第8話 ないならある所から 中編

「所で春蘭、張純様が言っていた者達ってわかるかな?」


「少しお待ちを」


春蘭は、そう言って部屋から出て行き

少しした後戻ってきた。


「こちらをどうぞ」


「ありがとう」


劉良は、木簡を受け取り中を見る。


…しかしうちの諜報のもの達はすごいな

前世でも欲しかった。


「…知らない名だな」


「そうでしょうね、

 大守様達には悪いですが

 報告を見る限り小物ですね

 劉良様は覚える必要もないです」


「しかし…ん?

 このお世辞を間に受ける愚か者って?」


「ああ、それはそのままの意味です。

 宴の席でのお世辞を招聘されたと

 勘違いして大守の誘いを蹴って

 洛陽に向かったそうです。」


春蘭は、呆れた様に呟く。


「いや、そんな事…本当に?」


「本当にです」


「…嘘だろ…」


劉良は、頭を抱える

まさか大守達を出し抜いた

狡猾な者だと思っていたのが

ただの愚か者だったとは、


「それでその者は、どうなった?」


「お調べいたしましょうか?」


「…いやいい」


調べなくても想像できる。


お世辞を言った者にとっては、

心の中では刺史や大守の顔に泥を塗った者

に怒り心頭だろうが受け入れねば、

刺史の誘いも断って来た者を

受け入れなかった人物として、

忌み嫌われるだろう。

その為、何か役職を斡旋しなければならない。


まぁその後は、

いつの間にか消えているだろう

刺史、大守、斡旋した者どの方向にも嫌われた者などに未来はない。


「そっか逆に良かったかもな

 大守は…こんな人物を手元に置かなくて」


「そうですね、

 ただこの男の本性に気づかなかったのは

 ダメだと思いますが」


「手厳しいね、

 …あっ!それで話は変わるんだけど

 春蘭あの頼んだ事はどうなったのかな?」


「申し訳ありません情報の整理に手間取り

 少しお時間を頂いております」


「ああそれなら明日でも」


「いえ!!今すぐ確認してきますので

 少しお待ちください」


そう言って春蘭は、部屋から出て行った。


「ええ…そんな急がなくても」


「ふふ春蘭は、

 若君にいい所を見せたいのですよ

 それで頼んでいた物とは

 私共もお聞きしても?」


「ああ、一緒に考えてもらいたい」


劉良は、食料品の高騰の件について話す。


「食料ですか…うちは、大半を荘園内で

 賄えてるので何とかなってますが

 外で買わなければいけない物は

 確かに上がってますね」


孤児院を経営する夏母が困ったように言う。


「秋季と冬項は?」


「そうですね私は、噂を聞くだけですが

 関係ある所で言えば

 商人が最近幽州で食料を買い漁って

 冀州の方に送っていると聞いてますよ」


「冀州に?」


その話しを聞いて冬項も何かを思い出し

「少し話は違いますけど

 贔屓にしている鍛冶屋が

 最近冀州から大量の鉄や木などの資材が

 大量にきてるらしく

 資材の価格が安くなって嬉しいと

 言ってました」


「それは、我々にとっても嬉しい事ね

 この幽州で屯田制が導入されてから

 色々な農機具や雑貨が品薄で

 鍛冶屋さんに頼んでも材料が

 品薄で高騰してるから

 割高になるぞと言われてましたから」


「そうなのか!?…知らなかった」


確かに屯田するとなれば

農機具や雑貨の消費する量が増えるだろう。


「ふふ、若君が知らなくても

 仕方ないですわよ」

 

「いや、反省だ

 屯田制を提案した私が

 のちの影響に気づけなかった」


「失敗から学びましたね」

 

「学び?」


『十の成功より一の失敗から学べ』

 

「…ああそうだな」


劉良は、夏母の言葉で

昔…田豊様に教えられた

言葉を思い出し懐かしさを感じた。


自分は、まだまだ未熟だな

あれほど口酸っぱく言われた

言葉を忘れるなんて…


「若君?」


夏母が心配そうにこちらを見る。


「大丈夫、少し昔の事を思い出しただけだから」


劉良は、そう言いながら微笑んだ。

 

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