃあ、

取り憑かせてもうても、ええんやな?』


神原 朱珠

『OKや! 私に任せとき!』


そう言いながら、肩に力が入る朱珠。


綾女 葵

『大丈夫よ。

少し体は重たく感じるかもしれないけど、

この人は、

あなたに霊障を与える事はしないわ。』


葵の言葉を聞き、少し肩の力が抜ける朱珠。


女性警察官の霊体

『ほな行くで!』


神原 朱珠

『ええで! ええで!』


女性警察官の霊体は、

朱珠の体の中に入って行った。


20秒程して、

背後の気配が消えた事に気が付き、

振り返る朱珠。


神原 朱珠

『ん? もう入ったん?』


綾女 葵

『ね。

少し体が重たく感じるだけで、

何も感じないでしょ?』


神原 朱珠

『せやな。

これって体重にも影響とか出たりするん?

やったら太った時の理由に出来るなぁ!』


綾女 葵

『「霊という存在を信じる人が居れば」

だけどね。』


神原 朱珠

『せやな。』


------------


一方、正面玄関には、美優達の姿があった。


黒田 黎空

『美優!

何で今日は、あの子の事をスルーするのよ!

本当にあの子から手を引く気なの?』


月花 美優

『あゝ。』


黒田 黎空

『じゃあ、次は誰にするつもりなのよ?

昨日、あの子と一緒に居た

青色の髪をした子に仕返しするとか?』


黎空の問いに美優は小さな声で、

『もう、止めにしよう。』と返した。


黒田 黎空

『は? 止めるって何を?』


月花 美優

『「虐め」だよ。』


美優の襟を掴み壁に叩き付ける黎空。

それを制止しようと焦る凛心。


黒田 黎空

『折角、あんたがウチらのチームに

入りたいっていうから、

リーダーの座を譲ってやったのよ!

それなのに・・・。』


月花 美優

『「譲ってやった」?

それは、いざという時に

「私に全ての責任を被せられる」からだろ。』


黎空は襟から手を離し、

『凛心行くよ!』

と言い階段を上がって行った。


美優や黎空の方を、

きょろきょろと困惑した表情で眺める凛心。


月花 美優

『良いよ。 行ってやんな。』


桃井 凛心

『でも・・・。』


月花 美優

『ただ、行くなら一つだけ頼み事がある。

昔から何をやるか分からない奴だから、

もし黎空がおかしな行動をしていたら、

その時は、私に連絡をして。』


桃井 凛心

『分かった。 ゴメンね。』


そう言うと、

凛心は階段を駆け上がって行った。

美優は襟元を直した後、校庭へ向かい、

学校から

一番離れたベンチに座り空を眺めていた。


美優、黎空、凛心の3人は

幼い頃から仲が良く、

幼稚園でも小学校でも

常に3人は一緒に居たのだが、

小学6年生の時に、家庭の事情により、

美優は地元を離れ県外へ引っ越す事になった。


そして月日は流れ、

またもや美優の家庭の都合により、

美優が中学校を卒業するタイミングで、

地元に戻る事になったのだった。


美優は事前に

地元の高校に入学するにあたって、

元々、仲の良かった

黎空と凛心に久し振りに連絡を取り、

2人と同じ高校を県外受験で合格し、

3人は高校で久し振りに顔を合わせたのだが、

3年という月日は、

思ったよりも美優にとっては、

大きものであった。


そんな気持ちに輪をかけるように、

元々、慣れ親しんだ町での慣れない生活や、

家庭内でのストレス等で、

美優の心は限界を感じ始めていた。


そんな中、声を掛けて来たのは、

幼馴染の黎空だった。


この頃既に黎空と凛心は、

町内では名の知れた不良になっており、

黎空は浮かない表情の美優に、

『家の事で悩みとかあるの?

それなら私達とスカッとする遊びしない?』と、自分達の仲間に加わる様に

促される日々が続いていた。


その誘いに対して、

美優はずっと拒否を続けていたのだが、

何度も誘われて行く内に、

「好奇心」から仲間に加わる様になっていき、

『美優が一番しっかりしているから』と、

黎空からリーダーの座を譲り渡され、

そして最初のターゲットになったのが、

その直後に転校して来た朱珠だったのである。


最初は美優の気持ちも晴れ、

朱珠に対する仕打ちを楽しんでいたのだが、

その感情は回を増す毎に

「快楽」では無く「罪悪感」に

掏替わっていったのであった。


そして後に引く事も出来ず、

美優は、この決して許される事の無い

「過ち」の終わりを探しており、

その「過ち」にピリオドを打ってくれたのは、

昨日まで自分達が虐め続けてきた、

「神原朱珠」の存在だったのだ。


だが、そのループを抜け出した

先にあったのは「光」では無く、

また新たに潜む「闇」の姿であり、

この頃から、

美優、黎空、凛心の3人の関係は、

徐々に崩れ始めていたのであった。

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