第19話 乙サガ攻略を開始

 名もなき村での開墾を終え、城に帰ってきてみると、思いもよらない事を父から告げられた。


「ガロたちが死んだ?」


「ドドベルによると逃亡を企てており、仕方なく討ち取ったそうだ」


「ではカール村の残党は?」


「それも全滅だ。残念だがそれ以上の足取りは掴めなかったのだ」


 嫌な予感がしたが、その通りの答えが返ってきたな。

 あの後すぐに討伐隊がくまれ、密売組織を取り押さえにかかったそうだ。


 抵抗はなかったが、メンバー全員死亡している。

 勢い余って殺したのはドドベルだ。


 戦いでは瞬時の判断が大切になるものだ。それをドドベルはこなしただけだ。


 貴重な証言を失ったのは痛いが、味方に被害がなかったのを誉めるべきかな。


 こうして奴隷売買組織の件は終わり、俺は日常生活へと戻ることとなった。


 あの村の成果はまだ先になるし、今は他を気にかける。


 特におれ自身の悪名や、未だに低レベルなのをなんとかしたい。


 それともうひとつ、勇者の件だよ。


「ふぅー、それにしてもまた勇者が現れなかったか。なんでだろ?」


 騎士団により、第3マップがクリアされた。

 その時点で勇者の姿はなかったそうだ。


 仮説だが、もしかしたら勇者は王道ではなく、独自のルートを取っているのかもしれない。


 自由度が高いゲームだからな。

 仲間やアイテム入手を考えなければ、いくらでも道はある。


 でもそうなると、用意されたイベントやお宝が無駄になってしまうんだよな。


 イベントは勇者だからこそ起こるだろうし、それが勇者の力になる。


 でもお宝は別だよ。

 超絶便利な物や、世界に一点だけの貴重なアイテムもある。


 というか、乙サガをプレイしてなければ分からない物が多いしな。

 俺が有効活用しなけりゃ、埋もれたままになるだろう。


 その中でも特に欲しい物があるんだ。


 それは聖女が関わるイベントだから、今の勇者には入手不可能な物だ。気をつかう必要もない。


「ルイス様、それお手伝いしますわ」


「あれ……何も言ってないよな?」


「ルイス様が考えておられる事なら、手に取るように分かりますもの。私の力が必要なんでしょ?」


 すげーな。


 ちょっと感動すらしたぜ。


 俺がコクリと頷くと、むっちゃ嬉しそうに跳び跳ねている。


「目指すは王国第三の都市、テンペストだ。アメリア頼んだぞ」


「お任せあれ。でもリリアン様はどうされるのでしょうね」


「あー、研究に没頭しているからな。今回は来ないだろ」


 なにやら魔法剣の調べ物で忙しいらしい。最近はなかなか部屋から出てこない。


 だから今回はアメリアと二人だけでの攻略となった。



 ◇◇◇


「ふわー、素敵な街ですねえ。お店もいっぱいあるし楽しそう~」


「目的を片づけたら、観光でもするか?」


「いいんですか~。ルイス様って優しすぎですよ~」


「ははは、まずはゴッドオーブの入手からな。……覚えているよな?」


「もちろんです。ステータスアップのアイテムですよね。あれは絶対にはずせません」


 よしよし、事前の説明が効いている。きちんと重要性を理解してくれているよ。


 この街にある2つのアイテムは、かなり便利な代物なのだ。


 まずひとつ目の【ゴッドオーブ】は、今後の活動の主軸になる物だ。


 レベルアップ時に、能力値×10%を上乗せをしてくれる優れもの。


 皆の平均能力値は、レベル1で10前後だから、レベルアップ時にはその倍以上になる計算だ。


 それを俺に置き換えると凄いことになる。

 すでに100を越えているからな、その恩恵は計り知れないよ。


「それともうひとつは、私が鍵になるんですよね」


「ああ、頼りにしてるぞ」


「はい、お任せください」


 そしてもうひとつは【ミニ祭壇】という、聖女専用のアイテムだ。


 これの効果は取得経験値の倍増。

 日に一度聖女が祈りを捧げるだけで、その効果は発揮される。


 そしてこの2つの良い所は、メンバー全員に対して効果がでるのだ。


 つまりオーブと祭壇の相乗効果で、ウチのメンバーはとんでもない成長が出来るんだよ。

 これを使わない手はない。


「でもルイス様、よくここにあるってご存じでしたね」


「ま、まあね、情報は大切だからな」


 ゲーム知識だよと、アメリアには大っぴらに言えないのがツラいな。


 2つはゲームでもお世話になったアイテムだけど、その登場は終盤になってからだ。


 運営の狙いは、後半に加入したメンバーへの配慮であった。

 かわいいキャラが出てくるのに、その育成には残りマップが少ない。


 そのままでは最終決戦までに育たず、倉庫で腐らせてしまう事になる。


 それを運営側はヨシとしなかった。

 かなり思い入れのあるキャラのため、急きょ設けた対策らしい。


 それを後日の開発談話で、担当者が得意気に語っていた。

 みんな呆れると共に、誉めていたのを覚えているよ。


 こんなオタクなことは言えないよ。


「それにしても、この時点だと平和なものだな」


「はい、帝国もここまでは攻めてはきませんからね」


「はは、


 そう、本来ここは終盤に攻略をするマップである。

 その時点では帝国の手に落ちている。


 でも今ならまだその段階だはなくて、楽々と普通に入れてしまう。


 まっ、これは悪役キャラならではの行動だな。


 その立場をフル活用させてもらう。

 まず狙うはゴッドオーブ。


 ここは乙サガのヘビープレイヤーとしての腕の見せ所である。

 久しぶりに血がたぎってくるぜ。


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