STMF

イタチ

第一幕第二幕第三幕第四幕終幕

何幕かに別れ


最初は、本棚に隠れ、Sの顔が見えないが


徐々に幕ごとに本棚の位置が変わり


客と店番のSの姿が見える


1本棚2手だけ3客の後ろ姿の向こう4客の声だけ、少女座っている本棚もなくとなる




この話は、普通に進むが


少女は、目が見えておらず


父親は、声は無くとも、店で、本を読んだりしている


しかし、ある幕を境に、しゃべることはない


実は死んでいるのかもしれないし




登場


Sー少女


Tー客の男 田中


Fー父


Mー客のおばさん




古本屋


客が入り


本棚を見ていたが


一つを、手に取り


店の奥へと向かう


以下、店の奥から聞こえる




T「あのすいません、『本草綱目』ほんぞうこうもくは、ありますでしょうか」


S「すいません、先日、管子と、一緒に、買われた方がいまして


現在、入荷未定ですが、探しておきましょうか」


T「すいません、ちなみに、いつ頃入荷できるか、分かりますか」


S「さあ、少々、珍しいものでして、最近、中国のほうで、新訳が、再出版されましたが、それすら、発行部数が、少ないようで、中々回っては来ません


お名前と、連絡先を、お願いします」


F「いらっしゃいませ、何を、お探しですか」


T「あ、いま、娘さんに、予約してもらっているところです」


F「ちなみに、なにを、ですか」


T「本草綱目ほんぞうこうもくです、探しているのですが、中々、仕事を忙しく


見つけられずに、いるのです」


F「それは、それは、しかし、それだったら、たしか、新刊が・・・もちろん古い奴じゃ無いですよね」


T「ええ、いくらあっても足りませんよ」


F「今出してきます・・ええっと、ここら辺に」


S「先ほど、好事家の方が、買っていかれました」


F「全部」


S「全部16冊です」


F「お客さん、次いつ入るか」


T「大丈夫です、先ほど、同じような会話をしましたから」


F「そうですか」


S「それで、お名前と、連絡先を、お教え願えますか」













本棚の向こうに、わずかに、人の動作が見える


この時から、父親のセリフはない




T「いやー、本当に感謝です


まさか、一ヶ月で、見つけていただけるなんて」


S「私は、注文したにすぎません


良く探してくれる人がいますので


それよりも、大丈夫でしょうか、一応、私は、検品は、しましたが」


T「大丈夫です、信用していますから、それよりも」


男は、代金を、払いながら


紙袋を受け取った


「実は、別に、お聞きしたい、本がありまして・・・」


s「それは、何か、別の本を、


お探ししたほうがよろしいということですか」


t「いえ、実は、うちに、ドグラマグラの推考前の原稿が有るのですが、それと、この家にあるあの奇書を、交換してほしいと今日は、参った次第なのです」


s「あの奇書とは、一体」


その時、表から、別の人物が入ってくる


今まで、店の表の崩れたような古本を、探っていた人物である


m「あの、ちょっと、良いかしら、お話し中だけど、今から、旅行に行かなくちゃ、そう、もう、この時計が、あと、一時間を、二回と、マイナス半時ほど、さかのぼるときに


私は、チケットを、持って、搭乗口にいなきゃいけない


申し訳ないですけど」


t「いえいえ、どうぞどうぞ、急ぎのようではないのですから」


m「すいません、でも、その珍しい本


奇書とは、一体何なんですか・・あと、これお願いします、お嬢さん」


s「はい」


t「いえ、別段面白い、話じゃないですよ」


m「長時間、それも、三十時間も、船の上の飛行機に、閉じ込められるわけですから


多少不愉快でも、まったくいい刺激になるでしょうよ」


t「そうですか、実は、ドグラマグラには、続編が、ありまして


実は、あのドグラマグラこそが、序章


それを、転用して、まったく新しく


本当に、恐ろしい怪談劇が、開始されると言うわけなんです


もともと、ドグラマグラは、夢野 久作が、推考に推考を重ね


そのうえで、自費出版した


最終的な彼の作品の一つです


かれも、気苦労が、なければ、もっと様々な作品を作ることができたでしょうに、実に残念なことでありますが


しかし、その遂行途中


もっと別のもう一つの話をでっち上げ


そしてむくむくと、起き上がっているのを、幾人の作家そして、編集者が見ているのです


それは、家族も同様ですが


分かりやすい例でいうと


小倉虫太郎


かの有名な黒死館殺人事件と言う


日本三大奇書つまりは、アンチミステリーと歌われるそれも


その小説の中に、実に、ドグラマグラ


に、酷似した一説が、紛れ込んでいる


それは、夢野久作の作品を、どこかで読む機会か、または、うわさでも聞いたのでありましょうか


時代的には、江戸川乱歩の怪奇小説が、闊歩しており


かの有名な金田一耕助シリーズの横溝正史も、どこまでも、暗澹たる愛憎劇の渦にのまれた一人と言えるでしょう


ただ、この前に、言いました小栗虫太郎の黒死館殺人事件には


酷似した作品が前にあり・・・」


s「三百二十円です」


m「面白そうな話ですけど、私、もう少しで、いかなければいけませんの、如何かしら」


そう言って、札束を、古臭いテーブルの上に


「どうせ、つまらなく長い人生ですもの


それを、代わりに、頂けませんか」









夫人が、レジの前に立ち


そのわきに、男


そして、レジには少女がいる




s「すいませんが、その奇書が、何かも分かりませんし、それに、もしそんな、原稿が有った場合、その価値は、どのように、計るべきでしょうか、ドグラマグラ自体とりとめのない現実の中で、されど


幻想を、確実にしていく


まるで、魔法の受験勉強のような、話ですが


しかし、たとえ、この内に、そんなものがあったとしても


少なくとも、私の持っている名簿には、そんなものが、ありませんから、そんなものは、無いに等しいのです」


t「そんなはずはありません、ねえ、店主」


fは、首を傾げ、肩を挙げて仕事を続ける


m「なに、すべては、嘘の劇中劇だったというわけ


私は、もう、空港に、行かなければいけないから


おいたまするわ


はい、お代」


s「・・・・・はい、しっかり受け取りました、ありがとうございます」


m退場


t「そんなわけがない


私は、知っているんだ


彼女だって、狙っていた


そうでなければ、あんな大金を、持っているはずがない


僕は、僕は、これが、ドグラマグラに関する


最後の作品だと、そう思った


原作は、一つであるが


先ほども言った通り


ドグラマグラには、推考が、数多く行われた


ゆえに、それは、まるで、二つの同じ形の絵柄が違うピースの混じったジグソーパズル


のように、幾重にも、それは、重ねられる


しかし、清書したとき


さらに難解な部分を、ごっそりと、おろしてしまった


その一つの終着点を、私は、所有したんだ


そう、それで、すべては終わったと、私はそう思ったんだ


私の体には、臓器が、すべて、一つだ


目玉、肺、腎臓、金玉等々


すべてが、最後だと思ったから


しかし、ある時、私は、うわさを聞いたんだ


続編があると


日本三大奇書は、実際


そこまで奇書のような内容ではない


どちらかといえば、良く出来た独自性に与えられる称号に過ぎない


黒死館殺人事件は、前知識がなければ、解けない謎がある時点で


現代探偵小説では、いや、ノックスの十戒等で、到底はじかれてしまう。しかし、それは、エドガーアランポーのような


装飾めいたゴチック様式のようなごてごてとした辞書を片っ端から編み込んだような文章に、人は酔いしれ


第二次世界大戦に、その本を持っていく人もいたという


ドグラマグラは、実に、素直な、話だ、しかし


ネタばれになるが、これは、非現実を、最後の最後に、肯定するための


まるで、本読みファンタジー空想好きの最終兵器のような最終論文だ


その熱量たるや


箱の中の失楽


これは、ファンディスク


上の二つに、敬意を払った同人的二次創作と言っていい


奇書になるための奇書


それは、果たして、本当の奇書かどうかは、不明である


どちらにしても、私は、それを、追い求めている


恥ずかしい話だが


私は、別段、珍しい話が、好きなわけじゃない


私が、ほんとうに 、求めているのは


好きなものを


好きなだけという話なんです


ねえ、娘さん


ドグラマグラの別の完結は、どこにあるんですか」


s「すいません、閉店の時間です」


外では、蛍の光が、商店街に、聞こえている


男は、引き下がれなさそうであったが、頭を下げて


去る


t「私は、知っているんだ


この店には、この店には」


s「さて、片付けますか」







少女が一人、正座で、レジの奥に、座っている


赤い服


男の声が、聞こえるが姿が見えない


ただ、少女と、話しているようだ




t「私は、確かに、確かに、ここにあることを、知っているんだ


しっかりと、ここに、証拠がある」


s「・・・」


少女は、封筒を、受け取るも、机に置く


t「信用できる探偵に、頼んでもいい


君が知っているか、私は、分からない


しかし、しかしだ、僕は、僕は、知っている


確実に、最後の五十年前に、最後に、移動したのは、ここだ


それ以降の行動は、分からないから、多分ここが、最後の置き場だ


ねえ、知っているんでしょ」


s「この店は、父の代から、つまりは、三十年前です


あなたは、何か、違う情報を、掴んでしまわれたのではありませんか」


t「そんなはずは・・・


この店の名前は」


s「鈴書店です」


t「っあ・・そうか、そうだったのか」


「あっ、そういえば」


男は、去る足音


暗転


暗闇の中


スポットライトで、少女が映し出された












T「お父さん、最近見かけませんが、どうしたんですか」


S「さあ」



























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STMF イタチ @zzed9

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