vs05 支持を!

〈婚約破棄は無理かしら…〉

マリミエドはため息を漏らして馬車の外を見る。

あの皇后陛下の様子から察するに、妹達に変えるのすら難しいだろう…。

馬車からは、馬に乗った護衛の近衛騎士達が見える。

〈それよりもまずは、貴族の取り巻きをこちらの物、いえ…支持を、集めなくては〉

王太子妃として、毅然たる態度で物事を成し遂げなければならない。


ターゲットを確認すると…。

まず、この国の宰相の令息。

ヴィルヘルム家の長男、アルビオン。

とても優秀で冷徹だった彼が、前世ではマリアの虜となっていたが…。

ニヤッと笑った彼の冷笑にゾッとしたのを覚えている。

次いで、この国の軍を率いる侯爵の令息。

フォルネウス家の長男、ベルンハルト。

剣術、槍術、銃術などに優れ、戦略にも長けていた。

やはりマリアの虜となっていた彼が、マリミエドの髪を切り、首を切断したのだ…。

思い出すだけで蒼白し、ガクガクと震えてくる。

〈駄目、怖い…!〉

怖いからこそ、この二人をまずマリアから離さなくてはならない!

〈…3年生になったばかりだから、まだこの二人はマリアさんに会っていないわ…〉

記憶が正しければ、夏の海でのパーティで出会う筈。

その時に、カイラード王子とも会っている。

〈それから…?〉

あの断罪の場に居たのは誰だった?

〈…確か…辺境伯令息と伯爵令息、男爵令息に子爵令息と……〉

もう一人、魔力が一番高く魔道師にふさわしいとされていたユークレース・アーダルベルト。

思えば、有能な者ばかりを虜にしている。

誰から話して親しくなればいいのか分からないが、とにかく彼らに出会ったら挨拶をして、親しくなろう。

〈阻止するのよ、マリミエド!〉

そう己を奮い立たせた。



 学校に着いたマリミエドは、まず学院長に挨拶をしに行く。

コンコンとノックをして、

「マリミエド・メイナードです。学院長、宜しいですか?」

そう聞くと、中から

「入りなさい」

という返事が帰ってくる。

ドアを開けてカーテシーをして顔を上げると、すでに話は聞いているらしく、蒼白した学院長が机の横に立っていた。

「…陛下は…なんと…?」

おずおずと聞いてくる。

「…恐らく気を遣って下さったのでしょう…。聖女へのプレゼントは他に持っているからと、わたくしの首に掛けて下さいました。…こちらは、父に話してメイナード家で預からせて頂きますわ」

「そ、そうかね。ではお父君に宜しく伝えてくれたまえ」

「はい。それでは失礼致します」

挨拶を終えて、マリミエドは学院長室を後にする。

すると、お腹がキューッと締められるように少し痛む。

〈…そういえば、朝から何も食べていないわ〉

お腹の音が鳴り出す前に何か食べなくては恥ずかしい。


 マリミエドは昼食を摂る為に学食へと向かった。

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