第47話 携帯電話の通話記録
第47話 携帯電話の通話記録
鑑識の鈴木が去った後、捜査会議はさらに進んでいた。
「外には容疑者になりそうな者がいそうか?」富里がバックアップチームに訊ねた。
神林を担当した西田巡査部長が返事する。
「神林英彦には、貝原殺しの動機があります」
「何? どんなものだ!」
町村の証言などによる、選考委員会の様子からは想像できなかったことで、富里はかなり驚いていた。
「神林には、銀座にご執心のホステスがいたようです。そのヒデミと云うホステスと、貝原には男女関係があります。それもこの半年以内に起こった関係です」
「三角関係のもつれの線か……女が共犯者であるとも考えられる。西田君、神林のアリバイと外の女性関係も当ってみてくれ」
西田は、「はい」と威勢良く応答した。
「風見新一にも、貝原殺しの動機があります」野村巡査部長からの発言である。
「風見にもあるのか?」富里が目を丸くする。
「五年前、大和屋出版の新人文学賞で、風見は最有力と言われながら、選考委員の一人だった貝原に、候補作品をこっぴどく批判され、彼はその時落選したことで、作家デビューが一年遅れたと酷く恨んでいたようです」野村は、きびきびと報告した。
「なるほど、若く魅力的な風見なら、女の共犯がいたとしても不思議はないな……野村君、風見のアリバイと女性関係も当ってくれ」
富里は次いで、小湊に視線を移して声を掛けた。
「外にはあるか? 巽龍介はどうなんだコミさん」
小湊は、如何にも愉快そうに答えた……
「業界では一番怪しい人物になるのでしょうが、彼は白だと思います。念の為アリバイは調べておきます」
「よろしく」富里は、小湊の返事で正直少しほっとした。
いや待てよと云う様に、富里は再び小湊に目を向けた。
「一番怪しい人物がいたな?」
小湊が答える前に、その隣の亀山が「町村博信ですね」と声を上げた。
富里は亀山を見る。
亀山の視線は、富里から小湊へと移動する。
「コミさん、悪いが、町村は俺にやらせてくれないか?」
小湊は、その亀山を見て頷く。
「町村は、竜野の大学時代からの親友だったね。だったら亀さんに任せますよ」
富里がその分担変更に、同意を与える意味で頷くと、亀山は小湊に「コミさん、すまんな」と言った。
会議はさらに進行して行く。
「次は……貝原の携帯通話記録について報告してくれ」富里はバックアップチームへそう指示した。
「はい、貝原の携帯から、竜野の携帯への通話が二回記録されてます。
一回目が事件前日の十二月八日午後二時、二回目が当日の十二月九日二十時三十分丁度、その発信基地局は現場付近です。
その外、所有者不明のプリペイド式携帯ナンバーへも、十二月五日から九日まで、毎日数分から、長くて十分程度の通話記録があります。
外の発信記録は殆どありません。
彼は携帯を受話専用に使用しているようで、過去の記録を見ても殆ど発信記録はありません」
「そうなると、そのプリペイドへの発信が気になるな。使用者を特定することは不可能か?」
「秋葉原の路上で売られている類の物なので、特定は全く期待できません」
「そうか……」富里の声に陰りが帯びる。
再び顔を起した富里は、同じ刑事に質問する。
「竜野の携帯の発信記録はどうだ?」
「竜野の携帯からの発信は、特定のナンバーが幾つかあるだけで、貝原の携帯へは一回だけ記録されています。
時刻は、八日の貝原からの通話の、五分後に当る午後二時五分です」
「特定のナンバーとは誰だ?」
「妻の広美宛が八割で、荻窪在住の松原慧へ一割、町村博信が五%、残りは、勤め先の東金市役所と公益サービスだけです」
「なるほど」富里は、無意識にあごを撫で回していた。
「松原慧に対しては、回数よりも通話時間が長いことに特徴がありますね」
その刑事の報告が済むと、亀山が富里に進言した。
「松原慧には、私が明日当ってみます」
「亀さん、よろしく頼む」富里は、亀山に期待を込めて言った。
富里は、携帯の通話記録がメモされたホワイトボードに目を落とし、刑事一同に向き直った。
「十二月八日、午後二時に、貝原は自分の携帯から、竜野の携帯へ電話した。
あの駐車場へ呼び出す為の電話だろう。
竜野は急なことで即答できなかったが、五分後に承諾の電話を返した。
九日午後八時半の電話は、約束の時刻に面識の無い貝原が、駐車場で竜野に掛けたものと見ていいだろう。
例のプリペイド携帯の持ち主だが……竜野を呼び出す計画について、貝原と打ち合わせを繰り返していたのかも知れないな。
そして、それは、貝原を殺す為の罠であった可能性もある……」
夜の会議は、その後も暫く続いた……
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