怨虫は蠢く

東雲一

01_メッセージ

「うわぁあああああ!!!終わった!!!」


 浦野は、発狂し皮肉にも星星が輝く夜空に向かって高々と叫び声を上げた。後頭部に両手をやり、目が左右に泳いでいる。理由は簡単だ。彼女にフラれたのだ。それも彼史上初めてできた彼女から盛大にフラレてしまった。


「あのう、すいません。私と付き合いませんか」


 数年前に、突然、菊屋かおるという女性にそう話しかけられる。


 これ、運命ってやつじゃね。


 優しい微笑みを浮かべる彼女のその一言で、単純な浦野はいとも容易く恋に落ちてしまう。艷やかな長髪を風になびかせながら立つ彼女の姿は、上品さと優雅さを感じさせる。彼女はまさに浦野にとって理想的な女性だった。

 

 とはいってと浦野にも、流石に人を疑うという理性は持ち合わせていた。最初は、彼女が何だかの目的を持って自分に、近づいてきたのではないかと疑う気持ちを持っていた……かもしれない。割りと彼女の言いなりになっているところはあったが、特に菊屋かおるが浦野をいいように利用するということはなかった。


 ただ、なんというか二人には距離があった。浦野が歩み寄っても、菊屋は嫌がる素振りを見せなかったが、心の距離は縮まることはなかった。なんとなく、浦野は彼女との縮まらない心の距離を感じていた。


「ぐぅー、どうしてだ!関係が悪いわけでもないけれど、良くなっている感じもしない。かおるは、僕のことが好きなんだろうか。彼女の気持ちが分からないんだよなー」


 浦野は、両腕を組み彼女との関係で悩む。そして、数日後、呆気なく彼女にフラレた。浦野は、彼女と距離を縮める事が最後までできなかったのだ。


 都会に流れる川をぼう然と一人寂しく眺める。


「はあー、ため息しか出ないぜ。彼女との日々は何だったんだ。一年くらいは、落ち込みそう。誰か、慰めてくれよ。あっ、そうだ……僕はぼっちだったんだ」


 都会の゙輝きを反射させ揺れる川をため息を漏らしながら眺めていると、浦野のポケットの中にあるスマホが小刻みに揺れる。


 ふ、ふるえる。


 浦野はスマホの震えを感じて、ポケットのスマホを慌てて取り出した。


「な、何だ!?怪しいメッセージが届いてる。こんなの無視、無視。うん!?」


『菊屋かおるの秘密を知りたくはないか?』


 浦野が無視しようとしたところ、そんなメッセージがスマホの通知にピコンと表示される。タップし、詳細を表示させると、すぐに動画が送信されてきた。


「この動画のサムネ……彼女だ!かおるだ!あれ、隣に立っている男性は誰だ!誰なんだ!」


 浦野は、送られてきた動画のサムネに吸引され、目を大きく見開いた。路地を歩く菊屋と謎の男性。しかも、手をつなぎながら仲睦まじく歩いている。


「て、手を繋いでるだと?!僕は彼女と手を繋いだりしたことないのに!どういうことだよ……これは一体」 


 ピコン。


 浦野が嘆いていると、音を立てて新たなメッセージが彼のスマホに送られてきた。

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