悪役貴族さま、極悪ミッションでの日常 ~逆張りで痩せて、助けて、優しくしたら、ヒロインたちが俺を勇者だと勘違いし始めてる

桃色金太郎

乙女とミッション開始

第1話 ミッション メイドを虐めろ

 いつの間にか寝ていたのか、ぼんやりとして意識がはっきりしない。

 重い体を起こそうとすると、突如つんざく音が鳴り響いた。



《ミッション発動 ミッション発動 メイドをとことんいじめぬけ (報酬、服従の首輪) ☆☆★》



「はあ?」


 目の前の空間に文字が浮かび驚かされた。


 いくら発達した世の中であっても、裸眼でこれはあり得ない。


 それにメイドって何?


 アキバにすら行った事のない俺には無縁のものだ。


 首をかしげ考えていると文字は消え、視界がはっきりとしてくる。


 ここは見慣れない豪華な部屋で、どうも俺の家じゃない。


 そして足元から何やらうめき声がした。


「う、う、うう。く、臭い~」


「おっ?」


「あっ、ち、ち、ちがうんです。決してルイス様の足のことではありません」


 俺は足を投げだしソファーに座っている。


 その足かけソファーの場所に、一人の少女がしゃがんでいた。

 いや、この子自身が足かけソファーの代わりになって、俺の足を受けていたのだ。


 非現実な光景に頭は真っ白。

 慌てて肩から足を降ろす。


「ルイス様、もうよろしいのですか?」


 臭かったはずなのに、それをとがめようともせず心配そうに少女は聞いてくる。


 が、それどころじゃあない。


「か、かわいい……天使かよ」


「えっ?」


 あまりの可愛さに、つい本音が出てしまった。

 いや、黙れという方が無理だ。


 だってふんわりとしたおっとり系美少女なのに、スタイルにはメリハリがあり、出ている所はこれでもかと主張をしてくる。


 モブな俺の生活では、まず交流のない領域の人種だ。

 なのに、すぐそこにいるんだよ。


 その美しさこそ非現実的で、俺の魂と心と心臓が激しくさぶられている。


 だけどこの子さ、どこかで見た覚えがあるんだよなあ。


 そんな彼女越しの鏡には黒髪の俺ではなく、金髪碧眼のおデブちゃんが映っている。

 信じられないが、それは俺自身であった。


 呼ばれる名前と映る姿で、回路がつながった。


「も、もしかして君はアメリアなのか?」


「はい、ルイス様の忠実なるメイド、アメリアでごさいます」


 これは確定だ。これはゲーム転生だ。そして破滅が見えてしまった。


 戦略型RPG【乙女と一緒にタクティクスサーガ】、通称おとサガ。

 その自由度の高さから、全世界で大人気になったゲームだ。


 もちろん俺もやっている。


 それに出てくるのが、超絶嫌われの敵役かたきやくルイス・ウォルター・アルヴァレズ。


 俺はルイスそのものになっていた。


 でも寄りによってルイスかよ、こいつだけはマジやばい。


 何度も主人公にボコられて、最後に処刑されるキャラ。そんなのに転生したんだ、焦るなんてものじゃない。


「どうされましたか、ルイス様?」


「あっ、いや、なんでもない」


 そして目の前の美少女は、ルイスに日々イジメられるメイドのアメリア。

 のちに勇者と共に、ルイスをボッコボコにするメンバーの一人だよ。


 道理で可愛いはずだよ。

 俺もメンバーの中で、一番推していたもんな。


「むっ、膝から血が出ているな?」


 アメリアは恥ずかしげに隠すが、長時間ソファーとして動かなかったのだろう。肩だけでなく、その重みでひどい傷になっている。


 俺はテーブルにあったポーションをアメリアの膝にふりかけた。


 たちまち傷はえ、その跡すらなくなっていく。


《ビーゴン、ビーゴン、ビーゴン!》


 頭の中でけたたましい音が鳴り響く。


《警告、警告。その行為はミッション達成のさまたげになります。減点対象となるので、ただちに修正してください。繰り返します……》


 視界の端にはご丁寧に、『警告』の文字まで出ている。

 触れられもしない文字を手で振り払う。


「何がミッションだ。こんな可愛い子がケガをしてるんだぞ。放っておくはずないだろが!」


「ひゃ、ひゃい?」


 俺の大きな声でアメリアを驚かせてしまった。

 どうやら音や文字は、俺だけにしか分からないようだ。


「すまん、こんな酷いことをして。それと体力回復のため、もう一本を飲んでおけ」


「ルイス様、カッコいいです~」


「えっ?」


「えっ!」


「あうあう……なんでもない」


 幻聴だよな?

 だっておデブな意地悪貴族だぜ。


 いくらアメリアが目線を外し顔を赤らめようがあり得ない。


 変な期待は胸にしまっておく。


 ポーションを渡すと、アメリアはこくんとうなずきクチをつけた。


 飲み干すといさめてくる主は諦めたのか、警告音が鳴り止んだ。


 人助けなど確かにルイスのする行動じゃないか。


 極悪非道のルイス本人なら、『ぐふふふ、もっと可愛く泣いてみろ』と尻をふって喜ぶのだが、常識ある俺にはできない。


「でも、どうされたのですか。まるで別人のように優しくなられて。あっ、あわわわわ、すみません、失礼な事を。二度といいませんので、あの地獄のようなお仕置きだけはご勘弁をーー!」


 平伏し全力で謝ってくる。

 本来なら俺がなど知るはずもない。


 だが、うっすらとルイスの記憶を持っている俺にはわかる。

 スライムを使ったぬるぬる責めや、クワガタ100匹はさめるかな?とか。

 うん、恐れるのも納得だ。イカレた行いばかりに頭が痛くなるぜ。


 アメリアをなだめようと肩に手をおくが、逆効果でしかない。

 ビクンと飛びのき余計に萎縮させてしまった。


「謝るのは俺の方だ。今までムチャな事ばかりさせてしまった。今後はイジワルや幼稚なことはしない。すまなかったな、許してくれ」


「ル、ルイス様?」


 謝るのだがこの体の主は、はっきり言ってクソ野郎だ。


 傲慢でイジワルな怠け者。

 伯爵の子息であるのをいいことに、使用人や領民をイジメぬいている。


 すべてを『ボクチンを誰だと思っている?』でねじ伏せ、上位者には近寄らない。卑怯を地でいく嫌われ者なのだ。


 特に嫌われた理由は、自分では動かないクチだけ星人という点。

 人にやらせ成功すれば、自分の手柄だと風潮し。

 失敗すれば心身不調になるまで相手を叱咤しったする。


 なのに本人はめちゃ弱い。

 ゲーム後半であっても、まだレベル1だったりする究極の怠け者なのだ。


 なのに悪巧みにはけていて、最後には敵国の兵士を王宮に引きいれ、国を転覆させようとしたんだ。


 結果は失敗。ワンパンで、勇者に捕らえられている。

 そして市中を引き回されて、石打の刑で息絶えるのだ。


 そして一番ヘイトを集めたひと言が、引き回されている時のセリフだ。


『あー、歩くのだるぅ。おい勇者、疲れる前におんぶしろ』である。


 これにみんな反応し、ネット市民が大いに沸いた。


『処刑される間際にコレ?』や『究極の怠け者』とか罵倒され。

『デブスは黙って転がっていけ』と散々たたかれていた。


 そんな怠け者貴族に俺はなったのだ。


「あわわわ、頭を上げてください。ルイス様らしくないですよ」


「いや、どうかしていたのは今までの俺の方だ。これからは生まれ変わる。別人のルイスだと証明してみせるよ」


「ほ、本当にですか?」


「ああ、誓ってだ」


「ご、ご立派です。アメリアは感動いたしました、グスン。……あと、好きです」


「えっ、好きって?」


「あわわわわ、私としたことが。な、なんでもありません」


 恥ずかしそうにうつむくアメリア。

 こっちもなんて返せばいいか分からない。


 でも物の捉え方を変えたなら、少しは誠意が伝わったって事だ。

 この場のフォローとしては良しとしておこう。


 しかしなぁ、これだけでは足らないよな。


 ルイスがしてきた事を覆すには、もっと努力しなくてはいけない。積み上げてきた罪が重すぎる。


 死ぬ気にならないと、本当に死んでしまう事になるからな。


 あんな悲惨な最後はごめんだよ。



《ミッション失敗、ミッション失敗 これより結果発表いたします》


「ぬおっ、な、なんだ?」


 思案をジャマするかのように、また画面が現れた。


 ◇◇


 名 前:ルイス・ウォルター・アルヴァレズ

 職 業:怠惰でクズな御曹司

 H P:2/2

 M P:4/4

 レベル:1

 体 力:1

 魔 力:2

 スキル:なし


 悪 名:10,000(MAX100)⇒9,990


〈残念ながらミッション失敗により、悪名が減点されました。次回の挑戦をお待ちしております〉


 ◇◇


「な、なんだ、この悪名ってのは?」


 それは通常キャラにはなかった項目で、響きからしてヤバすぎる。

 悪役ってそんなカテゴリーなのか?

 考えれば考えるほど分からなくなる。


 想像がふくらみ破裂した。

 本日二度目、頭が真っ白になっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る