第1章 始動! その名も『AYAKASHI本舗』!!

ストーリー:2 Vtuberに、なろう!


 野猿のざるのナツが、五樹いつき村に帰ってきた。


 その一報は、瞬く間に五樹中の妖怪たちに知れ渡った。


「野猿の奴が帰ってきたのか!」

「やったー!」

「♪」

「また一緒に遊べるの?」

「元気しとったならよかったばい」


「ふんっ!」

「オレたちとの縁ばほっぽり出して、都会でよろしくやっとった裏切者たいね!」

「今さらどの面下げて帰ってきた!?」

「グルォォッ!!」

「どれ、そのツラば拝んでやろうじゃなかか!」


 その反応は個々の妖怪それぞれで。

 良くも悪くも大きな衝撃となって伝わった。


「ナツがボクたちに会いたいって?」

「野猿の家に行けばよかと?」

「今ならあの野郎に会えるんだとさ!」

「よし、行くぞ!」


 そして夜。

 夜天に月が、高く上がったその頃に。


「ナツだ!」

「野猿だ!」

「ホントにおった!」

「この野郎!」

「久しぶり!」

「♪♪♪」

「忘れたとは言わせんばい!」

「また遊ぼう!」

「ガオーッッ!!」


 彼らを迎えるために開けられた、二間ふたま続きの広間には。

 ひしめき合うほどたくさんの、この地に住まう妖怪たちが集まっていた。



「みんな、久しぶり!」


 迫る妖怪たちに今にも押し倒されそうになりながら、ナツが満面の笑みで彼らに応える。


「「~~~っっ!!」」

「どわぁ!? 落ち着け、落ち着けって!!」


 返事があったと、各々好き勝手しだす妖怪たちを手で制し。


「ちょ、ちょ、待って、待ってくれ! ってか、いるんだろ! ジロウ、オキナ! 見てないで助けてくれよ!!」


 それでも抑えきれないと見るや、ナツは声を張って助けを求めた。



「や~なこった。そのままつぶされっちまえ」

「ほっほっほ、おヌシは相変わらずみなに好かれておるのう」


 その声に応え、姿を現す妖怪二人。


 片や背中に2本のカマを背負いこんだ、二足歩行のイタチ。

 片や鳥羽のみのを羽織り油壺を持つ、好々爺然とした古い衣装の老父。


 それぞれ、“かまいたち”のジロウと“油すまし”のオキナという。

 ナツの幼い頃から親交のある、五樹村界隈の有力妖怪である。



「あ、二人ともいたっ! って、うおおおおーー!?!?」


 よそ見したことで軸がぶれ、結局ナツは妖怪たちに押しつぶされた。

 その様子を見たジロウはゲラゲラ笑い転がって、オキナは気づかわしげに寄り添った。


「あと一歩、遅かったのう」

「……ソウデスネ」

「ゲヒャヒャヒャヒャ」


 大小さまざまな妖怪たちにもみくちゃにされながら、恨めしそうに二人を見やるナツ。

 この場が落ち着くまで、もうしばらくの時間が必要そうだった。



      ※      ※      ※



 その後、なんとか場を二人(主にオキナ)に治めてもらい。


「……改めて。ただいま、みんな!」

「「おかえり、ナツ!」」


 ナツはようやく、妖怪たちとちゃんと挨拶をかわすことができた。



「ケッ、突然帰ってきやがって。いったい何の用があって、戻ってきやがったんだ?」

「これジロウ。そう話を急ぐこともあるまいて」

「いや、大丈夫。俺もサクッと本題に入りたかったし」


 斜に構えるジロウをたしなめるオキナに、ナツは小さく礼をして。

 オキナの「ほぅ」と感心する声を聞きながら、それをボストンバッグから畳の上に取り出し始める。


「なんだぁ、そりゃ?」

「ぱそこん?」

「ハイテクだ!」


 ジロウや小型の木っ端妖怪たちが身を寄せ、物珍しそうに見つめるそれは、ノートPCとその周辺機器。


「えーっと、これに、これに、これに、これに……」

「おいおい、ナツ。いったいどんだけ持ってきやがったんだ?」


 二つのボストンバッグの中は、ほとんどがそれら精密機械で占められていた。

 自然に身を置く多くの妖怪たちにとって、あまりに縁のない物たちに好奇の視線が注がれる。


「これでよし、と」


 取り出した機材たちを、ナツは短時間で組み上げた。

 手慣れた動作はその道の職人のようで、見守る妖怪たちからも感嘆の声が上がるほどだった。


「あの野猿が、大したもんだ」


 誰かのつぶやいた言葉に、ナツはくすぐったそうに身震いしていた。



「……で、だからなんだってんだよ」

「うん」


 完成したハイテクスペースとナツの顔を見比べながら腕を組むジロウに、ナツが頷きを返す。


「実は、みんなに頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと、とな?」


 聞き返すオキナを一瞥し、頷いて。

 ナツは静かにノートPCの電源を入れ、アプリを起動する。


「え?」

「ナニコレナニコレ!」

「なんか動いてる!」


 ディスプレイに表示されたのは、とあるデフォルメされた2Dモデル。


「………は?」


 それを見て、かまいたちのジロウの開いた口が、塞がらなくなった。


「あ、これ!」

「ジロウだ!!」

「箱の中にジロウがおるばい!!」


 映し出された2Dモデルは。


「やぁ、俺はかまいたちのジロウ、妖怪だぜ」

「動いた!!」

「ナツが動かした!」


 ナツの操作に合わせて動いたそれは。


「な、な、なんだぁこりゃぁ~~~~~~!?!?」


 間違いなく、目の前で驚いて飛び上がった、ジロウをモデルに作られた物だった。



「ってことで、俺からみんなに頼みたい」


 妖怪たちに改めて向き直り、ナツは言う。



「みんな……Vtuberに、なろう!」


「「「ぶいちゅ~ば~~~~!?」」」



 あんまりにも突拍子のない提案。 

 だが、驚き戸惑う妖怪たちと違い。


 ナツの空色の瞳に、一切の迷いはなかった。


「そう! Vtuberになって、バズって、みんなが失いかけている……存在感チカラを取り戻すんだ!」

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