27.「~ごらん」が似合わない男。
まあ、とはいえ、これで謎は解けた。
が、こうなると、
なにせ、昨日の速射砲みたいな喋り方と、今日のツンツンクールビューティーな喋り方。このどちらもが作り物ということになるのだ。
となれば、今俺が小峯に関して持っている情報は、不思議な時期に転校してきた美少女であること。そして、小説を書かせれば天才の可能性が高いこと。この二つだけだ。
あ、後は俺に対してアプローチを図ってるっていうのもあるか。でもそれくらい。昨日一日で結構つかめたつもりだったが、大分後退してしまった。こりゃ、骨が折れるぞ。
取り合えず、
「なんでそんな真似事をしているかは分からん。から、やめろとは言わない。けど、小峯。考えてみろ。そういう何枚ものペルソナを持っているようなヒロインが最終的にどうなる。隠していた自分の本性をさらけ出すことで、物語が進むんだ。分かるか?要はそれ、最終的には捨てることになるんだよ。だから、まあ、適度なところでやめとけ。あまりやりすぎると自分を見失うぞ」
と、真面目なことを言って、
「俺は、素のままの君が一番だと思うよ(キラーン)」
最後に、実に余計なカッコつけ台詞を付けてしまった。なんでだろう。
いやまあ、答えは分かってるのよ。だって、今小峯が真似てるヒロインって俺も知ってるもん。
んで、そうなると、その相方っていうかカップルとなる主人公だって知ってるわけ。
その主人公がまた、本気になれないというか、おふざけ気質というか、芸人気質で、こうやって、要らない一言を付けてはヒロインにドン引きされるという訳。だから、当然小峯からの反応も、
「……変なカッコつけはやめてください」
肩を抱いて二歩、三歩。とても昨日まであんなフランクに接してくれていた転校生とは思えないくらいの拒絶反応。これがまあ、作中でのデフォルトなやりとり。なんで真似ちゃったんだろうね。最後の一言が無ければきっと円満に収まってたんだと思うんだけど、俺もなんだかんだ言ってコメディアンなのかなぁ。
その一連のやり取りを見ていた
「そもそも、素のままの小峯を見ていないのに、一番だなどと良く言えたな?」
う、うるさい。言葉のあやというか、ちょっとしたカッコつけだよ。
とは当然言えないから、
「良いだろ、別に。多くのペルソナを抱えたままゴールインするヒロインなんていないんだ。不毛じゃないか」
それに対して高島は淡々と、
「しかし現に
「うっ……」
否定できない。
何ともちょろい男だ。仕方ないだろ。人生最初のモテ期かもしれないんだ。ちょっとくらいチョロくもなるさ。
が、やはりそんな言い訳をするわけにはいかない。
さて、どうしたものか。高島の正論スマッシュに対する詭弁サーブを考えていた、その時だった。
「お、いたいた」
クラス後方の扉から、一人の女子が入ってくる。
彼女は一目散に俺たちの元へとやってくると、
「おっす」
明日香は俺に軽く挨拶をしたのちに、
「お、貴方が噂の転校生?」
「あ、はい、多分」
想定外の来訪者だったからだろうか。小峯の声が随分とフラットだ。あれが素、なのだろうか。
と、小峯の本性について思いを巡らせようとしていると、明日香が、
「初めまして、になるかな。私、時雨明日香。そこに突っ立ってる変な男の幼馴染」
「はあ、幼馴染」
自己紹介をする。
それはいい。
問題は、
「おい、明日香。幼馴染を捕まえて、変な男は無いだろう。変な男は」
文句をつけてやる。
が、
「え?変でしょ」
「まあ、変だな」
「ああ……それは否定出来ないかもしれません」
このありさまだ。誰も擁護してくれない。そんな馬鹿な。俺のどこが変だって言うんだ。そりゃ確かに、ちょっとばかしラブコメは好きかもしれない。けど、それだってちょっとだろう。変人扱いされるほどじゃないはずだ。
俺はそんな遺憾の意を込めて、
「馬鹿を言え、馬鹿を。この一般的な男子高校生を捕まえて変人扱いとはいい度胸だ。なら聞こうじゃないか。一体どこが変だというんだ。言ってみろ」
そんな反論を三人の暴虐な女たちは、
「え、全部?」
「そもそも普通の男はそんな反応をしない、はい、論破」
「普通の男子高校生は、素のままの君がカッコいいよなんて台詞を、出会って二日目の転校生に対して言わないと思います」
ぼこぼこだった。
っていうか、酷くない?三対一って。誰かひとりくらい俺の味方してくれてもいいとおもんだけど。もしかして、俺、このセカイの主人公じゃない?いやでも、ラブコメの主人公って大体こんな感じの扱いを、
「え、なに、宗太郎そんなこと言ったの?」
「はい。素のままの君が一番素敵だよなんて恥ずかしい台詞を、それはそれはキメキメの顔で」
「おいそこ、勝手に話を進めない」
俺の抗議は聞き入れられることなく踏みにじられ、
「うわぁ……それ、あれだね。ラブコメの見すぎ。きっとあれだ。自分も主人公だと思っちゃったんだよ。気を付けてね、えーっと……」
「小峯です。小峯
「小峯さん。きっとアイツのことだから、これからも色んなイタい台詞を放ってくると思うけど、大丈夫。素はただのヘタレ野郎だから。安心して。もし、どうしても嫌だったら私に言って?なんとかするから」
「はい、ありがとうございます」
あれー?おかしいな。小峯さんが今日いち美しい笑顔を見せていらっしゃるぞ。どうしてだろう。その笑顔は本来俺に向けられるべきものだと思うんだけど。後、人をラブコメを読み過ぎて現実と虚構の区別がつかなくなった精神異常者みたいな扱いするんじゃないよ。そもそも、
「一応言っておくが、元凶は小峯だからな。こいつが見覚えのあるキャラをしてたから、俺もそれに対応しただけだ。勘違いするんじゃないぞ」
釘をさしておく。
が、
「はいはい、言い訳は後で聞くから」
「困ったら人のせいにするんですね、立花くんは」
「全く、酷い男だな」
まあ、そうなるよね。この流れで聞き入れてもらえるなんて思ってないよ。うん。
このままだといつまでたっても話が終わらなさそうだ。
というわけで俺は明日香に話を振る。
「はいはい、酷い男ですよ……んで、明日香。俺に用事があったんじゃないのか?」
それを聞いた明日香はぱっと小峯の傍から離れ、
「おっと、そうでした。んじゃ、いこっか」
「ん」
良かった。本題を忘れてはいなかった。俺は内心で胸を撫でおろして、鞄を持ち、
「小峯」
「……なんですか」
その視線はまだ警戒している……ように見える。実際のところがどうかは分からない。昨日見せたフランクさと、今日見せた警戒心の強さ。一体どっちが本物の小峯なのだろう。それとも、どちらも彼女本人とは程遠いんだろうか。
分からない。
が、ひとつだけ言えることがある。
「別にキャラを作るのは良い。いいが、もうちょっと接しやすいのにしてくれ。昨日の今日でこの温度差は正直びっくりする」
「……はあ」
分かってるようで分かってなさそうな、そんな気持ちの籠っていない返事。
まあ、いいや。
小峯の狙いが一体なんなのかは分からない。分からないが、その手のペルソナを背負ったままゴールするラブコメなんてありはしない。どこかで本心をさらけ出す時がやってくる。きっと、そう遠くないうちに。
「宗太郎―?」
気が付けば、明日香が教室の出入り口付近で俺を待っていた。
「今行く」
声を張って返事をした後、
「んじゃ、また明日……は休みか。また、明後日」
高島と小峯に別れを、
「私は、今日の夜だけどな」
「……まあ、そうだけど」
しまらない別れの挨拶だった。
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