第7話 ミッション乱発はやりすぎだろ

 門をくぐると、おかしな光景だった。


「はあ、寂しい。ルイス様、早く帰ってこないかなあ」


 見送ってくれたアメリアが、また同じ場所で食事の片付けをしていた。


「ただいま、アメリア」


「えっ、えっ、ええええ! もうお帰りで? もしかして願いが届きました?」


「はあ? 何ヵ月もたっているだろ。変な事を言うんだな」


「いえいえ、行かれてから数分も経っておりませんよ。ど、どういう事ですか? やはり、私の事を……ぽっ」


 話が噛み合わずリリアン師匠を見ると、笑って教えてくれた。


「時間の経過がちがうって言っただろ。むこうの一年はこっちの数分だよ。でなきゃ、あんな殺風景な場所いくはずないよ」


「あははは、ルイス様はおっちょこちょいですねえ。……でも、おかえりなさい。修行は成功したのですね」


「ああ、少しは自慢できる位だな」


 ペコリとアメリアが笑顔で迎えてくれた。

 こういうのっていいね。


 何から話そうかと迷っていると、屋敷の方から続々と人が集まってきた。


 使用人だけでなく、両親や常駐している騎士達までもだ。

 出迎えかと思ったが、何やら物々しい雰囲気だな。


「アメリア、無事か。こちらで何が起きたのだ?」


 こんな焦った父は初めてだ。

 余程のことが起きたのだろう。

 何も感じないが、一応警戒をしておくか。


「いえ、旦那様。大きな音はしましたがおかしな事は起きていません。あっ、それよりもルイス様が修行を終えられ、ご帰還されましたよ」


「むむ、ルイスが何か知っておるかもしれんな。アメリア、あれは何処どこにいる?」


「えっ、こちらにいらっしゃいますが?」


「いや、リリアン様ではなくてルイスだ。あやつがまた騒動を起こしたに違いない!」


 なんとも噛み合っていない会話だな。


 疎遠であった俺となら分かるが、アメリアとなると父親の事が心配になる。


 少しボケ始めたのかもしれないから、優しく接してあげよう。


「父上、リリアン様をご紹介して頂き感謝いたします。お陰でスキルを得ることができました」


「は、はあ? えっと、どちら様で?」


 ほうけた表情で聞いてくる。

 益々もって心配だ。

 さぞ母も困っているかと思いきや、なんだか鬼の形相だ。


「あなた、その青年は一体誰なのですか? 納得のいくよう説明してもらえます?」


「い、いや誤解だ。私に隠し子などおらん。こやつの勝手な言いがかりだ!」


「いえ、父上と呼んでいるではないですか、それが何よりの証拠です!」


 パラレルワールド?


 俺が存在しない世界に来たのか?

 戸惑い師匠とアメリアに救いを求めると、二人が大爆笑しはじめた。


「奥様、せられましたが、こちらはルイス様ですよ。旦那さまを父と呼ぶのは当然ですわ」


「えっ、この好青年がルイスなの?」


 おいおい、実の母が子を見間違うなよ。

 そうツッコミそうになるが、他の人の反応も似たり寄ったりだった。


「う、う、嘘だーーーーーー!」

「マジ、あの白豚ルイスがこんなイケメンなの?」

「ええええ、カッコいいじゃん。これならアリかも」

「もしかして悪い魔法使いに、呪いをかけられていたパターンなの? いや、逆にこっちが呪いかもよ」


 両親だけでなく、この場にいた全員が腰を抜かした。


 中にはとても失礼な発言もある。

 ひきつって上手く笑えない。


「なあ、アメリア。みんな酷くないか? 太った男をみんなで冷やかすなんてさ」


「いえ、ルイス様はお痩せになられましたよ。この鏡でご覧くださいな」


 手渡された手鏡に映るのは、ほっそりとしたイケメンだ。

 おかしい、頬っぺたや額の肉が全くない。

 鼻だって肉に埋もれていないぞ。


「えっとー。リリアン師匠、何か幻術をかけていますか?」


「なに、もしかして痩せたのに気がついていなかったの? ププッ、うけるーw」


「もうリリアン様も笑わないでください。ルイス様は真剣なんですよ」


 笑う者、あごを外す者、ぽーっと呆ける者、ひざまずき私も痩せると宣言する者。


 カオスが広がった。


 下をむくとつま先が見える。

 そうだよな、師匠との組み手でも思うように動けていた。


 空中での方向転換や、背面からのキックなど180kgのおデブには難しい技だよな。


「ま、まさか。本当にルイスなのか?」


「はい父上、師匠との亜空間での修行を終えました。座学も含め、少しはお役に立てるかと自負しております」


「立派になりおって。よい弟子になれたのだな」


 父は師匠に会釈したあと、俺を強く抱き締めてくれた。

 俺も強く抱き締め返し、安堵の息を吐く。


 周りから拍手され、なんだか気恥ずかしいがとても幸せな気持ちだ。



《ビーゴン、ビーゴン。リリアンとの信頼が深まり、ミッション失敗が確定しました。次のミッションを発動させます》


 そういえばパンツミッションの途中だったか、完全に忘れていたよ。

 体感では約一年ぶりのミッションだもんな。


 それと追加のミッションって、前にそんなシステムはあったかな。


《この場の騎士団の全員を追放しろ (報酬、迫害の剣) ☆☆★》


 あー、こんな感じだったな。

 でも民を守る彼らを排除って、相変わらず馬鹿げているミッションだ。


 却下だよ、却下。考えるまでもない。

 表示されている画面を払うと、次の文字が現れた。


《城下町を全裸で歩け (報酬、鎮圧の盾) ☆☆★》


 秒で払いのけた。


 すぐに顔バレして笑い者だ。馬鹿馬鹿しくて話しにならん。


 ぬお、また次がきたぞ。


《両親に水をぶっかけろ (報酬、反逆の鎧) ☆☆★》


 それで悪名が上がるってのも幼稚だろ。


《3つ同時にコンプリートすれば、追加点のチャンスです。さあ、あなたの悪名を轟かせましょう!》


「はぁーーーーーー、疲れる」


 ムキになって乱発してきやがった。


 悪役界でのルイスは、期待されている逸材だ。

 見た目、言動、ポリシーまでも何処にいても嫌われる。

 上から目線がムカつく、悪役界のプリンスさ。

 だから目をかけたいのは分かるよ。


 でもパンツや全裸に水をかけろって、常識人の俺には無理だ。

 普通にやりたくない。通知されるだけでもいい迷惑だ。


 なのに画面は早くやれと、催促さいそくをしてくる。


 でもこの戦いは簡単だよ。

 だって何もしなければ、向こうの思惑おもわく通りにはいかない。


 放置していればいいんだよ。


《ビーゴン、ビーゴン、時間切れです。全ミッション失敗、全ミッション失敗。結果発表、悪名:40減点(⇒9,940)となりました》


 俺の意志が伝わった。

 そう安心したけど、向こうも諦める様子がなかった。


 またアナウンスが鳴り響く。


《緊急事態、緊急事態。救済処置として、ボーナスミッションを発動させます》


「ボ、ボーナス?」


《救済ミッション発動 ハーピーと共闘し、目撃者一人を残して虐殺せよ (報酬、スキル・ハーピーテイム) ☆★★》


「ハ、ハーピーと共闘だって? これじゃあ放置が出来ないぞ」


 モンスターまで派遣してくるとは、今までとは毛色の違う内容だ。

 しかも星2つの高ミッションである。

 報酬はスキルと破格だし、運営はちょっと意固地になってないか?


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