vs26 お守り

 ランチはやはりビュッフェ形式だった。

「リュミはここに座ってなさい」

そう言い奥の席にマリミエドを座らせると、ギルベルトは色々な物をワゴンに乗せてやってきた。

「どれでも好きな物をお食べ」

そう言いながら、ギルベルトはズラリとテーブルに皿を乗せてから席に着く。

…鴨肉や羊肉、アヒルの肉に牛や豚や鶏の肉…と、様々な肉料理と野菜料理にデザートまである。

「お兄様…」

「取り皿はあるだろう? リュミは鶏肉が好きだよな…早く食べないと無くなるよ?」

そう言いながらパクパクと食べていくので、マリミエドは驚きながらもナフキンを膝の上に置いた。


食事をしながら、マリミエドは先程のマリアを思い出す。

〈以前と違うわ…〉

前回とは出会いなども違うが、会話も違う。

嫌がらせもされていない。

〈そういえば体操服は誰が…?〉

そう思った時、ギルベルトが喋る。

「体操服だがね、どうやらユークレースの熱狂的なファンである女の子がやったらしくて、停学処分にしたと学院長から聞いたよ」

「そうですか…何故あんな事をなさったのかしら?」

「ユークレースの大切な授業を邪魔したから、というくだらない理由らしい。退学にさせるかい?」

そう聞かれる。

授業は確かに邪魔してしまったから申し訳ないが、それとこれとは別だ。

しかし、三年生で停学では未来もないだろう。

「いいえ。何もしなくても、恐らくその子はこの先 生きるのに苦労しますわ。自業自得です」

そう言ってデザートのベリーパイを食べる。

食べながらまた思い出した。

〈そういえば、イベントという言葉は大衆小説で出てきたわ〉

誰かとの出会いや、デートなどを〝イベント〟という表現で書いてあったのを思い出す。

「…お兄様、マリアさんに雪の鈴スノウ・ベルを渡されました?」

「スノウ・ベル? 姉上が送ってきたあの雪の鈴スノウ・ベルかい?」

「ええ、それですわ」

「それなら俺が風化を防ぐ魔法を施して、リュミが栞にして一人一つずつ持ったじゃないか」

「今は…」

問い掛けると、ギルベルトは胸ポケットに入れている小さな手帳を取り出して、挟んでいた栞を見せる。

「持っているよ、いつも…お守りだからね」

雪の鈴スノウ・ベルには別名〝雪山の守護花〟という名がある。

雪山の動物達を守るとされていて、よく隣国ではお守りになっているのだ。

「これがどうかしたのかい?」

ギルベルトが栞と手帳をしまって聞くと、マリミエドが浮かない顔をする。

「マリアさんが、この栞に驚いてらして…」

「普通は誰でも驚くだろう」

「そうではなく、〝イベント〟の物だと言い掛けてましたの」

「イベント?」

「え、ええ…あの、大衆小説がありましてね…」

説明をどうしたらいいかとしどろもどろになっていると、ギルベルトが紅茶を飲んでから自分のカバンを引き寄せて中から例の大衆小説を取り出した。

「これだろう?」

「! ど…どうしてそれを…」

大声を出し掛けてやめて、マリミエドは赤くなりながら小声で言う。

「今朝エレナに渡されたんだ。参考になる、と…。確かに悪役令嬢について書いてあるし、未来の事も書いてある。だが…出どころが怪しいな。予見書のようでもあるし、調べさせておくよ」

そう言ってギルベルトは本をしまう。

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