vs15 悪役令嬢を目指します!

マリミエドが泣き止んだので、エレナが熱い紅茶を淹れ直した。

それを飲みながら、ギルベルトがペンを取る。

「それで、誰をればいいんだい?」

そう言いにっこりと笑うと、マリミエドが少し目を見開いて言う。

「お兄様…まだ、誰も敵ではありませんわ。今の内に、こちらが皆さんを味方にしていけば何も起こらないかもしれませんし…例え何かあったとしても、有利にはなる筈ですわ」

「リュミ…悔しくはないのか? 冤罪で斬首刑にされて…復讐しないと、そういう輩はずっと同じ事をするよ?」

「…お兄様、殿下はどうか分かりませんけれど、他の方々は様子が変でしたわ」

「変?」

「〝婚約破棄だ〟と言われた後ろで、何だか虚ろな感じに並んでらして…変な感じだったので、もしかしたら正気では無かったのかもしれませんわ」

「だからといって」

「お兄様、まだ何もしていないのですから、どういう方々なのかを見極めなければなりませんわ」

マリミエドは真剣な眼差しで言う。

周りをよく見て、異変を察知し、時に臨機応変に対応出来るようにと学んできたからこそ、そう言うのだと分かる。

ギルベルトはため息をついてペンを置く。

「ああ分かった。リュミはいつも正しい…」

確かに、何もしていない者に復讐をするのは馬鹿げている。

マリミエドの〝皇后〟的意見を前にしては、何も言えなくなる。

「それでは、何からなさいますか? 姫君」

苦笑してギルベルトが尋ねる。

「まずは、〝悪女〟を制する〝悪役令嬢〟を目指そうと思いますの!」

「は?」「え?」

エレナとギルベルトが唖然として言う。

すると、マリミエドはキラキラと瞳を輝かせて話す。

「わたくし、悪役令嬢として2回も断罪されたのだから、きっと〝悪役令嬢〟に向いているのですわ。だから、お望み通りに〝悪役令嬢〟となったら、マリアさんはどう出るのかと思いまして」

「悪役令嬢って…どういう意味か分かっているのか?」

「分かっていますわ。我が国の王女様のように、人を貶め、笑い唆して楽しむ…それが、悪女ですわよね?悪役令嬢は、そんな悪女さえも正せる役なのですわ!」

…悪女と悪役令嬢は同じ意味かと思っていた二人は唖然とする。

エレナは大衆小説を読んでいたのですぐに取り違えているのを納得した。

どうやら悪役令嬢とは、普通に正しい行いをする人間だと思っているのだ、とギルベルトは理解した。

「リュミ…王女に嫌われたら大変じゃないか? 後々のお茶会なんかも呼ばれないだろうし、孤立するぞ?」

「大丈夫ですわ!王女は隣国の公爵家に嫁ぎますが、その公爵家は半年後に国外追放となります」

「何⁈」

「あの宰相、国税をかなり横領してますの。それを嫁いでいったお姉様が見抜いて、追放の流れになる筈です。前回の時はお父様がかなり喜んで褒めてらしたわ」

「………」

エレナもギルベルトも思わず言葉を失う。

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