vs16 作戦

ギルベルトは咳払いをして言う。

「リュミは聖女を目指した方がいいと思うが…」

「…目指しましたわ、最初に」

「え?」

「殿下と両陛下に恥じぬように、聖女を目指して優しく接していたら、散々な目に遭いましたもの。クラス全員から虐められて、聖女を目指す方々から嫉妬されて骨折させられたり、小屋に連れ込ま…いえ。とにかく! それはもうこりごりです。あのマリアさんに対抗するには、堂々として制さなくてはなりませんのよ!」

そう力説する。

そんな目に遭ったのなら、確かに聖女は止めた方がいいだろう。

「分かったよ、協力は惜しまないから何でも言っておくれ」

ギルベルトは苦笑して言う。

するとマリミエドは紙をテーブルに出して羽ペンにインクを付けて書き出す。

「まずは王女様の我が儘や横暴を止めます。しっかりと、勇気をもって…隣国に嫁いだお姉様のように!」

「リュミ…やはりリスクが大きい。そんな事をするくらいならば、私がマリアを処刑するよ」

ギルベルトが眉をひそめて言う。

「…ありがとうお兄様。けれど…マリアさんに勝たない限り、また時を繰り返すような気がするのです…」

「勝つ、というのは…制する事なのですか?」

エレナが問うと、マリミエドは眉をひそめて答える。

「正直、わたくしもそれが正しいかは分かりません。そうする事で余計に喜ばせてしまうだけかも…とは思うわ」

「でしたら…!」

「でも構わないの。どうやっても、王太子殿下はマリアさんを好きになるのだもの…」

その会話を聞いて、ギルベルトは考える。

〈叱っても、あの女は喜んで吹聴するだろう…〉

〝マリミエド様に虐められたんです〜〟と言いながら王太子などに嘘泣きをして縋り付く姿が想像出来る。

マリミエドはそれをしようとしているのだ。

〈悪役令嬢……〉

そもそもギルベルトには〝悪役令嬢〟というものが分からない。

「リュミ、王女殿下のパーティの後にまた話し合わないか? 私はまだ〝悪役令嬢〟とは何かを理解していないんだ。だから、パーティーで理解を深めようと思う…それでいいかな?」

「ええ。共に悪役令嬢について学びましょうね!」

そう笑顔で言ってから、考えた作戦を話す。

「それでは、エレナは当日の王女殿下を取り巻く方々の言動を一つ残らず陰でメモして。わたくしがする事によってどうなるか…わたくしも努力するわ。お兄様は、殿方の皆さんがマリアさんをどのように思われているかを調べて下さい」

「かしこまりました」

エレナが答え、ギルベルトは頷いた。

そして、日も傾いてきたのでそれぞれの部屋に戻る事となった。

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