【六枚目:約束】

 ぼんやりと輝く光の中に、幼い男の子の姿が見える。


『——約束だよ、たくみ』



   ♦︎



(夢、か……)


 どこからか小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 今誰かに名前を呼ばれたような気がしたが、この部屋には自分以外に誰もいなかった。


(さっきの夢……いや、記憶?)


 ハッキリとはわからなかったが、幼いころに遊んだ思い出だろうか。

 少し見慣れてきた天井を見つめていると、セットしていたアラームの音が響いた。

 「もう起きてますよ」と、少しうっとおしく思いながらも画面を見ると、時刻は午前八時。


「ヤバい、寝坊した!」


 そう叫ぶと同時に布団から起き上がると、上着とカメラを手に慌てて部屋を飛び出した。



   ♦︎



 宿から堤防まで続く坂道を下ると、いつものベンチには先客の後ろ姿があった。


「ごめん、遅れて……」


 肩で呼吸をしながら謝る拓海に、「遅かったね」と悠斗は笑いかけた。


『午前八時、バス停の白いベンチ』


 ここにきてから今日で六日目。拓海が都会へと帰るまでの間は、この場所が二人の待ち合わせ場所となっていた。



「ふふっ、髪の毛すごいことになってるよ」


「寝癖、なおす時間がなかったんだよ……」


 拓海はここまで駆け足で来たこともあり、前髪のほとんどが後ろにもっていかれていた。

 それを両手でなおし、手首に付けていた茶色のゴムで髪を括ると、道路に背を向けているベンチに腰掛けた。



「拓海はいつから写真を撮ってるの?」


「——多分、小学生くらいかな」


「どうして撮り始めたか覚えてる?」


「どうだったかなぁ……」


 拓海はそう言って空を見上げると、ゆっくりと瞳を閉じた。

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