第7話 協力の成果

 Sランクダンジョンの攻略に前向きになった俺だが、今度はangel_bloodが忙しくなったらしい。どうも、ステラブランドとパーティを組んだのなら、自分ともどうかという提案が来ている様子。


 angel_blood本人としては、俺と碧界とのパーティよりも優れた相手と思える人は居ないと思っているらしい。まあ、生半可な実力では、Sランクダンジョンの攻略では足手まといだよな。


 とはいえ、彼女は雑事に手を取られていては、攻略は難しいと考えているようだ。まあ、同感ではある。Sランクダンジョンは、1ミスで死んでしまう場所だからな。


 だから、完全に足元を整理したいようだ。煩わしいコメントが来たり、つけ回されたりしても面倒だろうからな。


 ということで、angel_bloodの状態が落ち着くまで、俺はRTA配信をして待っていることになった。彼女が居ないなら、俺にはSランクダンジョンに挑む理由がない。


 俺の最大の目標は、『静寂の森』RTAの世界記録であることは変わらないからな。


 いつも通りに配信を始めると、すぐにコメントが付く。


 ノブナガ:今日も待ってたぞ。


「ノブナガさん、おはよう。今日も『静寂の森』を走っていくぞ」


 さっそくダンジョンへと入り、軽く慣らしていく。最速チャートで使われている短剣を装備し、駆け出す。


 前をさえぎる木々を避けながら進んでいき、牙の生えた兎、バイトラビットの首を刈り取る。慣れた流れだ。


 そのまま足を止めずに進んでいき、今度は別のモンスター、刃物のように鋭い鉤爪とくちばしを持つカラス、ラピッドクロウが空から素早く襲いかかってくる。最低限の動作で避け、そのまま駆け抜けていく。


 やはり、倒さずに済む敵はスルーしていくのが基本だよな。敵が勢いよく突っ込んできたこともあり、もう離れてしまっているからな。わざわざ倒していては、ロスの方が大きい。


 バイトラビットは、倒さないと普通に追撃してくるからな。避ける手間を考えると、倒したほうが早い。


 mist:今日は初回から飛ばしていくな。

 angel_blood:流石ですね。今日は暇なので見ていきます。


 本物のangel_bloodからコメントが来た。まあ、メッセージのやり取りがメインだろうから、ダンジョンに集中できないだけで、空白の時間は多いのだろうな。


 つまり、配信を見るのにちょうどいい。せっかくだから、色々と解説していくか。どうせ、初心者がいれば毎回解説するしな。


「ラピッドクロウは避けるが、バイトラビットは倒す。その違いは、主に攻撃してくる範囲だな」


 話しながら走るのにも慣れたものだ。記録狙いの瞬間はたまに黙るが、基本的には話し続けていられる。配信を続けていけば、まあ話せるようにはなるよな。


 また木々を避けながら走り、バイトラビットは首を狩り、ラピッドクロウの攻撃はギリギリで避けていく。


 『静寂の森』はEランクダンジョンなので、パターンさえ覚えてしまえば簡単だ。敵は一撃で倒せるやつの方が多いし、敵から逃げることも難しくない。


 まあ、森だからEランクの中では環境が悪い方ではあるのだが。見晴らしのいいダンジョンは、Eランクなら少なくない。


「バイトラビットも、ラピッドクロウも、初回の攻撃は毎回同じだ。バイトラビットは噛みつきだし、ラピッドクロウは突進だな」


 angel_blood:なるほど。やはり、Eランクダンジョンは簡単ですね。


「まあ、そうだな。RTAを走るとなると、難しい場面もあるのだが。とはいえ、攻略だけなら楽勝だ」


 mist:嘘つけ。そもそも攻撃を避けるだけでも一般人には難題なんだよ。

 ノブナガ:走者基準での楽勝。ステラブランドは化け物だから。


「そうなのか? angel_bloodさんも簡単だと言っているが」


 ノブナガ:相手がSランクダンジョンを攻略している人間だということを忘れるな。


「まあ、確かにそうか。angel_bloodさんは間違いなく上澄みだよな」


 というか、俺も上澄みではあるよな。一応、日本記録を持っている走者なわけだから。日本人走者だけでも、50人くらいは居るからな。簡単なダンジョンだけあって、そこそこ人気だ。


 そうなると、ダンジョンに挑むのは、なかなか難しいのか? よく分からないな。俺にとっては、楽なことではあるのだが。一般的な感覚というのは、全然知らないんだよな。


 考え事をしながらも、1層ボスにたどり着く。鎌を持った兎、デスラビットだ。ボスだけあって、走者でも死ぬ時は死ぬ。まあ、主に最速チャートのせいだが。基本的には、急がなければ楽勝だからな。


 今回は、相手の行動次第では試してみたい事があるんだよな。最速パターンである噛みつき以外でも、それなりにタイムを出せそうな動き。


 Sランクダンジョンでモンスターと戦ったり、碧界とPvPをしている中で思いついた戦術だ。


 何をするかというと、鎌をかいくぐって、敵の攻撃の最中でも反撃できないかという実験になる。敵の攻撃を避けながら反撃というのは、何度か経験したからな。


 案外、チャート通りに走ることに慣れていると、思考が硬直化するものだな。思いついた時には、自分が情けなかったくらいだ。


「新しい技を思いついたから、乱数次第では試すぞ」


 ノブナガ:またチャートが改善されるのか。


 ということで、デスラビットに向かっていく。そして、相手の動きを見ていく。鎌を振られたので、内側に入り込んでスキルを放っていく。


「よし、来た。【電光石火】!」


 相手の鎌は、懐に入り込んでいるので刃が当たらない。そのまま俺は連続で突き立てていく。結果として、デスラビットは倒れていった。


「悪くないな。最速狙いならちょっと厳しいところもあるが、安定狙いなら十分だろう」


 angel_blood:美しいですね。流れるように避けての攻撃、参考になります。

 止まり木:ステラブランドさん、結構好かれてる?


 そのまま5層まで進めていき、悪くない記録を出せた。自己記録は更新できなかったが、色々と発見があった。


 基本的には、敵との間合いの取り方で進歩を感じたな。ギリギリで攻撃を避ける能力とか、敵の攻撃が当たらない場所で立つ感覚とか、前回angel_blood達と活動したことが活きている。


「これも、angel_bloodさんと協力したおかげで思いついたチャートなんだ。ありがとう」


 angel_blood:どういたしまして。また、一緒にダンジョンを攻略しましょう。

 止まり木:カップル発生の予感!


「とりあえず、今日はこのまま周回していくぞ。もうちょっと、チャートを調整したいからな」


 ノブナガ:新チャート開発の瞬間を見るのは、記録更新に匹敵するくらい楽しい。

 mist:こんな感じでダンジョン攻略の研究がされているのか。


 その後は、いつも通りに配信をするだけの一日だった。それから、家に帰った時、またメッセージが来ていた。


 最近、急にメッセージが来るようになったな。そう思いながら開くと、面白い文面があった。


 ホットおにぎり:ステラブランドさん、はじめまして。私は、『静寂の森』RTAの初心者です。良ければ、走り方を教えていただけないでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る