ストーリー:9 新しい仲間


 蝉の声が本格化し始める、7月の五樹村。


「ってことで、今日からアタシもナツの手伝いをしてやるぜ! よろしくな!」


 築100年越え平屋建て。

 もはや妖怪たちのたまり場になった感もある、ナツの家の二間続きの広間にて。


「ふふんっ!」


 新たに“自分の衣を借る妖怪作戦”に加わった、“ガラッパ”のミオが得意げに胸を張る。


「………」


 そんな彼女の隣に立つナツは、対照的にもの言いたげな表情を浮かべていた。


 その原因は、目の前にいる3人の妖怪なかまたち。



「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!! ひー! ひー!」


 畳の上で延々と笑い転げている“かまいたち”のジロウ。


「ほっほっほ。仲直り出来てよかったのう。?」


 からかい半分な慈愛の顔で微笑む“油すまし”のオキナ。


「え、えっと。えへへ……」


 ちょっとだけバツが悪そうな、でも反省はしてなさそうにはにかむ“木心坊”のワビスケ。



 いずれも“こうなること”を予想していたらしい、3人に。


「……なぁ。ミオがこんな美人さんになってるって言わなかったの、ワザとだよな?」


 それでも言わずにはいられないナツが、問いかけて。



「ったりめぇよ! 言うわけねぇーだろ! あー、それに気づいた時のお前の顔、近くで見たかったなぁおい。ひひひっ!!」

「まぁ、多少の驚きと、多少の応報はあるべきじゃとワシも考えとったでな……ふふっ」

「ご、ごめんね? でも、その、ナツは知らないまま会った方が、きっといい方に向くって思ったから。……ナツの叫び声が聞こえた時は、その、笑っちゃったけど。えへっ」


 三者三様。

 けれど概ね“その方が面白いから”というニュアンスの返事に。


「おっ、聞きたいか? いいぜぇ、こいつ最初なぁ――」


 隣のミオまで乗っかって、面白がり始めたところで。


「……へっ」


 そういや妖怪こいつらそういう奴らだったなって思い出す、ナツであった。



      ※      ※      ※



「なるほど。大体わかった」


 そう口にした通り。

 ミオは驚くほど早く、パソコンの基本操作を身につけた。


「なんかこういう遊び? みてぇに思ったら、面白いじゃん! 余裕だぜ!」

「おいやめろ! 俺をぐにゃぐにゃさせんじゃねぇ!」


 今もディスプレイに映る2Dジロウを好き勝手操作して、意図して変な動きをさせている。

 驚くべき馴染み方だった。



「……好きこそ物の上手なれ、じゃな」

「オキナ?」


 ジロウとじゃれ合うミオを見ながら呟いたオキナの言葉を、ちょうどナツが聞いていた。


「ミオは、遊ぶのが好きな子じゃからの。物覚えが遊びに結び付いたのが功を奏したのじゃろう」

「なるほど」


 続くオキナの考察に、だったらゲーム実況と相性がいいかもしれない。なんてことをナツは考える。

 Vtuberとしてどう彼女たちを輝かせるかをサポートするのも、彼の大事な役割だ。


 なんて、ナツが思考の海に沈み始めたところに、オキナがポソリ。


「ミオは今でこそ楽しそうにしておるが、おヌシがおらんくなって、相当荒んでおったんじゃよ」

「うぐっ」


 一気に現実に引き戻されて顔をしかめるナツを見て、オキナは笑っていた。



「ほっほっほ。おヌシを責めておるわけじゃのうて、ただの昔話じゃ。での、その時のミオはもう荒れに荒れて、木っ端はもちろん、ワシらでも手を焼くほどの拗ねっぷりだったのじゃ」

「そう、だったんだ」

「あの時は大変でしたね」


 語らう二人の元へ麦茶のポットを持ったワビスケが来て、しみじみとした表情で会話に参加する。

 グラスにお茶が注がれ、コポポッ、と涼しげな音が部屋に響いた。


「あの時期って、ちょうどミオさんがセコからガラッパになった頃だったから、妖力も高まっててすごかったなぁ。カワベ川の水がブワーってなって……っとと」


 話を区切り、注ぎ終わったポットを持ち上げふぅとため息。

 本格的な夏到来に、ワビスケのゴスロリ法衣は暑そうだ。


「にしても、ミオってすごい力を持ってるんだな」

「今の時代に珍しい、新しく真っ当に力を得た妖怪の一人ではあるのう」


 語らいながら視線を向ける。

 そこには奪い取ったパソコンを使い、夢中になって2Dジロウをグニャグニャにするガラッパ様の背中があった。



「……ぷふっ」


 不意に、誰かが噴き出した。


「ククッ、くふふっ」


 堪えきれないと、細長い体をくの字に曲げて。

 その顔がミオを見て、ナツを見て。


 そしてもう一度、ミオを見て。


「おう、ナツ。だったらもっと、すげぇー! ってなるミオの話、聞かせてやるよ」


 かまいたちのジロウが、にんまりとした笑顔を作った。

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