第40話 窮地


 放たれた魔法の槍を、携えた魔法の剣で迎撃し、撃ち落とす。

 ただそれだけの事。先日の戦いと何ら変わらない光景。

 しかしその規模は、先日の戦いとは段違いだった。


 奴の放つ魔法は、世界で他に見ない、火と地の属性が混ざった未知の魔槍で。

 それを切り裂き撃ち落とす、俺が手にする魔剣もまた、水と風の属性が混ざった未知の魔剣で。


 未知と未知とのぶつかり合い。

 だからか、その結果も全く未知の物で。


「うぉぉぉぉ!?」


 ドォォォン!


 バシュゥゥ!


 俺の魔剣が奴の魔槍とぶつかる度に、爆発を起こしたり蒸発を起こしたりと、その都度様々な反応を示す。

 なんで毎回撃ち合った結果が違うんだこれ!?

 内心動揺しながら、俺は手にした魔剣を振るい続ける。

 そんな中で唯一変わらないのは、魔剣が魔槍に打ち勝ち次々と消滅させている事だ。


「ハハハハハハッ! それでこそ! それでこそだアルス!」

「うるせぇなぁ! いい加減その喧しい口を閉じやがれ!」


 放たれた魔槍を一本漏らさず迎撃しながら、俺は奴へと走り迫る。

 森で戦った時もそうだったが、あの時以上に、一本でも撃ち漏らせば町に甚大な被害が出るだろう。何せウンディーネ単体の力を借りた魔剣以上の威力は間違いなくある魔槍。魔浄斬以上の威力を持った一撃が町に与える被害なんて、想像したくないレベルだ。


「なかなかやるなぁ。だがこれならどうだぁ!?」

「……!」


 奴が魔槍の連射を止め、両手を上げて溜めを作ると、今まで放ったもの以上に魔力が練り込まれた、巨大な魔槍が虚空に現れる。


「これが私の全力だ、受け取れアルスゥゥゥゥゥ!」


 両手を振り下ろし、奴は俺に向けてその巨大な魔槍を放つ。

 その動作に従って、今現れた魔槍が俺目掛けて飛んでくる。


「アルスさん! やっちゃえー!」


 シルフィの声援を背に受けながら、俺は、その魔槍を切り裂くべく魔剣を振るう。

 そしてその二つがぶつかり合い。


「!?」 


 周囲をまばゆいばかりの閃光が包み、直後に先程魔法が衝突した時の比ではない大爆発が起こった。




「……どう、なった?」


 ……爆発の衝撃で、だいぶ吹っ飛ばされたな。軽く意識も飛んでいたようだ

 気が付いたら地面に倒れていた俺は、ふらつく身体を起こして周囲の状況を確認する。


 どうやら意識が飛んでいたのは一瞬のようで、周囲の光景は先程と然程変わらない。今の爆発で、爆発を起こした地点周囲の瓦礫が派手に吹き飛んでいるくらいか……


「……!? シルフィ!」


 そんな風に状況を確認していた俺の目に、シルフィが倒れ伏しているのが映り、思わず声を上げて駆け寄る。今の爆発で何かダメージでも負ったのか!?


「ふぅ……大丈夫か」


 一通り彼女の状態を確認して、特に外傷が無い事を確認して安堵する。

 どうやら俺同様に爆発に吹っ飛ばされて、気絶しているだけのようだ。


 ガラガラガラ……


「……!」


 シルフィの無事を確認した俺の耳に、瓦礫が崩れる音が入る。

 その音がする方へ視線を向けると。


「これでもお前を殺せぬか……アルス」

「あいにく、しぶとさには自信があってな」


 崩れた瓦礫を押しのけて、その下から奴が姿を現す。

 俺と同じく奴も先の爆発で吹っ飛ばされてたようだな。


「……そっちは打ちどころでも悪かったようだな」


 見れば、奴の右腕は力無くだらりと垂れ下がり、異形の姿となった左腕で、その右腕を抑えている。


「今度は、そっちの腕を切り落とそうか」

「そいつは困るな。また別の魔物を探して喰らわねばならなくなる」


 俺の軽口に、奴は冷静に答える。

 ……さっきまでと違って、随分と大人しくなったもんだ。


「だから」


 奴は落ち着いた口調のまま、キッと俺の方を見据え、無事な左腕を向ける。


「お前はここで確実に殺す。そうすれば二度目は無くなるだろう?」


 まずいな、一旦仕切り直しのような状態になった為か、若干理性が戻ってるように見える。あれだけの力を考えて使われたら、とても厄介だ。

 俺を狙ってくるだけならまだ良い。だが町や…今、意識を失ってるシルフィを狙われたら。

 それに何より……


「さっきの二属性のが来たら受けられるか……?」


 俺は、先程の爆発と共に付与された魔法が吹き飛んだ、手に持つ何も纏っていない剣を見て呟く。何となく異なる属性の魔力を混ぜる感覚は掴めたが、さっきまでの属性を纏めた魔剣は、シルフィの協力があって出来た物だ。

 あの複雑な魔力の制御技術を、俺が再現出来るかというと……難しいところだな。


 内心でそんな事を思い、冷や汗を流しながら奴の挙動を窺っていると、奴のかざした手から再び魔槍が現れる。火の槍や岩石の槍ではない。その二つが混ざった、もう見慣れた二属性の混合した魔槍だ。


「そちらはもう同じ芸当は出来まい?」


 意識を失っているシルフィの方をちらりと見て奴が言う。


「なぁに……手負いの魔族モドキなんて俺一人で十分だよ」


 衝撃を与えない様にシルフィを地面に横たえさせ、奴から彼女の身を庇うような形で前に立ち、剣を構え奴と対峙する。

 町を守り、何よりシルフィを護る為には……やるしかないか。


「その意気や良し。ならば私も残る力をこの魔法に注いで答えよう」


 妙に穏やかな表情でそう言い、奴は手に力を込める。

 すると奴が生み出した魔槍が一回り程巨大化する。


 ……先程迎撃した巨大な魔槍程大きくはないが、よく魔力が練られた良い魔法だ。

 そんな奴の魔力制御の巧みさに、思わずそんな感想を持つ。

 その制御技術の半分でも、俺にあればな。


「行くぞ……アルス!」


 落ち着きを取り戻した奴の言葉と共に、その精錬された魔槍が放たれた。

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