vs04 天使の涙の真実

木陰に隠れて、マリミエドは胸を押さえる。

〈マリアさんと対峙したわ…っ‼〉

ドッドッドッと鼓動が体中に鳴り響く。

まだ、斬首された時のマリアの見下した笑みが忘れられなくて、手が震えている。

〝天使の涙〟を手にはしたが、このままではマリミエドが盗んだ事にされてしまう。

それは宜しくない…。

それに、手にして分かった。

 これは、本当に聖女となる者の手に渡るべき品物だ、と。

あんな偽天使のマリアが手にしては穢れてしまう。

マリミエドはキッと空を睨んで歩き出した。


馬車に向かうと、いつものメイナード家の御者兼騎士に行き先を告げる。

「王宮へ向かってちょうだい。今すぐに!」

「お嬢様、学校は…」

「早くなさい!」


馬車の中、マリミエドは色々と考えた。

悪役令嬢とされるのならば、全力で抵抗しなくてはならない。

あんな、礼儀も作法も知らない天使になど屈したくはない!

〈この事を報告して…天使の涙をお渡しすれば、何か褒美を頂ける筈〉

それならば、〝婚約破棄〟を申し出よう。

幸い、メイナード家には三女、四女もいる。

メイナード家にも伝えられるだろうから、両親とも話し合おう。

〝妹達を、王太子妃に推薦します〟と。

これまで、両陛下とは親しくして信頼を築いてきた。

きっと上手くいくーーー。

   …筈。




「我が国の太陽と月に、栄光あれ」

両陛下を前に、そう挨拶をする。

「マリミエド、急にどうしたのだね?」

陛下に聞かれ、早速先程の事を話した。

見たいというだけで手にした平民と、それを叶えた愚かな近衛兵。

「このままではいけない、と持って参りました。皇帝陛下、皇后陛下、これは王宮で保管すべき物ですわ」

真剣に言い、綺麗にして別のハンカチにくるんだ〝天使の涙〟を差し出した。

「…しかし、聖女が…」

皇帝陛下が何か言い掛けると、皇后陛下が立ち上がってマリミエドの前に立つ。

「リュミ、顔をお上げなさい」

リュミとは、マリミエドの愛称だ。

「はい…」

もしかしたら、余計な事をした、と叩かれる⁈

一瞬そう思うと、手を握られてそっと〝天使の涙〟を手渡された。

「皇后陛下⁈」

「これは、本当は貴女への贈り物だったの」

「え…?」

「聖女への贈り物なんて口実よ。4年も飛び級で高等学校に入れる程の優秀な貴女へのプレゼントにしたかったから、礼拝堂に飾らせたの」

「い、いいえ! こんなに崇高な宝石は、聖女が持つべき物ですわ!」

「本当の聖女への贈り物は、わたくしがいつも身に着けている、この指輪なのよ」

そう言う皇后陛下の右手の中指には、同じ目映さの宝石がはめられた指輪があった。

「浄化をするのは手でしょう? だから、指輪にして誰にも触らせないようにしているのよ」

そう言い、皇后陛下はふふっと笑う。

「皇后陛下…」

確かにそれならば完全なる守り…さすがは皇后陛下だ。

〈ではなくて! わたくしの褒美…〉

「さ、着けてあげるわ」

そう言い皇后陛下は〝天使の涙〟をマリミエドに着ける。

「さあ、午後には間に合うわ。堂々とお行きなさい」

そう言われ、皇后陛下付きの王宮騎士と共に学校へ行く事となった。

〈あら? これってもしかしてマリアさんへの牽制…?〉

〝天使の涙〟を着ける事によって、皇后陛下から認められているのはマリミエドだ!

…と周りに知らしめる形となる。

学院長に事情を話す為の皇后陛下付きの王宮騎士までいるのだから、誰にも疑われはしない。

〈な、なんだか思ったのと違うけれど…〉

これはこれで、利用出来るのではないか?


この〝天使の涙〟を着けている自分に逆らうのは、皇室に逆らうのと同じ事なのだから、と…。


婚約破棄が遠のいた気がするが…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る