遭難日誌19日目

【西田茂の手記】


 今日の午前中は美恵ちゃんと魚釣りを楽しんだ。これは実質デートでしょ。

 棒に糸と針をつけただけの原始的な竿だが、大物を釣るわけでもないので特に問題なかった。こういう釣りもいいよね、なんていうかシンプルで。

 餌は勿論、虫だ。美恵ちゃんは虫に怯えながら抱き着いてきた。控えめな胸だが、俺は愛すよ。大事なのは形とか感度だからな。きっとどっちも俺好みだ。いずれ、知る日がくるさ。

 それにしても、この子は本当に可愛いな。女の子はこうでなきゃ。

 女といえば、田尻さんが川の水を飲んでいた。

 いや、川の水は俺らも飲むんだけど、アイツそのまま飲んでたぞ。

 濾過も煮沸もせずに飲むなんて危険だと思うけど、別に止めなかった。

 死んだら死んだでいいし、止めたら何をされるかわからない。まあ、自己責任ってヤツかな。

 水を一心不乱に飲むのが面白かったのか、美恵ちゃんが笑っていた。まあ、笑うよね。面白いもん。

 美恵ちゃんの笑顔を引き出してくれてありがとう。もう死んでいいよ。そろそろ塩分不足でやばいでしょ。


 ちなみに釣果はまずまずといったところ。本当に川の近くに不時着したの幸運だよなぁ。なかったらとっくの昔に死んでるよ。

 明日も魚釣りしようかな。宮本さん曰く、動物が減ってきてるらしいし。

 これからは俺と美恵ちゃんが食料の稼ぎ頭になるのかな。まあ、望むところよ。

 建築やら機械弄りが俺の適正だと思ってたけど、魚釣りも悪くないな。

 今までは余裕がなかったけど、結構空が綺麗だな。空気もそこそこ綺麗だし、地球より環境いいんじゃないかな。

 風景は悲しいほど殺風景だけど、美恵ちゃんがいればどこであろうと桃源郷だ。ここでアダムとイヴになるのもありかもしれない。

 魚釣り以外もしなきゃダメだよなぁ。そろそろ建築も再開しなきゃいけないなんだろうけど、当分はいいかな。

 建築だと美恵ちゃんと一緒にできないから仕方ない。材料の運搬なんて重労働させるわけにもいかないし。

 よし、明日は同衾してみよう。ってことはお風呂を焚かなきゃいけないな。俺は大丈夫っていうか、むしろ興奮するけど、女の子としては風呂に入ってからがいいと思うんだよね。ああ、ワクワクしてきたなぁ。

 もちろんエッチなことはしない。それはまだ早い、まだまだ焦らす。そのうち向こうのほうから我慢の限界がくるはずだ。あくまでも美恵ちゃんの溜まった欲求を解消してあげるっていう体がいいんだ。




【宮本智の手記】


 そろそろ敦子ちゃんの限界が近づいてきてる気がするわ。

 しゃあないから、俺の塩を少しだけ料理に混ぜてあげたわ。

 本能なんかしらんけど、すんげぇ勢いで食べててワロタ。

 別に俺も無限に塩持っとるわけやないんやけど、まあ、見殺しは夢見が悪いからなぁ。ええことしたわ、ホンマに。


 そういや今日は集落から火があがってないな。終戦したんかな?

 まだ様子見しとこ。っていうか早く手綱と鞍作ってくれや。

 そろそろ尻の皮がいってまうって。

 まあ、それはそれとして西田君、だいぶ精神安定してきたなぁ。

 いや、安定したんかな? 逆に不安定になったというか、一線越えてしまったというか、なんというか。

 最初の頃の不安な感じ、焦りとかはなくなっとるけど、なくなりすぎてるわ。

 脱出や生き残りに対する必死さ、執念が感じられん。というか、ここに永住することも視野に入れてるように見えるわ。

 まあ、かくいう俺もここでの暮らしを気に入ってるんやけどね。娯楽がちょっと足りへんくらいで、生活自体は普通に楽しいし。


 んで、敦子ちゃんは最近何やってるんやろ。

 徘徊老人のように外をうろうろしとるけど、心配やわ。

 交易商の人らが言うには、やばめの民族とかもおるらしいし。

 まあ、あんなんさらう物好きはおらんと思うけど、争いの火種になる予感がぷんぷんします。不安です。




【田尻敦子の手記】


 体調がとにかく悪い。変な病気にかかった可能性が高いわ。

 薬草を食べてみたけど、不味いだけで体調はよくならない。むしろ悪化した気がするわ。

 喉もカラカラで限界だから、川の水をそのまま飲んだ。宮本のバカがいないのを見計らって。

 そしたら、川で呑気に釣りしてるバカ二人が変な目で見てきた。

 こんな極限状況で遊んでるアイツらのほうが遥かに異常なのに、なんでそんな目で見てくんの? 理解できないんだけど。

 魚もやたらしょっぱくて気持ち悪かったし。まあ、お腹空いてたから我慢して食べたけど。

 っていうか魚より、野菜をなんとかしてほしいんだけど。

 この体調不良は絶対にビタミン不足が原因よ。疲労といえばビタミンって相場が決まってるもの。

 こうなったら木の実を食べるしかないのかしら。でもあのバカ共は当然として、ここに長く住んでいるあのぶりっ子女(もはや名前忘れたわ、どうでもいいけど)も食べられるかわからないって言うし、悩む。キノコみたいに触っただけで激痛が走る可能性があるし、どうすればいいの?

 前に会った男に聞けたら一番いいんだけど、あれから会えないし、そもそも言葉が通じない。ジェスチャーでなんとか伝えられないかしら。

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