第9話 買いましょう!

「ご案内。この度、私アラービヤ共和国第二王子ファハド・アル・シャラマンは妻をめとることを決意いたしました。しかしながらこのアラービヤには素敵なご令嬢が多く、こちらが選ぶなどはなはだしいと考え至りました。そこで私は『我こそは、ファハドの妻になりたい』と名乗りを上げてくれる女性を募集し、その方と添い遂げようと思い立ったのです」


 ビアンカたちが読み上げた内容に目を丸めている。きっと自分も同じ表情をしているだろうとミライは思った。


「妻を、募集……だと?」


「ええ、まだ続きがある。読むわね」


 再び続きを読み上げようと内容を少し読み進める。この先の文面に、ミライは驚きを隠せなかった。


「ミライ?」


「ああ、ごめんなさい。えーと、立候補してくださる女性は来たる十二月九日、支度金を持参の上、王都にあるピエール・アブジョダの屋敷へお越しください。なお支度金は八億アルとさせていただき、婚姻成立後のご返金はいたしかねます……以上よ」


 読み終え、手紙を封筒に戻す。すぐにアイシャとビアンカが「八億?」と口を揃えて驚いていた。それもそのはず。八億アルは貴族とはいえ年若い女性が用意できるような金額ではないからだ。領地によっては数年分の運用費になる。


「これって、どういうこと? アブジョダ家は第一王子派なのに。新手の詐欺?」


 アイシャが肩をすくめる。確かに。ミライも不思議だと思った。アブジョダ家はアブジョダ州を領地として治める第一王子派。なぜピエール・アブジョダは第二王子の「案内」をミライに渡したのだろうか?


 その答えはビアンカが教えてくれた。彼女はうーんと唸り声を上げて一文字に結んだ口を解いた。


「私が軍にいた頃、王宮で第二王子を見かけたことがある。彼には側近がいてその男の名が確かピエールだった。幼い頃から王子に仕えていると聞いたが……」


「その人かも。これを貰った時何年も前から他家で働いてるって言ってたし。ねえビアンカ、その彼ってやや小柄で髪は三つ編み?」


 ビアンカが「それだ」と頷く。ミライたちは四人で再び顔を見合わせ息を吐いた。


「これって要約すると『俺を八億で買ってくれる人募集』ってことだよね?」


 アイシャが首を傾げる。次にベスが呟く。


「しかも十二月九日って明後日だよね。急いでいるのかな?」


「内戦のせいで金が足りないのかもしれない。軍の一部で噂はあった」


「なるほど……」


 ミライは顎に指を寄せ、眉を寄せ思案した。

 内戦で弱った国庫。売りに出された王子。結婚したくない自分たち。実家の派閥。

 情報を集め、考え、最適解を出す。貿易商を生業とするミライの得意分野だ。


「よし、買おう。私は五億出せる!」


 仕事の成果や投資で貯めた金額をざっと計算した。すぐに出せるのはこの程度だろう。

 次にビアンカが指を二本立てて笑みを浮かべる。


「そういうことか。私は二億だ。投資と軍の報酬、退職金を出そう」


「いい考えだね。私は一億いかないくらいかな。九千万アルなら確実!」


 アイシャが右手を上げる。最後にベスに視線を移した。


「わ、私、少ないけど一千万なら……」

「十分よ。これで八億揃う」


 ミライは三人に向かってにんまりと笑って見せた。彼女たちからも笑顔が返ってくる。我ながら名案だと首を縦に振る。


「決まりね。みんなで揃って嫁入りしましょう。第二王子はきっと後継にはならないでしょうし、私たちはハレムで気楽に暮らせるわ!」


>>第二章に続く


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