第6話 亜空間での特訓 ②

 生き残るため、スキルの入手は大きな強みになる。

 この喜びを師匠に報告した。


 なのにリリアン師匠は頭をポリポリとかき、視線を合わせてこないんだ。


「ルイス、なんかゴメンね」


「えっ、何がですか?」


「だって魔法剣てさ、使えないショボスキルじゃん。期待させたのに何だか申し訳なくてさ~」


「あー、その認識なんですかぁ」


 リリアン師匠は苦笑いをして困っていた。


 まあ確かに魔法剣ってのは、どのゲームでもパッとしない立ち位置だよな。

 剣技にしろ魔法にしろ、他に強力なスキルは山ほどある。


 それなのに体力と魔力のどちらともが必要で、同レベル帯の仲間に大きく遅れをとる性能だ。


 乙サガでも完全にマイナー扱い。魔法剣キャラは敬遠されているのが現状だよ。


 師匠が感じるのは、そこの部分なんだろうな。


 でも、俺は乙サガをすみの隅まで楽しんだ男だ。

 魔法剣だって、その良さも悪さも知り尽くしているよ。


 まあ師匠にゲーム知識だと言えないのが残念だが、自信は絶対にゆるがない。


「師匠、心配しないでくださいよ。魔法剣って案外いいんですよ。なんだったら最強クラスになりますよ」


「馬鹿を言っちゃいけないよ。魔法剣なんて、魔力が低くけりゃ威力はショボいし、体力がなければ当たらない。バランス型なら尚悪い。あれはそういうスキルだよ」


 うん、ボロクソ言ってるわ。まっ、当ってるけどね。


 乙サガのシステム上、能力の上がり方はジョブによって大体が決まっている。


 前衛のジョブなら体力が。

 反対に魔法系なら魔力が上がるのは必然だ。


 でも魔法剣を極めたいなら、その両方が必要になる。

 でもそんな都合の良いジョブはない。


 比較的近いのは勇者だけども、やはり中途半端になってしまう。


 それほど魔法剣ってのは、難しいスキルなんだよな。


 でも、今の俺なら問題ない。

 なんせ師匠に鍛えられ、両方とも数値は100になっている。人の10倍ってバケモンだよな。


 それとこれが有効なのかは、実は実証済みなんだよ。


 それは能力値のドーピングアイテムだ。


 手に入れたアイテムを、魔法剣キャラに全ぶちこみをやってみた。

 結果、笑えるほどクソ強くなり主力メンバーに引けを取らなくなったんだ。


 そして肝心なのが、その時の能力値だ。


 思いだしてみると、レベル1であっても今の方が断然高い。

 もう勝ち組確定、脳内はお祭り騒ぎでカーニバルだぜ。


「師匠、問題点は能力値ですよね。でも俺はレベル1で100いってるんですよ。魔法剣の弱点クリアしてますよ!」


「だから、神は魔法剣を見捨てているんだよ。使いこなすなんて無理だよ」


「えっ!」


「もう、なんで分からないのかなあ。魔法剣はダメスキル。その事実は変わらないよ」


「で、ですからそれを成長でカバーすれば……」


「成長って、そんな夢に逃げちゃダメ」


 いやいやいやいやーーー、いま説明したよな? 固定概念に捕らわれているのか、これは?


 魔法剣が他より劣るのは、人の倍は能力がいるためだ。

 でもそれをくつがえせば逆転だろ。


 それをリリアン師匠は理解が出来ていない。


 難しい魔術や自然を操るからこそ賢者だ。なのに、こんな簡単な理屈が通じないとはな。


 もしかしたら、キャラに縛られているのかもしれないぞ。

 お助けキャラとして誰かを育てるが、育てた結果までに思考がつながらない。

 そう考えるのが妥当だ。


 だから可哀想な目で見てくるし、なんだか俺が間違っている雰囲気だ。


「そ、そうだ。師匠、一度俺の魔法剣を見てくださいよ。そうしたら納得してもらえるはずです」


「ふぅー、君も諦めないねえ。分かったよ、木偶でくを出してあげるからやってごらん」


 うん、一見は百聞にしかずだ。


 体感すれば認識が変わるはず。

 せっかく長い時間をかけて育ててもらったんだ。

 晴れの姿を喜んでもらいたいよ。


 ならば、一発派手にやるしかない。

 魔力を全開でこめて、最大威力でやってやる。


 そうなると属性は何がいいだろうか。


 派手さだけなら、破壊の象徴の炎属性や雷属性だ。

 でも闇や光も外せない。どの属性に対しても大ダメージが出るからな。


 いや、水属性を忘れていたな。その規模の大きさで迫力満点。師匠の度肝を抜くにはもってこいだよ。


 残るは風と土なんだけど、ちょっと地味か。威力はあるものの、見せるこの場にはむいてない。


「ルイス、ためらっているねえ。無理しなくていいんだよ?」


「そうじゃなくて、お見せする属性を考えていたんです。派手なのがいいなって」


「……いや、君のスキルはまだレベル1だろ。だったら風属性と土属性しか使えないよ?」


「あっ、忘れてた」


 そうでした。


 それぞれの属性は、スキルレベルを上げて徐々に覚えていくんだった。


 素人みたいな凡ミスなんて、恥ずかしくて嫌になる、

 全身真っ赤になるのも、見られているし。

 早くこれを終わらせたい。

 

 そんな気持ちで始めたのが良くなかった。

 全力で魔力をこめてしまったんだ。


 木剣に魔力を通すと、ルーン文字が現れ刀身に広がっていく。


 それが刀身に吸い込まれ、風属性へと変化がおこる。

 魔力を込めれば込めるほど、どんどん風の力は濃くなっていくのが気持ちいい。


「ル、ルイス?」


「あっ、すみません。いまやります」


 魔力でパンパンになり破裂しそうだけど、かまわず木偶を袈裟斬りにした。


 風自体は見えないが、空間の歪みで存在がわかる。


「あっ、やばっ」


 追加効果で発生した風がデカイ。


 辺りを巻き込み竜巻となり、空間をねじ曲げはじめたんだ。


 それは止まることを知らず、ついには空間が裂けはじめた。


「あああああああ、き、奇跡。僕は奇跡を見せられているよ。あああああああああああああ」


 一瞬だったが、空間の外にある屋敷がみえた。

 閉じても時空はまだ安定していない。


 そんな状況にリリアン師匠は興奮し、すごい勢いで詰めてきた。


「す、すごいじゃないか。ここは何重にも結界を張っているんだよ。それを壊すだなんて、君のいう通り魔法剣は最強だよ。今ので僕の常識がぶっ壊れたよ。こんなのって、こんなのって、もうサイコーだよーーーーー!」


「だから言ったでしょ。やり方ひとつで変えられるですよ」


「そうだね。もうご褒美だ、受け取ってくれ。チュッチュッチュッチュッチュッチュッチュッチュッチュッチュッチューーーーーーーーー!」


「ええええええええええ!」


 ガバッと抱きつかれ、止まらないキスの嵐。

 なんだか瞳がハートマークになってるし、興奮が収まりそうにない勢いだ。


 引き離そうとしても力負けしてしまう。

 右へ左へ避けても無理。余計に燃えさせてしまっているよ。


「ぶっちゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 ◇◇◇


「ふぅー、堪能したわー」


「う、う、もてあそばれた……ぐすん」


 精根尽き果てた俺とは対照的に、リリアン師匠は元気いっぱいだ。

 肌ツヤが良くなりプルンプルン。

 なんだか全てのエキスを吸いとられた気分だよ。


「キスぐらいで泣かないの。君もそれ以上のことを望んでいたクセに」


「な、なんのことですか!」


「だって、出会ったすぐに『パンツ、パンツ』ってつぶやいていたじゃない? お姉さんは何でもお見通しなのよー」


 あー、ミッションでの独り言を聞かれたか。

 変な誤解を生んでしまったよ。


 このままだと、絶対に悪名が上がるよな。そんな噂が広まったら変質者あつかいだ。


 その数値だって大きいだろうし、下手したら社会的に抹殺されるかもしれないよ。


 考えただけでも恐ろしので、慌てて説明をしておいた。


「嘘だね、そうやって僕の気を引こうだなんて、かわいい所があるじゃないか。よーし、決めた。これからもずっといてあげるよ」


「えっ、それって?」



《リリアン・ツインテールが仲間になりました。今後出動メンバーとして選べます》


「はあ?」


「よろしくね、ルイス。今後は師弟じゃなくて、仲間として頼むよ」


「ははは、まじですか」


 またゲームシステムがねじ曲げられた。

 しかも選択権がない強制シナリオだよ。


 変な終わり方になってしまったが、こうしてリリアン師匠との短くも濃い修行生活は終わった。


 後で弊害がでないか心配だよ。


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