vs27 一考

そしてギルベルトは真顔でマリミエドを見る。

「…ベルンハルトと話していたが…大丈夫だったかい?」

「え…あ…怖かったのですけれど、体操服を貸して下さったし…勇気を出して話したら大丈夫でしたわ!」

微笑んで言うマリミエドに微笑み返してギルベルトは紅茶を飲む。

〈…リュミは怖くても嫌いでも接するように教育されてきたんだろうな…〉

そう思いながら紅茶の茶葉を選んでいるマリミエドを見つめる。

思えば姉も、そんな教育を受けていた。

両親の愛情を受けるよりも先に、大衆に好かれる性格になるように、誰とでも接して公平に出来るようにと家庭教師を沢山付けられていた。

いつ如何なる時にも冷静であれ、

私情は挟むな。


「我が家は代々、由緒正しい家に女を嫁がせてきたのだ」


そう、父が言っていたのを思い出す。

〈そういえば、本に挟んであったエレナからの手紙…〉

読んでおこうと思い上着のポケットから取り出して開く。


 拝啓 小侯爵さま

実は私、皇后陛下の差し向けたスパイなんです


そんな文面から始まり、驚きながらもマリミエドの淹れてくれた紅茶を飲む。


 拝啓 小侯爵さま

実は私、皇后陛下の差し向けたスパイなんです。

少しでも至らない所、失敗があればお教えして様々な家庭教師を付けられるように対応して参りました。

暗殺者が来れば殺せるように訓練も受けています。

今まで様々な暗殺者を殺して参りました。

侯爵様ご夫妻はご存じです。

隠していて申し訳ございません。

そんな私ですが、もちろん今はお嬢様の味方です。

私は、お嬢様ご自身が国を治めれば一番いいと考えております。

王太子が廃嫡されれば、お嬢様が女帝になられるように出来ませんか?

女帝になられなくてもいいから、お嬢様には幸せでいて貰いたいのです!

どうか、ご一考下さいませ

   エレナ


〈リュミの幸せ…〉

何が幸せだろうか?

〈婚約破棄は早めがいいが…どうせ手放さないだろう〉

考えてマリミエドを見る。

マリミエドは紅茶を飲みながら、ボーイが売っていた新聞を見ている。

「ねえお兄様」

「ん?」

「お兄様は王立歌劇団の劇を観た事がありまして?」

「ああ、何度かあるよ。リュミは忙しかったからね」

「クラスメイトが行くらしくて…羨ましいなって思ってしまいましたの」

そうマリミエドが淋しげに言うので、ギルベルトはふと通りがかりの生徒が話していた言葉を思い出す。


「王太子様が次の休みにマリアと歌劇を観に行くと言っていたが、よく婚約者のいる身で他のレディと出歩けるよな」

「甘やかされた王太子はいいよな、何のお咎めもないんだから。俺の婚約者だったらヒステリー起こされるよ」

「うちもだ。何しても許されるんだから、いいご身分だよ。カイラード殿下が哀れだよな。確か男爵家の側室だろ? 貴族なのにな」

「しっ!」


そんな会話の後にギルベルトに遭遇して、2人の男子生徒は挨拶をして逃げていったが…。

〈廃嫡は難しいだろうな…〉

何をしても許し、相手だけに罰を与えるのだから。

でなければ何の罪もないマリミエドが2回も断罪されていい筈もない。

〈乗っ取ればいいのだが…〉

ギルベルトはマリミエドを見つめたままで考える。

次期宰相となってこの国の式を取るのはギルベルトなのだ。

〈…廃嫡が難しいなら、やはり傀儡に出来るようにした方がいいな〉

ギルベルトは未来の展開を暫く考えていた。

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