第9話 ハーピー戦のあと始末

 団長の戦線離脱で崩壊しかけたが、すんでの所で耐えた。


「しかしルイス様、このままではジリ貧です」


「心配するな、アレは俺が殺る」


「えっ、弓矢もないのにですか?」


「まあ、俺を信じて見ていろ。土属性・魔法剣」


『ケケッ?』


 ヘイトを集めるよう声をあげて前に出る。

 それと同時に剣へと土属性をかけ、円を描くように振り回した。


 大地から土がせり出す。

 半ドーム型に壁をつくり、ハーピーの矢羽根を防いだ。


「す、すげえ!」

「俺らだけじゃないぞ。ほら、城のみんなも守られているぞ」

「な、なんてこった!」


 ざわつく団員だけでなく、ハーピーも驚いて動きを止めている。


 このチャンスを逃さない。


 出来た壁を足場にして、大きく空中へ跳んだ。

 属性を風にかえハーピーを切断する。


『ケーーーーーーーッ!』


 斬ったすぐから傷口に、まとっていた風が解放され、全身を引き裂いていく。

 バラバラになる前にハーピーを蹴り、方向転換をして次に向かう。


 俺のスピードについてこれず固まっているな。

 隙だらけの2匹目3匹目を討ち取った。


 討伐完了、空の色が戻っていく。


「おおおおおおおおお!」

「人が空をとんだぞ」

「弓矢がないのにハーピーを殺るかよ。あり得ねえーー」

「いったいどうされたのですか。おれ信じられませんよ」


「まーなぁーーーー」


 称賛の嵐に、軽く応えておく。


「ルイス良くやったね。さすが僕の弟子だ」


「でもぶっつけ本番は緊張しましたよ」


 むろんこの芸当ができたのはスキルと、ずば抜けたステータスがあっての事だ。


 元のルイスじゃありえない。


 それが今や地上タイプの不利をくつがえす、チートステータスへと成長した。


 これも全てリリアン師匠のおかげ。

 師匠さまさま、感謝だよ。


「ルイス様ーー、よくぞご無事でぇ」


 リリアン師匠への礼は終わると、アメリアが泣きながら飛んで来た。


 頭を持たれて、グイッとアメリアの胸元に引き寄せられた。

 抵抗をする間もなく、顔が谷間に埋もれていく。


「もー、アメリアは心配で、胸が張り裂けそうでしたよ。もー、もー、もー!」


「うわっぷ、い、息が~~~」


 右へ左へと揺らされ苦しいが、アメリアから離れられない。


 それは意図してではなくて、当たる感触のせいだ。

 どうしても、全身から力が抜けてしまう。どう頑張っても無理なんだ。


 しばらく身を任せていたが、ついに限界の時がきた。


 震える手で、アメリアの肩あたりをタップする。


「じ、じぬ~~」


「あっ、ごめんなさい。私としたことが!」


 ようやく解放されて命拾いをした。


 アメリアは『やってしまった』と何度も謝ってくる。

 俺が止めないと、いつまでも続けそうだ。


「逆にありがとうな。いかに想われているかが、よく分かったよ」


「それでも~やりすぎました。ご、ごめんなさい」


「ははは、じゃあ次は軽めにしてくれるかい? ……その、出来ればでいいんだが、ダメか?」


「えっ、それってもしかして?」


 アメリアのまばたきが早くなる。

 やばい、調子にのって言い過ぎた。これは完全にセクハラだよな。

 後悔で喉はかわき、唇がひっつきそうだ。


 謝ろうとアメリアを見ると、なぜか瞳が潤んでいた。こ、これは。


「ア、アメリア」


「ル、ルイス様」


「アメリア、お、俺……」


「ごらーー、イチャつくなーーーー!」


 二人の間に、糞まみれの団長が割り込んできた。

 イラッとしたが、触りたくないので距離をとる。


「ドドベル、もういいのか?」


「馬鹿なコントを見せられて、いい訳ないだろ。なーにが『アメリアちゃ~ん』だ。恥ずかしくて聞いちゃおれんわ。それとも何か、種付けはもう終ったのか? クズのくせに手だけは早いんだな」


「んな訳ないだろ、いい加減にしろ」


「どーだかなあ。真っ赤になって発情してんじゃねえかよ、がはははははー」


 このあおりは無視だ。我慢出来なくなる前に話を変えておこう。


「それよりもみんな頑張ったんだ。団員たちをねぎらってやれ」


「はっ、たかがハーピーを殺った位で、偉そうに俺に指図をするな。もし認めてほしいのなら、この俺様を倒してみるんだな!」


「た、倒す?」


「はははーっ、決闘だよ、決闘。いい機会だ、お兄さんが社会の厳しさを教えてやるよ。まっ、血反吐をはくのは覚悟しろよ。てか、憂さ晴らしだわ、ばーかっ!」


 さすがに今の発言には場が凍りついた。


 ドドベルは興奮しすぎて、見境がなくなっているよな。

 怠惰なルイスに反感をもつのは仕方ないさ。過去とはいえ、本当の事なんだから。


 でも決闘となると話は別だ。


 言ったら悪いが、仕える騎士団団長と領主の子息とでは立場と格が違う。

 もし怪我でもしたら大事おおごとだ。関係者の首がとぶだろう。


 分をわきまえない態度に、周囲のざわめきが収まらない。


 しょうがない、すこし相手をしてやるか。


「ドドベル、俺を打ち負かす事が騎士団の仕事なのか?」


「ぬ?」


あるじや民を守るのが騎士のつとめだ。お前はそれを忘れたか?」


「はっはっはー、言われなくても知っとるわ。だから団長になれたのだ!」


「では見てみろ。ハーピーに気を取られすぎて、皆から距離が離れている。それでは誰も守れないぞ?」


 目配めくばせで父との距離を示すと、優に30mは離れている。


「あっ!」


 と声を出してしまい、しまったと慌てている。

 クチを押さえるが後の祭りだ。


 他の騎士たちもうなずき俺に賛同してくる。


「う、うるせえ、何度も修羅場をくぐているんだ。どれだけ離れていようと遅れはとらん」


「遅れはとらんか。それなら、これはどうだ?」


 魔力に殺気をこめて、ドドベルに向けて飛ばしてやった。

 これは常人には耐えられないレベルの強さだ。


 現に団員たち全員、脂汗を浮かべて動けないでいる。

 ましてや標的になったドドベルなど耐えれるはずがない。

 腰を抜かしてその場にヘタリこんだ。


「お前がバカにする俺でさえこの力だ。それ以上の敵だとしたら……分かるよな?」


「う、うるせえ。こんなのインチキだ。俺がビビるなどあり得んわ!」


「ドドベル、往生際が悪いぞ。ルイスの言葉に耳をかたむけろ」


「は、伯爵さま」


 いつの間にか近づいてきていた父が、ドドベルをさえぎった。


「今回の件は無様であったぞ。一卒兵ならともかく、騎士団団長としての働きではない」


「それはおかしいだろう、俺はよくやっているぜ。なんで、それが分からねえんだ。おい、団員のお前らも言ってやれ。俺がいかに強くてかっこいいかをよ!」


 血走る視線をむけるドドベル。

 目を合わせない団員たち。


「おいおい、言えるよな? でないと訓練をスペシャルにすんぞ!」


 何も返ってこないことに、ドドベルは地団駄をふみ脅しにかかる。


 だが、その中の一人がたまらず口を開いた。


「あ、あの~」


「おおおお、新人か。いいぞ、みんなに聞かせてやれ」


「いや、ふっちゃけ今日のはひどかったです。普段もめちゃくちゃだけど、剣をなげるのにはあきれましたよ」


「えっ、おまえ何を言ってんの? お、俺の立場がないだろうが」


「いやいや、俺もそう思いますね。ルイス様がいなかったら、みんな死んでいましたよ。まっ、いつも通りってヤツですかね」


「な、な、な、なんだと」


「俺もそう思います」

「あっ、俺もです」

「俺もッス」


 これを皮切りに、団員の不満が次々と出てくる。ドドベルは信じられないと泡を食うばかりだ。


 でも団員たちはチャンスだと、容赦なしに責めつづける。

 父が止めなければ、いつまでも続いていただろう。


「ドドベルよ、これで分かったな。今日はもうさがれ」


「な、なんでだよ。こんなのおかしいよ。おれは、おれは……」


 ほうけるドドベルは、悔しさのあまり激しく震えている。


 そして怒りのオーラを撒き散らし、そのまま屋敷に戻っていった。


 ドドベルが見えなくなると、その後ろ姿のみすぼらしさを思いだし、みんなから嘲笑がわきあがった。


「あははは、調子にのりすぎでカッコ悪!」

「剣さえまじえないで負けって、弱すぎでしょ」

「ルイス様、代弁をありがとうございます。めっちゃスッキリです」

「糞まみれじゃ守られる方もたまったものじゃないですよね、あはははは」


「あれで少しは懲りるといいんだがな」


 緊張感がとけて、みんなほっとひと息ついている。


「うおおおおおお、なんでこうなるんだよ。納得いかねえぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 ドドベルの大きな独り言が聞こえてきた。

 あれじゃあ反省はしていないな。父も呆れて頭を抱えているよ。



《ビーゴン、ビーゴン。ミッション失敗、ミッション失敗。全員が生き残ったため、大幅なポイントダウンが発生します》



 けたたましい警告音。


 そうそう、これが残っていたんだな。ドドベルと同じ位にうざい。


 仕方ないし、どうなったか聞いてみるか。

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