vs24 お友達を!

 自習時間。

担任の中年教諭は何かの本を見ながら前に座っている。

その教室で、皆がそれぞれに勉強をする中で、マリミエドは教諭の前に行く。

「バルコニーに出て窓を閉めて宜しいですか?」

「ああ、まだ風が冷たいから何か羽織りなさい」

「はい」

答えてマリミエドはショールを羽織ってバルコニーに出て、窓を閉める。

そして手すりの所で、左右と後ろを見て誰もいないのを確認してから、独り言を始める。

「あ、あ…うん。ご、ご機嫌よう…違うわね…お、おはよう…」

小さな独り言だというのにマリミエドは真っ赤になって俯く。

「駄目だわ…想像が出来ない…」

自分が会話をしている所すら想像も付かない。

「あ…あの枝をお友達だと思いましょう。…おは…おはよう、枝さん」

挨拶をしたものの、何を話したらいいのかが分からない。

「会話…楽しく会話…何を言えばいいのかしら…」

参考にしようと教室を振り返ると、数名の生徒がササッと席に戻った。

〈聞かれてた⁈〉

真っ赤になるが、窓は閉まっているので聞こえない筈だ。

しかし万が一聞かれては恥ずかしい…。

マリミエドは軽く咳払いをしながら中に入り、近くの女生徒をチラリと見て聞く。

「…何か、聞こえまして?」

「いえ…何も聞こえませんでしたわ。本当よ」

その女生徒は微笑んで続けて言う。

「何をしてるのか興味があって、つい聞き耳を立ててしまったのだけれど、風の音で全く聞こえなかったの。寒くなかった?」

「え…ええ。大丈夫…」

言い掛けてハッとする。

〈今が会話のチャンスだわ!〉

何か話せばいい…何か…。

「その…」

「あ、ごめんなさい。クラスメイトなのに名乗ってもいないわね。わたくし、ライニング男爵家の次女でソフィアと申しますわ」

「あ、わたくしは…」

「存じ上げない者はおりませんわ、メイナード令嬢」

ソフィアは優しく笑って言う。

立っているのも悪いので、マリミエドはそっと隣りに回る。

「お隣り、宜しくて?」

「ええどうぞ」

笑って言ってくれたので、マリミエドは後ろから荷物を入れたカバンを持ってきて座る。

「何を勉強なさるの?」

ソフィアが聞くと、マリミエドはカバンの中身と睨み合う。

「どれがいいかしら…ライニング令嬢は何を学んでいらっしゃるの?」

「わたくしは午後に観る王立歌劇団の演目を見ておりましたの」

「王立歌劇団の…」

存在は知っているが、劇を見た事は無い。

「本日の演目は初代皇帝シャルル・ノワル陛下の、愛と建国の物語ですわ」

ソフィアは、もう観ましたか?

ーーそう聞こうとして止まる。

マリミエドが興味深そうにこちらのパンフレットを見つめていたからだ。

〈まさか観た事が無いのかしら…?〉

そう思い、いやまさかとも思う。

貴族の年頃の子なら、誰でも観に行くものだが…。

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