02_秘密

「て、手を繋いでるだと?!僕は彼女と手を繋いだりしたことないのに!どういうことだよ……これは一体」 


 ピコン。


 浦野が嘆いていると、音を立てて新たなメッセージが彼のスマホに送られてきた。


『知りたくなってきたでしょ。彼女の秘密。さあ、その指をこの動画へ』


 新たなメッセージに、浦野は動揺を隠せない。


「ぐっ、やたらと誘惑してくるんだけど、胡散臭さが半端ない。だけど、知りたい。かおるの秘密が知りたくて仕方がなさすぎる。や、やばい。指が勝手に……あっ、押しちゃった……」


 浦野は、欲望を抑えきれずメッセージを送ってきた動画を再生する。再生した瞬間、スマホ画面が揺らいだかと思うと、左上にライブの文字が表示された。


「えっ、どういうことだ。ライブ。今リアルタイムの映像ってことなのか……頭がついていかない。この動画を撮っているのは誰なんだ。くそ、変質者ということしか分からねぇ」


 薄暗い街なかでスマホのライトに照らされながら、ライブ映像を凝視する。スマホを握る手には自ずと力がギュッと入った。


 こうなったら、変質者が撮っている動画の一部始終をこの純粋でピュアな僕が見てやる。


 浦野は、謎のやる気を出し、ライブ映像を静かに眺める。彼のこの選択が、恐怖と狂気に満ちた日々が始まるきっかけになるとも知らずにーー。


 スマホのスクリーンに、路地裏でいちゃつく菊屋かおると相手の男性。それを、驚愕の表情で見つめる浦野。


 つばを飲み込み、言葉を失う。


 相手の男性が、菊屋かおるを壁ドンして襲い掛かる。その瞬間、浦野は思わず声が漏れる。


「あっ、あぁああああ!!!かおるが襲われる!?やめろ、やめろ!!!このクソ野郎!!!」


 浦野は、悶絶する心の叫びを響かせる。


 相手の男性に壁ドンされた菊屋はまんざらでもない嬉しそうな表情を浮かべている。


「えええー、嘘だろ!!!う、受け入れているだと……。菊屋は相手の男性を受け入れている。確かに、相手の男性は僕なんかよりイケメンで、頭が良さそうで、勉強もできそうだけど、そんなのあんまりじゃないか!!!」 


 浦野は奥歯をぐっと噛み締めて悔しさと苛立ちがぶわっと湧き上がった。


「やばい。相手の男性が、動けなくなった菊屋に唇を徐々に近づけていく」


 もうこれ以上は、見たくはないと浦野は動画をタップしとめようとするが、何度押しても止まらない。


「おかしい、おかしいぞ!止まらない!動画が止まらない!畜生、どうなってるんだ。こんな時にスマホがぶっ壊れてしまったのか」


 そうこうしているうちに、イケメン男性の唇が、菊屋の唇と重なる。その直後、浦野は膝から崩れ落ち、スマホがガタっと落ちる。


「うあああああ!!!見ちゃった!見ず知らずのイケメン男性に、かおるの唇が奪われるところを。その場面が、頭にこびりついて離れない!よく考えたら、動画の再生止まらないなら、スマホの画面から目線を逸らせば良かったんだ。浦野のバカ!」


 ピコン。


 崩れ落ちた浦野の近くに転がるスマホが、メッセージが来たことを告げる音が鳴る。浦野は、ゆっくりとスマホに腕をぐっと伸ばすと掴むと画面を見た。


『復讐したくはないか。彼女に。そして、相手の彼に』


 思わぬメッセージに、浦野は思わず瞳を開け、静止する。

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