第11話 魔法少女ブレイズサンシャイン
ハートイーターの融合タイプ、それは人間をはじめとする知的生命体を取り込みスピル霊子を活用したありとあらゆる能力が底上げされた個体を指す。
戦闘能力が飛躍的に向上するだけではなく、知的生命体が人質に取られているため迂闊な戦い方が出来ない。
そして人間を解放するためには浄化魔法でハートイーターを切り離す以外に方法は無い。
浄化魔法は膨大な魔法力を用いるため、その魔法で決めないと勝ち目が無くなる。
そして、浄化魔法を使うだけの魔法力は今――ロイヤルハートには無い。
「絶体絶命ってこういう状況を指すんだよね」
プリズムダイヤは浄化魔法を使うどころかガス欠、戦闘に耐えられるような状態じゃない。
魔法力をかき集めながら思案に耽る、限られたリソースを用いてどんな風に戦うか。
やはり脳裏に過るのは生命力を魔法力に変換するという技術、マルルに手渡された魔導書に記されていた禁忌の法。
「生命力を魔法力に変換することも出来るけど、前にやろうとしたらマルルに叱られたっけな」
魔法力は時間が経てば自然に回復する、ぼーっとしてるだけで回復する。しかし、生命力は二度とは元に戻らない。
生命力を使えば使うほど寿命は短くなり、体力は衰えていく。
だから生命力変換は最後の、本当に最後の手段だ。ギリギリまで追い詰められるまではやめておこう。
「取り敢えず、魔法力をかき集めながら足止めをするかな」
魔法力の収束をしながら動くことなど、普通ならばやれないだろう。しかし、やらざるを得ないからやってみせるしかない。今ここに頼れる仲間はいない。
そしてとうとうズシン、と地面が揺れる。
「気が早いな、こっちは魔法力を貯めてるっていうのに」
「グオオオオオオオ!!」
まあ、ハートイーターは基本的に言葉を話さない、というか多分意思疎通は不可能なのでそんな文句も聞いてくれないのだが。
「もう少し、待ってほしいんだけ……ど!!」
魔法力を収束した状態で融合ハートイーターを蹴り上げる。
感触が重い。やはり全く効いていない。
融合ハートイーターは胸部のコアの代わりに人間の頭が埋め込まれ、その頭には喜怒哀楽を表したような仮面が嵌め込まれている。らしい。
心はまだ融合タイプのハートイーターとは1回しか戦っていないが、確かにそんな感じの仮面をつけていたと思う。
そして、人間を取り込んでいる分だけハートイーターは大きくなっており人間が取り込まれた時間が長ければ長いほど大きく強くなっていく。
「デカいし重いし、固い」
とはいえ、このまま避けながら魔法力を貯めた方がいいか?
いや、放置し続ければ取り込まれた人間が死んでしまう。
とにかく、魔法力の無駄遣いはやめるべきだろう。
かといって、いきなり弱らせもせずに浄化魔法を使っても失敗する可能性が高い。
「ガアァァァァァーーーー!!」
咆哮と共に肩や腕からトゲを生やし、そのトゲがガタガタと揺れる。
「まさか……」
そしてそのトゲはミサイルのように撃ち出され、ロイヤルハートはそれをギリギリのところで避け続ける。
ロイヤルハートの能力は格闘戦、そして反応速度や判断力に特化されている。
それを避けるのはワケないが、あちこちで小規模な爆発が起きている。
このまま戦いを引き延ばせば民間人に被害が出てしまう。
「嘘でしょ……」
せいぜい自分にトゲが突き刺さる程度で済むと思っていたけど、まさか爆発までするとは思っていなかった。
再びブンブンと腕を振り回してロイヤルハートを捉えようとする融合タイプだが、この攻撃は単調だ。
今この攻撃をしている間に魔法力を溜め込んで、後から一気に浄化魔法を食らわせるか?
「ガアァァ!!」
しかし、その大振りな攻撃は罠だった。
腕から伸びたワイヤー状の何かがロイヤルハートの上腕を穿った。
ワイヤーを思わせる触手が腕を貫き、ボタボタと血液を流させる。
「く……うぅ……!!」
そしてその触手はロイヤルハートの体を持ち上げ、再び肩に突起物状のミサイルを露出させる。
そんな搦手も使ってくるとは思っていなかったし、触手の射出速度が速すぎてロイヤルハートすらも対応出来なかった。
どうする?やる事は分かっている。
今ここで生命力を変換して魔力に変えて、一転攻勢を狙う?
「心ーーーー!!」
正真正銘、この瞬間に聞こえるはずのない父親の声が聞こえた。
そして、ハートイーターの触手をめがけてグルングルンとあり得ない回転をしながら突っ込んできた。
突っ込んできた父と思われるその物体はハートイーターの触手を斬り裂いた。
だが、案の定着地には失敗して何度もバウンドしながら地面を擦り倒れ込む。
「お、お父さん?」
「ああ、助けに来たぞ」
触手による束縛から解放されたロイヤルハートは突き刺さった触手を引き抜く。
出血は激しくなるが、突き刺さったよりは戦いやすい。
だが、そんな事より――
「何しに来たの、ただのハートイーター相手でも足止めがやっと、融合タイプ相手なら下手すれば即死……早く帰って」
「心、お前……父さん来なかったら危なかったろ!」
「手段はあった」
「手段って、まさか生命力を魔法力に変換する禁忌の――」
陽一はいまいちピンときていないが、マルルの生命力を魔法力に変換する禁忌の――という激ヤバワードが聞こえてきたので反応する。
「心、お前まさか、自爆するつもりじゃ」
「そんな真似はしないよ、少し……寿命が縮まるだけ」
「寿命……だと?」
1週間ほど前、心が大怪我を負った時に魔法力を使って異常なまでのスピードで怪我を治していた。
それだけでも人間離れした業なのに、それに寿命をコストに払って魔法力に変換となったらきっと心はただならぬ事になる。
「馬鹿野郎!!」
陽一の怒鳴り声にビク、と心の体が跳ねる。
「心、お前が真剣なのは理解できる。こうして戦場に立っているのも人並み以上の覚悟なのも分かる。でもな、そうやってお前が自分を傷つけてまで戦って誰が喜ぶんだ? いや、喜ぶどころか悲しむぞ」
「そんな事言ったって、私以外に魔法少女なんて――」
融合タイプのハートイーターが肩のトゲミサイルを飛ばしてきたが、ロイヤルハートはバリアを張ってそれを撃ち落とす。
「今話してるんだから、邪魔するな!!」
「そうだそうだ!!」
陽一は一歩前に出ると、心に向かってゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
「心、お前の命はお前だけのものじゃない。父さんがいて、美乎――お前の母さんがいて、そこではじめてお前が生まれた。最初は二人だけの命だった、だけど、今は違う。友達が出来て、部活もはじめて、今じゃ彼氏だっている。そういう人たちがいることを、忘れるな」
――そんな事は知っている。自分が一番知っている。
そういう人たちがいなくなってしまった時の痛みはずっと『あの時』から想像し続けている。
だから、私はこうして『あの時』の悲劇を繰り返さないように戦い続けているんだ。
ハートイーターはまたも肩のトゲミサイルを発射するが、今度は陽一の魔法力によって弾き飛ばされる。
「だから、俺はお前を死なせない。誰も死なせようとしないお前を、俺は死なせない!!」
そう陽一が宣言した瞬間、陽一のロケットが強く光り輝き始める。
そして、陽一の掌に光の粒が集まりマジカルワンドが形造られていく。
心も、マルルも目を丸くして言葉を失っている。
「ま、マルル……? まさか、これ」
「あり得ない、というか中年の男性が変身は前例が無いマル」
陽一はマジカルワンドから凄まじいエネルギー弾を射出する。それは並大抵の魔法少女とは一線を画した画力であり、バキバキバキバキという金属音を鳴らしながら外装を焼き尽くしていく。
「マルル! どうすればいいんだ、これ!! 変身が出来るんだろう!?」
マルルは心を見る。心は黙って首を横に振る。
「自分が強くなるイメージを思い浮かべてポーズを取って、叫ぶマル! チェンジ・マジカルフォームと!!」
「強くなるイメージ、なるほど」
陽一は腕を大きく回し、ビシッと右腕を引っ込めて左腕を突き出す。
「なんかそれ、魔法少女っていうより……」
「それが強さのイメージなら問題ないマル! さあ、叫んで陽一!!」
「チェンジ・マジカルフォーーーーーム!!」
陽一が力いっぱい叫ぶと陽一の衣服は光に包まれ消えていき、そこに光り輝くインナーが装着される。
「お父さん、まさか本当に……?」
何かを察したのか、ハートイーターは陽一に向かって突進を仕掛けるがロイヤルハートがそれを防ぐ。
魔法力を宿した本気の徒手空拳、魔法力の残量なんて気にしていられないと心は全力でハートイーターを相手にする。
今はただ、この瞬間手札に来るであろう〝切り札〟を信じるのみだ。
「よく分かんない、よく分かんないけど……お父さんの変身に賭けるしかない、そんな気がするから!! だから、邪魔すんなーーー!!」
自分の背丈の倍以上はあるハートイーターを投げ飛ばすロイヤルハート。
ハートイーターは突然何が起こったのか分からないようで、上手く立ち上がれない。
「これでも……喰らえええええええ!!」
マジカルワンドから放たれるロイヤルハートの残存魔法力から放たれるビーム、これならハートイーターにも大ダメージを与えられて時間的余裕も出来るはず。
あとは陽一の変身完了を待つだけだがそこで魔法力が尽きたのか変身が解除されて肩で息をしている。
「こ、心!!」
急いでマルルは心へと駆け寄り、魔法力を注入する。
心の魔法力は空っぽの状態のため、もうほとんど動けない状態だ。
そのままそこへ倒れ込むが、心は意識ももうろうとしている。
「私はいいから――お父さんに、ついててあげなよ」
「わ、分かったマル!」
「こ、ここからどうしたら!?」
光り輝くキャミソールワンピースというおっさんにはとても似つかわしくない姿で慌てている陽一。
マルルも内心では引きながらも陽一に変身をレクチャーする。
「変身した時にあちこち熱くなるけど、そこに意識を集中させるとパーツがどんどん物質化するマル。つまり、熱いところに意識を向けるだけマル」
「なるほど、簡単だな!」
陽一は身体のあちこちに視線を向けると、不思議と可愛らしいポーズを取ってしまう。
陽一は恥ずかしがりながらマルルに説明を求める。
「マルル! なんで俺はアニメの魔法少女みたいな変身ポーズを取ってるんだ!?」
「仕様マル」
「仕様!?!?!?」
「諦めるマル」
ビームを当てられたハートイーターも起き上がり、怒り狂って陽一の元へと走ってくる。
だが、陽一はハートイーターを殴り付けて吹っ飛ばす。
「変身完了――」
「してないマル! きちんと名乗り口上をしないとするパワーを発揮しないマル!」
「名乗り口上?」
「変身が終わっているなら、頭にワードが浮かんでいるはずマル。それを名乗って、変身完了マル」
陽一は脳裏に過った文章を唱えてみる。すると、力に凄まじい力が迸るのを感じた。
「悪しき魂に正義の鉄槌を――魔法少女ブレイズサンシャイン! 愛しき者のために、ここに見参!!」
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