中嶋ラモーンズ・幻覚9

高橋 拓

中嶋ラモーンズ・9

一攫千金。一攫千金。一攫千金。胴元の懐を肥やすだけなのに、百円二百円が千円五千円一万円と増えていき、食パンさへ買えなくなる者が出てくるのがギャンブル。賭け事はするなと教える学校がなかなか無いなか、一生関わらない人も居れば、どっぷりつかるのも日本の美学だ。パチンコ。競馬。競輪。競艇。オート。裏カジノ。落とし穴は、キャバクラ。ホスト。風俗。お酒。不倫。その他。合法、違法ドラッグ。マルチ商法。


金。金。金。頭の中は、金でいっぱいなのが、普通なのだ。


俺もお金に綺麗なんてない。うまい棒が買えるのがお金だ。そう言い聞かせ育ってきた。あえて言えば、盗みだけは良くない。まだ盗みだけはしていない。ただそれだけが正義だった。正確に言えば、母親だけは泣かしてならない。男に産まれたからには、女性、子供を泣かしてはいけない。


横手やきそばを食べながら親不孝を嘆くギャンブラーは、そんなには居ないだろう。今日は、あとメインレースをやって帰るだけだ。そう思いながらも心の中がウズウズしてくる。厄介な虫が疼き出す。ギャンブラーならこの厄介な虫の為に、財布の中を空っぽにし苦虫を噛み潰したような感覚に落ちた者ものもいるだろう。


「もしもし、 今日はどう? 勝ってる?私のほう は、仕事が早く上がれそうなんだけど……」


彼女からの電話が急に入った。 俺はしどろもどろ に、もう場外馬券売り場から脱出したいと彼女に 説明していた。 酔いも回り始めた頃だ。 何故か、 来週には職業安定所に行くからと何度も説明して いる。


「帰る。 君に逢いたい。 逢いたいよ。」


支離滅裂なことを言うと、 横手やきそばをむさぼり、 場外馬券売り場の人混みの中を真っ直ぐと 出口に向かった。


 また雪の中を歩き出した。 針のような結晶が顔に突き刺さる。 これは二月のいつもの俺の風景だ。 この季節はいつも鬱々している。 でもこの季節が終わると幻覚を見たりするから、 薬としては冬が 一番良いのかも知れない。 横手駅までは2キロ。 眠りは太陽。 夏は覚醒。くらくらしてくる。 国 道を走り抜ける自動車を眺めるばかりだ。 まだメインレースまで時間は沢山あるが、これで良いのだ。 とにかく彼女の顔を見たい。 人目はばからず 抱きしめたい。 抱きしめたい。 抱きしめたい。 出逢った時は摂食障害でガリガリだったのに、 リミットを詰めてきたように今は普通の見た目の女性だ。 俺には可愛く美しく見える。 微笑む笑顔に俺は何度救われているか、彼女に説明したい。


彼女には、湯沢駅で待ち合わせることをメールで打ってから、俺は横手駅まで歩き電車の時刻表を眺めていた。そして東京の国分寺駅で観た世界が核戦争を始める映像をまた思い出していた。あれは本当になんだったのか背筋が寒くなってくると、人類は本気で世界平和など目指してないことに俺は初めて気がついた。


「誰も本当に世界平和が来るなど信じちゃいないんだ。誰一人も本当に信じちゃいないんだ。じゃあなんの為の世界なんだ。」


テレビのニュースで流れる戦争の光る銃弾の映像は本物なのに、まだ人類は、猿から進化していないくらい馬鹿なんだ。まだ猿やチンパンジーやイルカの方が賢い生き物なのかも知れない。それは分からないが、遠くの国でおこる激しい戦争よりも競馬や電車の時刻表の方が大事な俺は、赤面して恥ずかしくなってきた。


「俺一人くらい世界平和を本当に信じてもバチは当たらないだろう。」


そう呟くと、電車の切符を買って二番線へ改札を抜けたが、どうやら頭が可笑しいことに、この時、俺はまだ気がついていなかった。少しだけ興奮しているはビールを呑んで競馬で勝ったからと勘違いしていたが、前触れ無しに精神分裂病がガシガシとやってきていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

中嶋ラモーンズ・幻覚9 高橋 拓 @taku1998

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ