第39話 魔渦水空剣


「行くぞ、シルフィ!」

「はい、アルスさん!」


 俺達は手にした剣に意識を集中させる。

 俺は精霊を呼びその力を借りる事に。

 シルフィは俺が呼んだ精霊の力を纏める事に。

 それぞれ役割を決めて、それのみに集中し、そしてそれを掛け合わせる。


「……ほぅ」


 ニヤニヤと笑いながら俺達の様子を見ていた奴の表情が変わる。

 奴も察したのだろう、さっきまでと違う力の流れを。

 それを行っている俺達もそうだ。

 特に先程、二つの属性の力を掛け合わせるのに失敗している俺は、その違いを如実に感じている。


 先程は、別々の存在をぶつけ合わせるようなイメージ。

 今のこれは、丁寧に混ぜ合わせて融合させるイメージ。

 なるほど、これは俺には出来ない高度な魔力の扱いだ。

 シルフィがその魔力の制御を行ってくれるおかげで、俺は精霊の力を借りる事にだけ専念できる。


「……アルスさん!」

「あぁ……」


 シルフィがそっと、俺の手に添えた自身の手を離す。

 諦めた訳でも、失敗した訳でも無い。

 つまり……


「さぁ、ぶっつけ本番……やってみるか!」


 俺の手の中には、渦巻く水を纏った、巨大な竜巻の剣が収まっていた。

 凄まじい魔力を感じる。目の前の、奴の放った槍と引けを取らないくらいの練り込まれた魔力だ。


「面白い……面白いぞアルスゥ! やれるものならやってみろ! 砕けるものなら砕いてみよ! 勝負だ、勝負勝負勝負勝負ゥゥゥゥ!」


 奴は、もはや最初の頃にまだ見せていた理性や知性といったものを、欠片も感じさせない言葉と振る舞いを見せる。

 あぁ……言われなくてもやってやるよ。


「これで駄目なら他に手は無いしな……うまくいってくれよ!」


 俺は剣を振り上げる。

 その動きに合わせ、剣に纏わせた水の竜巻が天を衝く。


「……魔渦水空剣(ボルテクスブレイド)!」


 即興で名を付けた、その剣を振り下ろす。

 魔浄斬同様の動作。しかしその威力は魔浄斬の比ではなく、剣が下ろされるのに合わせて周囲の空気が切りさかれ巻き込まれ、散乱する瓦礫や地面を転がる石なども巻き上げ内に取り込みながら、奴の槍に向かい。


「いけぇぇぇぇ!」


 二つの、常識外れの魔法が激突する。


 ぶつかり合った瞬間、魔力同士の衝突で激しい衝撃が発生する……かのように思えた。

 しかし実際にはその俺の予想は大きく外れ。


 ザンッ!


「何!?」

「まじか!?」


 俺の放った一撃が、あっさりと奴の魔槍を切り裂く。

 その様子を見て、奴、そして放った俺自身も驚愕の声を上げる。


「アルスさん! さすがです!」


 この場でただ一人、シルフィだけがこの結果を確信していたかのように、その光景を見て喜びの声を上げる。


 こいつ、森でのサポートの時といい、さっきの巨人型との戦闘の時といい、なんだかんだ俺がどうにかすると信じて疑わないな……信じて、全力でサポートしてくれる。

 最初は、それだけ信じてくれる事が、むず痒い様な妙な感じだったが、今はそれだけ信用してくれる事が少し嬉しく心地良い。

 ……この短期間で、だいぶ変わったな、俺も。


 切り裂いた奴の魔槍が空中で崩れ落ち霧散する様子を眺めながら、そんな事を思っていると。


「それでこそ……」


 視線の先には、俯きわなわなと震える奴の姿。

 なんだ、またあの森での時みたいに急にぶち切れるのか?


「それでこそだアルスゥ! 私を倒した者があの程度で死なれてはなぁ! フハハハハハハ!」


 こちらに向けられた表情は喜色満面。

 急に切れるのも驚くが、これはこれで驚く……というか、気色悪い。なんだ、どうしたんだこいつ。


「この力を存分に振える喜びよぉぉぉぉ!」


 奴が叫んだ次の瞬間、俺は目を丸くする。

 目の前に広がる光景には見覚えがあった。

 あの森で戦った際に奴が見せた、俺の魔浄斬を何本もの炎の槍で迎撃した悪あがき。

 それと同じ光景が、目の前に再現されている。

 一本一本が、先程苦労して打ち砕いた炎を纏った岩石の魔槍に変えられて。


「嘘だろおい」

「……大丈夫です!」


 呆然とする俺に、後ろから掛けられる自信に満ちた声。


「私達と、精霊の力を信じて!」


 振り返ると、俺に向かってサムズアップをしながら頷くシルフィ。

 その、笑顔を浮かべ真剣に俺を見つめる表情からは、俺と、俺が手にする二人で作り出した魔法に対する全幅の信頼を感じる。

 そうだな、もう後は信じるしかないよな。お前と、お前と共に作り出したコレを。


「あぁ……やってやるさ!」


 シルフィに対して俺もサムズアップをして返し、奴に向き直り剣を握る手に力を籠め直した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る