母の鼻

明鏡止水

第1話

くさい!!


ひどいのです。

……いつの頃からかは忘れましたが、明鏡止水の部屋や持っている服、すべてがくさいと母がいうのです。


まるでいじめに遭っている気分でした。


「古い本があるからその匂いだよ……」


明鏡止水の鼻では臭い、臭気、とまで呼べるような不快な匂いは感じられなかったのです。


最近になって、やっとヒントが与えられました。


「……なんか湿布のにおいする……」


それが、明鏡止水の母の鼻が導いた答えに近い、感覚でした。


湿布の匂い?


仮に湿布の匂いだとして、湿布臭いか?


むしろ、ミントじゃん。薄荷じゃん。


ひどいよ。あんなに訳もわからずくさい、くさい、連発しといてっ! わたし、本当に自分の鼻がおかしくなってゴミ屋敷みたいな臭いがするのかと心配だったのに! うんと傷ついたのに!


でも、ヒントは与えられた。

そして物体はすぐ発見された、というか。

仕方なしに置いてあったものだった。


正露丸。


ちゃんとしたとこで出てる、ラッパ🎺のマークのとこのアレです。


それも特大サイズ。


私は閃いたのです。


湿布。


匂いの強いもの。


この部屋全体や服にまで移る匂い。


母が臭いと一蹴していたのは薬剤だったのです。


どうして部屋に特大正露丸があったのか。

それは、一人暮らしの頃の荷物が部屋に散乱しているからです。なかでも鍋や薬剤は家族の共用スペースにしれっと混ぜるには勇気がいったので、明鏡止水はずっと部屋にできるだけ、保管していたのです。


それがまさか薬剤のにおいで、部屋がくさい、と言われ続けるなんて。


悲しい時を過ごし。

そして、犯人(超いいお薬)を突きつけた時の母の顔と反応!


「うわぁ、これだ!!!!!」


ビンゴ!!!!!


とは言っても明鏡止水のお部屋が爽やかな香りに包まれたわけではない。


ただ! 確実に双方のストレスが減った!


かたや、親に部屋が臭いと言われることがなくなった!


かたや、娘の部屋のにおいが解消された!


……なんだよ、この事件!

だれか名前つけてくれよ!

タイトルは「鼻」じゃ芥川龍之介だし!

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母の鼻 明鏡止水 @miuraharuma30

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